第42話 戻る日常と変わる日常!
白雪の家出騒動から数日が経った。
白雪は無事家に帰宅。
おばさんとは前よりも良好な関係を築けているようだ。
遠藤家の俺の部屋は白雪用の部屋としてそのままになっている。
白雪がうちにいつ来てもいいように……とはうちの母さん談。
完全に乗っ取られた。
絶対に母さんは白雪に甘いと思う。
こうして遠藤家も通常運転に戻り、いつもと変わらない日常が戻ってきた……かのように見えた。
「てーる君! ご飯行こっ!」
「やめろ! くっつくな! みんな見てる!」
「別にいいじゃん。私たち付き合ってるんだし」
「良くねぇし! それがみんなの前でくっついてもいい理由にもなってないよ!」
「ふーん」
(なにその煮え切らない態度。このビビリ)
白雪の学校での態度が豹変!
学校でもこんな風に普通に甘えてくるようになってしまった。
「なんであいつが白雪さんと?」
「信じられない。この前、二人とも休んでたよね? まさか……」
「はぁ、なんかダメージでかいんだけど……」
「信じられねぇー。絶対に白雪さんは年上と付き合うと思ってた」
「遠藤だっけ? どうやって白雪さんと付き合えたんだよ」
「白雪、なにか弱みでも握られてるんじゃない?」
大きな……とてつもなく大きなひそひそ話が聞こえる!
きっつー……。
視線はやたら感じるし、教室にいると生きた心地がしないよ。
「なにしてんの? 早く行こうよ」
「白雪って弁当じゃなかったっけ? 俺、今日は購買なんだけど……」
「えっ、今日は私が
「はぁあ!?」
その一声でドッと教室がざわめき立つ。
「白雪さんのお弁当!? 金払ってでも食べたいんだが!」
「俺、千円までなら出せる!」
「なら俺は二千円!」
「じゃあ俺は三千円!」
オークションじゃないんだよ馬鹿!
心の声なんて聞こえなくて、男子連中の妬みやひがみをひしひしと感じてしまう。
「校庭にベンチがあるからそこでいいよね?
「し、白雪のメンタルの強さにはびっくりだよ」
「あはは、私、元から中身はこんなもんだよ」
(早く行くぞ、馬鹿)
お互いの思いが通じてからは、白雪は心の中で毒を吐くようになってしまった。
これはこれでどうなのかなぁとは思う。
「じゃ、じゃあ
「うん」
隣の席の朝陽に声をかけて白雪を教室を出る。
勉強疲れかな? どこか元気がないような気がする。
「はぁ!? 彼女と出かける前に他の女に声をかけるってどうなってるのよ! 浮気!?」
「ど こ が 浮 気 だ! 普通だろうがよ!」
……いつもと同じ毎日だけど、確実に前とは違う毎日。
全部、間違いなく白雪のせいだ。
「今日はね、から揚げに挑戦してみたんだよ!」
「またから揚げかよ!」
「なによ、せっかくお母さんに習ったのに」
※※※
「白雪、ちょっとそこの神社に寄って行かない?」
「神社?」
学校の帰り道、俺は白雪にそう提案してみることにした。
「いいけどなんで?」
「お願いしたいことがあるから。あと、恥ずかしいから離れて」
「やだ」
(やだ)
白雪がずっと俺の腕に組みついている。
こ、こんなのただのバカップルだよ。
学校内でなくてもご近所さんで悪目立ちしちゃってるよ。
「お願いごとってなにするの?」
「秘密」
「むっ」
……前にも一回、試みたけど、今度こそ白雪の心の声を消してもらおうと思う。
この心の声のおかげで、俺は色々成長できた。色んな見方ができるようになった。
――でも、もう今の俺たちには必要ないや。
お互いの気持ちも伝えたし、お互いの気持ちを考えることができるようになったと思うから。
それに、既にお互い言いたいこと言い合ってるしね。
赤い鳥居をくぐり、古びたお賽銭箱の前にやってきた。
「おりゃぁああああ!」
「な、なにしてんの!?」
財布の中の小銭を全投入した。白雪がそれを見て素っ頓狂な声をあげている。
「ど、どうしたの急に!?」
「ご利益あるようにと!」
「お、お金持ちぃ……」
「自慢じゃないが金はない」
ぱんぱんっと手を叩いて頭を下げる。
神様、神様、もう心の声なんて聞こえなくて大丈夫です。
白雪とずっと一緒にいられれば、心の声なんて聞こえなくて大丈夫です。
あと、お金持ちになりたいです。
頭も良くなりたいです。
親がずっと健康でいられるようにお願いします。
白雪のうちもずっと仲良く元気でいられるようにお願いします。
後は――。
(
隣の白雪からお願いごとが聞こえてきてしまった。
俺とほとんど同じことを考えてやがる。
(
白雪が必死にお願いをしている。
……ふと、これから訪れる夏を感じさせる風が頬を撫でた。
(
白雪の心の声は、そっと青い空に溶け込んでいった。
今日は雲一つない綺麗な青空だ。
「どうしたの
「い、いや……」
「変なの」
白雪の心の声が聞こえてこない……気がする。
「ねぇねぇ、なにをお願いしたの?」
「白雪とずっと一緒にいたいなって」
「えへへ、私もだよ」
「一緒じゃん」
ほんのりと寂しさを感じながら、笑顔で白雪にそう返した。
……俺、白雪の心の声も相当好きだったんだな。
全部、白雪本人なのだから当然とはいえば当然なんだけど。
「
「言わなくてもくっつくくせに」
「分かってるじゃん」
白雪が幸せそうな顔で俺の腕を組んできた。
みんながみんな心の声が聞こえれば、お互いを思いやれて、世界が平和になるのかなぁ……なんてことを思ってみたり。
「白雪、帰ろうか」
「うん!」
白雪と並んで、帰路に着く。
童話の白雪姫はキスをしてハッピーエンドだったが、俺たちにはその先がある。
次なるハッピーエンドに向けて頑張らないと。
「ところで
「ん?」
「中間テストどうだった?」
「聞くな!」
一学期中間テスト、俺は見事にバッドエンドを迎えた!
第一章「白雪姫と心の声」 ~完~
第二章に続く!
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