第52話 白雪と初デート 2

 よし……!


 ここはびしっと言ってやらないと! ダブルで心の声が聞こえてきたから、思ったことをしっかり言ってやる!


「二人ともッ!」


「「ん?」」


 二人の声がダブっている。


「仲良く――」


「「……」」

((なんだこいつ))


「してほしいなぁ……なんて」


 心の声までダブりやがった……。こんなの一気に意気消沈だよ。


「大体、誰のせいでこうなってるのよ」


「そうだ! そうだ! 彼女ができた途端に、急に交友関係に前向きになるからだ!」


「それは確かに! てる君って友達いなかったのに!」


「話しかけるなオーラすごかったもんなぁ。私、最初に話しかけたときはかなり勇気を出したよ」


「分かる~。私なんて子供の頃から知っているのに中々話しかけられなかったもん」


 こいつら、人のことボロカスに言いやがって……!


 共通の敵を前に二人が団結してしまった。


 いいさ、いいさ、それで二人のわだかまりがなくなるなら喜んで犠牲になるさ。


 この事件は遠藤レクイエムって名付けてやる。


「ふんっだ」


 半ばやけくそになって、朝陽がもってきたコーヒーに口をつける。


「お」


「どうしたの?」


「美味しい! 白雪も飲んでみろって!」


「へぇ~」


 白雪もゆっくりとコーヒーに口をつけた。


「あっ、本当だ美味しい。上品だけど深みがあるっていうか」


「な! やっぱりうちのコーヒーとは全然違うなぁ」


 うちのコーヒーだとどうしても雑味が出ちゃうんだよなぁ。酸味・苦味・濃さ、どれをとっても俺好みのコーヒーだ!


「毎日飲みたいくらいかも」


「むっ」

(そんな味噌汁みたいに言ってぇ……)


「と、思ったけどそんなお金はありませんでした!」


 あぶねっ、地雷を踏みぬくところだった。これ以上、爆発源に突っ込むのは絶対にごめんだ。


「でも、本当に美味しいよ朝陽!」


「……?」


「朝陽?」


 あれ? 褒めているのに全然朝陽が嬉しそうじゃない。


「うちのコーヒーって美味しいんだ」


「かなり美味しい!」


 白雪も「うん」と頷く。


「私、コーヒーの味は全然分かんないや」


「なんだそりゃ!」


 思わずズッコケそうになってしまった。




※※※




「で、今日はどこに行くの?」


「本屋さんとかどう?」


「あっ、私、欲しい漫画あったかも」


 コーヒーを飲みながら、今日の行先を考える。


 白雪って意外とサブカル好きだもんなぁ。


 それにお金はないけど、おしゃれな服屋さんとか一緒に行ってみるのも面白いかも。


 映画だって喜んでくれるだろうし、ゲーセンだって白雪は好きだよなぁ。


 安いファミレスでも喜んで食うだろうし、散歩しているだけでもニコニコしてついてくると思う。


「……」


 あれ? こいつ、どこでも良いんじゃないか疑惑が……。


「映画とかはどう? 映画館の一階にゲーセン入っているし」


「たまにはいいね。私、魔女の宅配ボックス見てみたい」


「アニメじゃん」


 携帯を見ながら、次の行先を白雪と考える。



(映画……)



 店員さんの目が怖い。心の声も怖い。


 狭い喫茶店で、しかも今はお客さんが俺たちしかいないので会話が筒抜けだ。


「俺、これ見たいんだけど」


 朝陽と見たいと言っていたやつとは別のやつを検索し白雪に見せた。


「なにこれ?」


「デッドフォーリング3! ゲームが原作の映画!」


「えー、いきなり3から見るの?」


 うーん、イマイチか。白雪の反応が思ったよりも良くない。じゃあ今日は白雪が言っていた映画でもいっか。


 そんなことを思っていたら――。


「遠藤、それ知ってるの!?」


 朝陽が俺たちの会話に混ざってきた。


「う、うん。ゲームちょっとやってたから」


「あれだよね! ゾンビが踊りながらアクションするやつ!」


「そうそう! ジャンルにホラーってついてないから馬鹿ゲーみたいなやつ!」


「生き残った人を助けようとすると、ゾンビがあからさまに襲ってこなくなるんだよね! ゾンデレとか言われて面白かった!」


 さすが朝陽! 知ってるんだ! やっぱり趣味が合う――。


「……」


 白雪が肘を立て、両手を口元にもってきて、俺たちのことを見ている。


 あれだよ、あれ! 某人型決戦兵器にに出てくる司令官のポーズしているよ!


 とても、ねっとりとした視線を俺たちに向けている。


てる君……」


「はい」


「私、執念深くて嫉妬深いから」


「怖っ!」


 ニコニコしながら白雪が俺にそんなことを言ってきた。言っている言葉と表情のギャップがありすぎる!


「あはっ……あははははは!」


「?」


 急に朝陽が笑い始めた。


「本当の白雪ってそんな感じなんだ」

(なーんだ、そんなに私たちと変わらないじゃん!)


「むっ、どういう意味よ」

(急に馬鹿笑いして! 失礼なやつ!)


「だって前とは全然違うじゃん!」

(こっちのほうが親しみやすいかも。本音で話してくれている感じがして)


「よく言われるけどそんなことなくない?」

(白雪姫やっているのに疲れただけだっつーの!)


「そんなことしかない」

(白雪って案外、彼氏で変わるタイプなのかもなぁ。絶対、捨てないでって泣いてすがるタイプじゃん)


「な、なによ! 最近の朝陽だってちょっとおかしかったじゃん!」

(隙あらばてる君と仲良くしようとしているくせに! この泥棒猫!)


「それは言わない約束じゃん! 私だって色々あるの!」

(そ、そこはわざわざ触れなくてもいいじゃん! この依存系彼女!)


「色々ねぇ~」

(ふんっだ。もう私たちの間に入る隙間なんてないんだから。モブは引っ込んでろ)


「白雪のそういう余裕ぶってそうなところちょっと嫌!」

(そんな態度ばっかり取っていると、そのうち愛想つかれるからな! よく、輝明てるあきも付き合ってるよ!)


 毒リンゴの送り合いがひどすぎる。さすがの俺でもこの心の声には反応できないよ……。


「余裕ぶってそうじゃなくて余裕なんですー!」


「ふーん、じゃあ私が遠藤と映画に行っても大丈夫ってこと?」


「べ、別に平気だし!」


「じゃあ、遠藤! デッドフォーリング見にいこ!」


「はぁあああ!? だったら私も行くに決まってるじゃん!」

(なんでそうなる! ただの間女じゃん!)


「全然、余裕ないじゃん」

(し、しまったぁ……映画に行くとか言い過ぎちゃった……)


「それとこれとは話が別でしょう!」

(い、言い過ぎたぁ……平気とか言わなきゃ良かった……)

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