第53話 恋人と友達、どっちを取る?

 俺たちは朝陽氏の準備を待つことになった。


 自分の家なので、親に言えばいくらでも仕事の融通は利くらしい。


 ……二人とも引き下がれなくなったのか、何故か朝陽も映画に行くことになってしまった!


「せっかくの初デートがなんでこんなことに……」


「オレ、ワルクナイ。シラユキ ガ アオルノガワルイ」


「なんで片言なのよ!」


 心の声だけを聞いていると、こいつら割と似た者同士なんじゃないかなぁ。そんなこと言ってしまうと、また焼け野原になるから絶対に言わないけど。


「お、お待たせ!」


 店の外にいると、すぐに朝陽がやってきた。


「ふんっだ。別に待ってないんだから!」


「いや、待っててくれてるじゃん」


 白雪さんのツンが朝陽にも発動してしまった!


「っていうか、朝陽、お洒落しすぎじゃない!?」


「普通だっつーの!」


 朝陽はスカジャンみたいな上着にスカートを着ている。六月なのに少し暑そう。


 一方の白雪は黒いワンピースに白い半袖のTシャツ。


 カジュアル系な朝陽に、おしとやか系の白雪。


 服装が見事に両極端だ。


「はんっ! 一体誰に見せる気なんだか!」


「見せる相手なんていないっていうの!」


「えっ、それはそれで寂し……」


「こ、こいつぅ……!」


 白雪が朝陽に毒を吐き散らかす。


 朝から元気だなぁ。


 白雪がクラスメイトに思う存分に毒を吐くの初めて見たかも。ちょっと感動しちゃう。


「……」


 絶対に良くないことだけどな!


「遠藤! あんたの彼女でしょ! どうにかしてよ!」


「俺に止められると思うなよ!」


「決め顔でなに言ってんの!?」


 朝陽が呆れながら肩を落とした。


「私、白雪のこと勘違いしてたかも……」


「なによ、勝手に期待して勝手にがっかりしないでよ」


「ぐぬぅ……!」


 言い争いでは圧倒的に朝陽が分が悪い。本場の口悪くちわるには、クラスの人気者も歯が立たないようだ!


「じゃあ、てる君行こっ!」


「お、おい!」


 白雪が俺の腕を組んできた。


「ひ、人の前でいちゃいちゃしないでよ!」


「いちゃいちゃしている前に勝手に出てきたのは朝陽でしょう!」


「さっきから勝手、勝手って言わないで!」


 朝陽がふくれっ面で俺たちの後をついてきた。朝陽のそんな表情初めて見た。


「白雪、せっかく三人で行くんだから仲良くしようよ……」


「むー、てる君は恋人と友達どっち取るの!?」


 テレビでアンケートでもやってそうな問題が白雪から出されてしまった。


 まぁ、普通に恋人だと思うけど……。


「こいび――」


「恋人でしょ!」


「自分で答えるんかい!」




※※※




 無事ではないけど、無事に映画館に到着した。


 道中も二人がなんやかんやとずっとうるさかった。


 別の意味でも映画を見るのが待ち遠しく仕方なくなってきた! 早く静かな空間でゆっくりしたい!


 白雪は、朝陽に見せつけるようにずっと俺と腕を組んでいる。


てる君、座席どうする?」


「三つ並んでいるところってまだ空いてるかな?」


「一つは離れていてもいいんじゃない?」


 チケットを買う機械を押しながら、わざわざ朝陽に聞こえるように白雪がそんなことを言っている。


「おいおーい、聞こえてるからね」


「あっ、いたんだ」


「白雪は既にお忘れみたいだけど、それ私と遠藤が見たいって言っていた映画だからね」


「私も見たくなったもん」


「さっきアニメ見たいとか言ってなかったけ? 白雪はそれ見てきたら?」


「ぐぬぬぬ……!」


 お互いに容赦がなくなってきた。


 傍から見れば仲良しに見れなくもないような気もする。


てる君! 私、朝陽の隣は絶対に嫌なんだけど!」


「はいはい、どうせ俺が真ん中でしょ。そんな気がしてた」


てる君が朝陽の隣も嫌なんだけど!」


「めちゃくちゃ言ってやがる」


 もう収拾付かないよこれ! 俺の人生初デートは大失敗だ!

 

「はぁ、もう私は離れた席でいいよ。チケットは自分で買うから」

(私だって二人の邪魔している自覚はあるんだから……)


「そ、そこまでは言ってないじゃん!」

(きゅ、急に大人しくならないでよ! 心が痛くなるじゃん……)


「言ってるようなもんじゃん」


「……」


「……」


 もう! 二人ともシンプルにめんどくさい!


「はい! 二人とも! 真ん中は俺が隣でいいでしょ! 白雪もワガママ言わない!」


「うっ」


「朝陽もそう言わずに一緒に見ようよ! せっかく一緒に来たんだから!」


 俺がそう言うと、二人とも静かにコクンと頷いた。


 初デートは大失敗かもしれないけど、遊びとしてはまだ諦めないぞ……! このままでは二人の仲はバッドエンドで終わってしまう!


 こうなったらピエロにでもなんでもなってやる。白雪と朝陽が仲良しになれるようにしなければ……!


「はい! じゃあ三人で飲み物でも買いに行こう!」


 俺はそう言って、二人の背中を押すことにした。




※※※




 映画館が真っ暗になる。


 スクリーンに供給会社のロゴが大きく映し出された。


 右には白雪、左には朝陽。


 学校の誰かが見たら、両手に花みたいに見えるだろうなぁ。どっちも毒持ちの花だけど。


 とりあえず、この時間はひと安心かな……。映画を見ている間は二人が揉めることもないだろう。



(わっ、真っ暗になった)



(ドキドキ、久しぶりに映画なんて見るなぁ。輝明てるあきと一緒に見たかった映画じゃないけど、これはこれで楽しみ!)



(どさくさに紛れててる君と手を繋いじゃって大丈夫かなぁ? 怖がった感じにすれば可愛く見えるかも!)



(うぉおおお! 画面ド迫力! ワクワク!)



(えへへ、朝陽がいるけどこうしてお出かけるするのは楽しいなぁ)



(ゾンビきたきたきたーー!)



(うわっ、ゾンビのメイク安っぽい)



 よし! こいつらと映画を見に行くのはこれで最後にしよう。


 黙ると心の声がうるさくて集中できねーよ!

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