第51話 白雪と初デート 1

 次の日の朝。


 本日の天気は気持ちが良いくらい快晴だ!


「だーかーら! たまたま朝陽と会っただけだって!」


「じゃあ、なんでわざわざ夜に外出してたの!?」


 逆に白雪の気持ちは荒れ模様……。


「こっそりリレーの練習してたの! 全然、こっそりじゃなくなったけど!」


「あやしい」


「やましいことがあったら、お前に朝陽と会ったなんて言うかっ!」


「はぁ!? なにそれ! じゃあ言わないこともあるってことじゃん!」


「ああ言えばこう言うーーー!」


 時間は朝の六時。学校は休みのはずなのに、いつもより早い時間に白雪がやってきた。


「この浮気者!」

(この浮気者!)


「どこがだ! そんなこと言ったら告白されていたお前のほうが浮気みたいなもんじゃん!」


「あれは事故みたいなもんだから」

(テロリストの話はしないでほしい)


「テロリスト扱いされる先輩可哀想……」


「あんたはどっちの味方をしているのよー!」


「痛い痛い!」


 寝起きから白雪にもみくちゃにされる俺。朝から遠藤家は大騒ぎだ。


 つい心の声に反応してしまったが、白雪は全く気にしていないようだ。


「あんたらも飽きないねぇ」


 母さんがあくびをしながらやってきた。


「母さん、助けて! 白雪が狂暴化してる!」


「だれがバーサーカーですって!」


「そこまでは言ってない!」


 あーあー! せっかくの休みなのにこれでは台無しだ!


 白雪なんて、スカートがめくれるのも気にしないで俺に取っ組みかかってくるし。


「白雪ちゃん、朝ご飯食べるでしょ?」


「いただきます!」


「はーい」


 母さんは俺たちのやり取りを一切気にしていない。もはや、付けっぱなしのテレビと同じくらいの感覚になってしまっている。


「どうやったら機嫌直るの!?」


「ちゅーかぎゅー!」


「だ か ら! そこに母親がいるんだよ!」


「じゃあ直らない!」


「子供かっ!」


 なーにがクラスの白雪姫だ! キャラ崩壊もいいところだ!


 ……そうだ! こういうときはあれを言ってみよう。


「白雪!」


「なによ!」


「今日、デートに行かない!?」


「行く!」


「早っ!」




※※※




 こうして俺たちはデートに行くことになった。俺と白雪の記念すべき初デートだ。


「ねぇねぇ、今日はどこに行くの?」


「ふっ、ミスターノープランと呼んでくれ」


「つまり全然決まっていないってことね」


 きつい口調でも白雪の顔は笑っている。


 意外とちょろいな白雪さん。


 心の声こそ聞こえてこないが、浮かれている気持ちが俺にも伝わってくる。


「あーあー、デートするならもうちょっとお洒落してくれば良かったな」


「それは本格的なデートのときに取っておいて」


「本格的なデートってなに?」


「遠出とか泊りとか? 今日は予算の関係で近場になっちゃうけど」


「えへへ、じゃあそっちも楽しみにしてる」


 時間は朝の九時前になっていた。


 お店はまだどこもやっていない時間だ。


 だが……!

 

「じゃあ、とりあえず駅前の喫茶店に行ってみようか。そこならこの時間でも開いているから。たまにはうちじゃないコーヒーでも飲んでみよ!」


「うん!」


 喫茶店はうちから徒歩十五分ほどなので、散歩するにも丁度いい距離だ。


 確かに今日自体はノープランだったが、デートのことを全然考えていなかったわけではない……!


 前に白雪からデートという言葉が出たときに、色々考えていたのだ。


 長年の付き合いから、白雪が好きなものはバッチリ把握している。今日は俺に任せておけ!


 と、息巻きながら駅前の喫茶店に向かったのだが……。


「いらっしゃいま――」


 喫茶店に入ると、店員さんの元気な声が聞こえてきた。


「すみま――」


 ……と、同時にお互いの声が中途半端に止まってしまった。


「失礼しましたー!」


 なんか見てはいけないものがいた気がする。


 ふぅ、気のせい気のせい。よし、店を変えよう!


 なんか緑のエプロンをした朝陽が見えたような気が――。


「アホか! 逃げられる方が気を使うわ!」


 気のせいじゃなかった! 何故か朝陽が喫茶店にいる!


 そのまま退店しようとしたら、朝陽に服の裾を掴まれた。


「な、なんで朝陽がここにいるのさ!?」


「なんでってここがうちだけど!?」


「えっ」


 白雪もきょとんとした顔のまま、朝陽に質問をする。


「ここって朝陽の実家なの?」


「うん、クラスでは結構有名なはずだけど」


「知らなかった」


 oh……。隠れぼっちの白雪さん、クラスメイトの情報をなにも知らない。俺が言えた口ではないけど。


「朝陽、私たち帰るね」


「二人揃って、帰ろうとするな! 店に入ったんだからせめて金を置いてけ!」


「恐喝じゃん」




※※※




 何故だ。どうしてこうなった。


 ネットで評判良いからずっと気になっていたお店なのに。


 口コミで店員さんが可愛いって書いてあったけど、あれって朝陽のことだったのか。大人な雰囲気のする店なので、デートにはもってこい場所だと思っていたのに。


「これじゃ、せっかくの初デートに異物混入じゃん」


「ぐっ……」


 知らずとはいえ、朝の喧嘩の原因に神風特攻してしまった。俺の中で、今一番相性の悪いホットな二人なのに……。


「大変お待たせしました~」


 朝陽が注文したコーヒーを持ってきた。


「えっ、喧嘩してるの?」

(えっ、怖い)


「喧嘩しているように見える?」

(喧嘩なんかしてないもん!)


「ちょっとだけ見える」

(でも、ちょっと胸がスッとしちゃったかも……)


「ぜーんぜん喧嘩なんてしてないもん! ね? てる君!」

(朝陽のせいでしょ! 可愛いエプロンなんかしちゃってムカつく!)


 やっぱり女子の心の声って怖いよぉ……。

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