第46話 思ったことを言う[傷]

「可哀想な白雪ちゃん……」


「うぅ」

てる君の馬鹿! おばさんに甘えて、味方をしてもらおう)


 白雪が母さんの前で泣きをしている。


 こんにゃろう……全部、聞こえてるんだからな……!


「母さん、全部聞いてたでしょう! 俺、悪くないよね!?」


「うん、全部輝明てるあきが悪い」


「うそぉ!?」


 解せぬ。あまりにも解せぬ。


 どうやら俺の味方はいないようだ。


 なーにが浮気だ!


 このままでは浮気アンチになりそうだよ! 意味がちょっと違う気がするけど。


「せっかくね、今が一番楽しい時期なのにねぇ」


「楽しい時期?」


「付き合い始めが一番楽しいって言うでしょ?」


「そうなんですか?」


 母さんと白雪の話がどんどん脱線していく。


 あーあー! もうめんどくさいからお風呂にでも入ってこよ!


「白雪ちゃん、喧嘩したときの仲直りの方法教えてあげるね」


「聞きたいです!」


「昔からね、喧嘩した夫婦は一緒にお風呂に入ると仲直りできるっていうのよ」


「お風呂?」


「お風呂に入ると全部リセットできるんだって。私も昔――」


 おぇえええ……そんな話、聞きたくないよ母さん……。


 白雪が来るようになってから、家族のそういう話がオープンになりすぎてないか……?


てる君! 一緒にお風呂入ろう!」


「俺たち喧嘩はしてなかったよね」


 早速、白雪が影響されてしまった。




※※※




 次の日の朝、学校。


 今日も一緒に白雪と教室に入る。


 よし、決めたぞ。


 もし朝陽の心の声が聞こえてきたら、白雪のときと同じように思ったことを言おう。


 自分だけが心の声が聞こえてしまうなんてやっぱりアンフェアだ! 言いたいことも、言いづらいこともはっきり言ってしまおう。


 それが友達ってもんだろう、多分。


「おはよう朝陽!」


「ちょっとてる君! 私よりも先に誰に挨拶してんのよ!」


「お前は朝、挨拶しただろうが!」


 なんでそうなる。早速、白雪に出鼻をくじかれた。


「あははは、朝からにぎやかだね」


 朝陽に困ったような顔で笑われてしまった。気を使われているのが、心の声なんて聞こえなくても分かってしまった。


「白雪、昨日はどうもね」


「うん、また行こうね」


 ……白雪と朝陽が普通に会話をしている。


 仲悪いわけじゃなさそうなんだけど、微妙に距離感を感じるんだよなぁこの二人。


てる君、浮気しないようにね」


「俺への信頼度がゼロすぎる」


「信頼はしているよ。心配もしているけど」


 俺にそう言って、白雪は自分の席に向かっていった。


 最後までやったらねっとりした視線を感じた。


「本当の白雪ってあんな感じなんだね」


 ひとり言のように朝陽がそんなことを呟いたのが聞こえてしまった。


「本当の白雪?」


「ほら、白雪ってどちらかというと優等生のイメージがあったじゃん」


 確かに前とは信じられないくらい変わったよなぁ。あまりの変わりっぷりに周りが困惑するのも仕方ないと思う。思っていたことを表面に出すことができるようになっただけなのは、俺だけが知っていることだしね。


「前よりずっと楽しそうだよ。羨ましいなぁ」


「羨ましい?」


「あっ」

(し、しまった。口を滑らせた……)


「……」


 聞こえてきてしまった。


 二度も三度もあれば、これが朝陽の心の声だということはもう間違いない。


「き、昨日、散々惚気のろけられたからさ」


惚気のろけ?」


「白雪がさ、付き合うともっともっと好きになるって言ってたよ。だから羨ましいなって」


 今日の朝陽はいつもと変わらずに話してくれるようだ。


 でも、とりあえず白雪のその話はスルーだな! 掘り下げられるとめちゃくちゃ恥ずかしいから!


 話を誤魔化すためにも、俺はあの話をすることにした。


「……朝陽、ちょっと前に約束していた話なんだけどさ」


「約束?」


「映画の話。いつ行く?」


「うーん」

(行くわけないじゃん、彼女持ちと)


 悩んでいるように見せかけて、速攻で答えが聞こえてきてしまった。わ、割と楽しみにしていたのでショックだ。


「多分、白雪も行くっていうけど……」


「じゃあ遠慮しておく。私、邪魔者になっちゃうもん」


 くぅ……確かに逆の立場でもそれは行きづらい。


 朝陽との会話はここで終了してしまった。


 ……俺のワガママでしかないのかなぁ、前みたいに仲良くしたいっていうのは。 


 女々しい男だなぁとは自分でも思う。


 つまるところ、俺は朝陽と前みたいに趣味の話で盛り上がって、前みたいに楽しく会話をしたいだけなのだ。


「……朝陽さ」


 勇気を振り絞って、自分の思ったことを言うためにもう一度朝陽に声をかけた。


「ん?」


「前は俺のこと名前で呼んでくれてたじゃん。どうしてやめちゃったの?」


「……」


「俺、嬉しかったんだよ。名前で呼ぶって言われて」


「うっ……」


「俺さ、朝陽に友達って言われて本当に嬉しかった! あのときはすごく前向きになれたんだ!」


「……」


「だからさ、できれば前みたいに話がしたいな。朝陽と話しているとめちゃくちゃ楽しいから! 俺たち友達だろ!」


 思ったことを全部言った。自分の気持ちを素直に吐き出した。


「わ、私だって楽しかったけど……」

(そ、そんなこと言われても……)


「じゃ、じゃあ前みたいに――」


「それは無理!」

(そんなこと言われてもっ!)


 急に朝陽が席から立ちあがった! 


 ふいの大声に教室にいる何人かの視線が俺たちに集まった。


「えっ! なんで!?」


「私だって分かんない!」


「分かんないってどういうこと!?」


「分かんないもんは分かんないの!」

(私だって前みたいに話したいよ! 仲良くしたいし映画にも行きたい!)


 朝陽の心の声が強く聞こえてきた!


「遠藤は自分の気持ちを全部言い過ぎ! あんたと話しているとすっごく傷つく!」

(あんたが彼女作るのが悪いんでしょ! この馬鹿ッ!)


「えぇええ!?」


 ついに朝陽にまで毒を吐かれてしまった!

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