第48話 愛してますけど、なにか?

てる君の知り合い?」


「馬鹿ッ! 四月にお前に告白していた先輩だよ!」


「そんな人もいたような、いなかったような」


 なんで俺の方が覚えてんねん! 手の甲で思いっきり白雪のことをツッコミたくなってしまった。


「なにか用ですか?」


「話がしたいなと思って」


「私はしたくないので結構です」


 ひぃいい。塩い、ひたすら塩い。


 俺なら既にメンタルが崩れ落ちている。


てる君、行こ」


「ちょっと待ってってば!」


 名前も知らない先輩が白雪の腕を掴もうとした。


 さすがにそれは俺も見逃せない!


「白雪に触らないでください!」


 俺は先輩の手を掴み上げた。


「なんだよ、おい! 鈴木さん! 本当にこいつと付き合ってるの!?」


「周知の通りですが」


「なんでそいつなのさ!? 鈴木さんならもっと良い人と付き合えたでしょう!?」


「むっ」


「あのときはさ、色々イキって言い過ぎたけどさ! 俺、本気だから! 友達から始めない!?」


 この前、告白現場を目撃したときはまた違う胸のもやもやが襲ってきた。


 焦げたような、すりおろされたような、そんなじりじりした痛みがする。


「俺ならクラスのカーストとか、学校のヒエラレルキーとか、鈴木さんとも釣り合うと思う!」


 先輩が声高に白雪にそう告げる。同時に白雪が眼光鋭く先輩のことを睨みつけた。



(わわっ、てる君が王子様みたいに私のこと守ってくれている!)


(きゃー! 憧れのシチュエーションかも!)


てる君っていざとなったら男らしくなるよなぁ。きゅんきゅんしちゃう!)



 掴んでいた手がつい緩みそうになった。


 いや、見た目とのギャップよ! 


 せんぱーい、こいつの中身こんなんですよ! ちっとも人の話を聞いてませんよ!


「せめて俺と連絡先くらいは交換してよ」


「なんで交換しないといけないんでしょうか?」

(んふふ~、てる君が心配そうな顔で私のこと見てる)


「友達からならそれくらい普通でしょう」


「あなたみたいな友達いりませんので」

(仕方ないなぁ、朝陽のことは許してあげますか! そんなに私のこと好きなんだもんね!)


 外は激辛、中は激甘。


 とんでもないクセつよ料理がお出しされている。


 相変わらず、先輩は全く眼中にない。ここまでしてくるのだから、先輩も相当な覚悟できているだろうに。


 ほっとすると同時に、ちょっとだけ先輩が可哀想になってきてしまった。


「……先輩、俺たちもう付き合ってますので」


「なんだよお前! いきなり現れてなんなんだよ!」


「そう言われましても……」


 いきなりではないんだけどね。ずっと白雪の近くにいたんだけどね。


「白雪が嫌がっているので、大声出すのやめてください!」



(か、カッコイイ!)


てる君ってなんだかんだで優しいよね~)


(うんうん! たまにはこういう有象無象の告白してくるやつも役に立つじゃん!)



 嘘ついちまった! 全然、嫌がってない!


 かなりひどいこと言われますよ先輩……。いや、言われてないけど。


「鈴木さん! いきなり彼氏を作ってどういうつもりなの!? もしかして男避けとか!?」


「男避け?」


「付き合ったことにすれば、誰も寄ってこなく――」


 あっ、白雪がとても良い顔でニコっと笑った。


 やばい! これは完全に爆発するときの顔だ!


「馬ッッッッ鹿じゃないの! そんなので誰かと付き合うかっての! クラスカースト? 学校のヒエラルキー? 全ッッッ然、そんなのに興味ないんですけど! 友達から始めたい? 私はあんたみたいな友達いらないって言ってるの!」」


 久しぶりに白雪の本気の罵声が飛んできた! 更に白雪が追撃する!


「大体、下心丸出しのあんたと友達になれるかっ! 私はてる君さえいてくれればそれでいいの!」


 白雪の勢いに先輩が沈黙してしまった。


 毒吐き白雪姫が久しぶりに復活してしまった……。


「……鈴木さんは、本当にこいつのこと好きなの?」


「愛してますけど、なにか? うちのてる君のことこいつとか言わないで」

(愛してますけど、なにか?)


 白雪の言葉に、自分の顔がぼっと赤くなったのが分かった。


「やっぱりイイ……!」


 先輩がそんなことを言っているのが聞こえてしまった……。




※※※




 夜、白雪とゲームをやりながら考える。


 もしかしたら今の俺が朝陽にできることは、なにもないのではないだろうか。


 白雪がそう言ってくれたように、俺も白雪さえいてくれればいいのではないだろうか。


「はい、私の勝ち~。てる君、クソ雑魚じゃん」


「ぐぅ……」


 ゲームは白雪に五連敗中。絶不調だ。


「まーた、私以外のこと考えているでしょう」


 ぷくっと白雪の真っ白な頬が膨らむ。


 そうだよ、俺にはこんなに可愛い彼女がいるんだよ。


「いや、白雪のこと考えてた」


「ふぇ!?」


 俺は白雪が大好きだ。


 だから、仮に朝陽が俺に好意を持ってくれていたとしても、それに応えることはできない。


 だったら距離を取るか、白雪みたいにバッサリ切り捨てるかしか――。


 うわぁあああ! 頭がぐちゃぐちゃする!


 なんか自惚れているような気がする!


 俺が朝陽を切り捨てるって何様のつもりだよ! 前提として、俺は今日の先輩と違って、朝陽と仲良くしたいわけだし……。


「えへへ、今日は守ってくれてありがとね」


「す、素直ぉ……」


「だって、本当にそう思っているから!」


 それに俺は、ここまで思ってくれている白雪に対してなにができるのだろう……。


 俺は恋人として白雪になにをしてあげられるのだろう。

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