第40話 心の声が聞こえなくても!
……白雪のやつ、これは相当爆発しているなぁ。
今までの自分の行動を思うと胸が痛くなってきた。
クラスの白雪姫――。
なんとなく、そんな気はしていた。
だって、白雪ってクラスで本当に仲良さそうな人がいないかったから……。
みんなに合わせてばっかりだったもんな。
思えば鈴木白雪として、白雪が楽しそうに話しているのを一度も見ていなかったような気がする。
「母さん! 俺、ちょっと行ってくる!」
「えぇえ!? どうしたの突然!?」
見守ろうと思っていたがやっぱりやめだ! なにがカッコつけて今の俺ではおばさんの心を動かすことができないだ!
馬鹿なくせに色々考えやがって!
白雪に今の俺の気持ちを伝えたい。
おばさんに今の自分の気持ちをぶつけたい。
俺は白雪の声が聞こえているほうに走り出してしまった。
※※※
「だから! 私のことは私自身で決めるって言ってるの!」
「白雪はまだ子供なんだから――」
白雪たちの声がはっきり聞こえてきた。
この前と同じ一階の応接間で話しているようだ。
ということは掃き出しの大きな窓があるはずだ!
「白雪、そういうことはもっと――」
コンコン
窓を叩いた。
「おばさん! おばさん!」
「……」
おばさんが俺の音に気づいて、窓の方に近づいてきた。
「また、あなた?」
ガララと掃き出しの窓が開く。
俺の顔を見ると、おばさんはあからさまに嫌そうな顔をした。
少し前の俺ならそれだけで怯んでいたと思うけど――。
「お邪魔してすみません! でも、言いたいことがありまして!」
「言いたいこと?」
俺は勢いよくその場で土下座をした。
「この度はすみませんでしたーーー!」
土で制服のズボンが汚れるとか、そんなこと全然気にしていなかった。
「え?」
「俺、白雪のこと好きです! 好きだって気づいたのはつい最近でしたけど、多分子供の頃からずっと好きでした!」
「……」
「でも、白雪が一生懸命頑張っている頃に俺はなにもしてませんでした! そんな俺が白雪とどうこうしようというのは、おばさんから見たら面白くないのは分かります!」
「……」
「この前、お立ち寄りしたのは、そんな自分を変えるため白雪と勉強するためです! でも好きな子と勉強するって聞いて浮かれちゃいました! やましい気持ちがあったのは確かです! エロい気持ちもありました! だから隠れちゃいました!」
俺は、おばさんにも全部馬鹿正直に話すことにした。
「白雪がうちに家出してきたときはめちゃくちゃ嬉しかったです! 好きな子が俺を頼ってくれて嬉しかったです!」
「……」
「正直、俺におばさんの気持ちは分かりません。でも、おばさんが白雪のことを目にかけているのだけは分かります」
「……っ!」
……自分でも言った通り、俺におばさんの気持ちは分からない。
「この前言われた、白雪が優秀だっていうのも分かってます。だって、白雪はクラスで“白雪姫”って言われているくらいだから……」
普通は心の声なんて聞こえないんだから、そんなの当たり前だ。
「でも、俺は優秀だから白雪を好きになったわけじゃないです! 良い大学、良い会社に入る白雪だからじゃなくて……クラスの白雪姫だからじゃなくて……」
だから、本当は自分から思ったことを言わないとダメだったんだ!
心の声なんて聞こえなくても!
「俺、鈴木白雪のことが好きなんです! アホ面でから揚げ食っている白雪が好きなんです! 意外に子供っぽいところとか、素直じゃない白雪のことが好きなんです!」
「……」
「俺! 毒を吐く白雪のこと大好きなんです!」
思っていたことを全部吐きだした。
――周囲がしんっと静まり返る。
下を向いているから、二人がどんな表情をしているか分からない。
「だから好きな子には笑っていてほしいんです! 喧嘩なんてしないでおばさんと仲直りしてほしいです! お願いします!」
「ぷっ……」
誰かの笑い声が漏れたのが聞こえた。
「あーはっはっはっ! ここまで思っていること全部言う人間初めて見た!」
笑い声の主は、白雪でもうちの母さんでもなく、白雪のおばさんのものだった。
「お、お母さん?」
「あーはっはっはっ! だって、毒を吐くあんたのことが好きだなんて! しかも、親の前でエロい気持ちがあったなんて言うなんて!」
自分の顔が赤く染まっていくのが分かる。
や、やばい、恥ずかしくなってきてしまった。
ま、また、やっちゃった……?
白雪の心の声を聞いていたら、いてもたってもいられなくなってしまった。
「本当に変な人」
「うっ」
ぐさり。
心臓を言葉のナイフで貫かれた。
「この前も言ったけど、遠藤君は昔から常識無かったよね」
「うぅ……」
「普通、女の子と一緒にゲームはやらないでしょう」
「はい?」
「しかもボコボコにして白雪を泣かせたんでしょう?」
そんなことあったような、なかったような?
子供の頃はそんなの割とよくあった話なので、一体いつのどれの話をしているのかさっぱりだ。
「お母さん! いきなりなに言ってるの!?」
「練習するから同じゲームを買ってきてなんて、初対面の私にせがんできてさ」
「そ、それは子供の頃の……」
「……初めて義理の娘となる子に会うのに、それが最初に交わした言葉になると思わなかったじゃない」
「そ、そんなのもう忘れたってば!」
俺の知られざる秘密がおばさんの口から語られた。
アホだ、白雪はやっぱりアホだ。
もっとシリアスな出会いかと思ってたよ俺。
「おばさんにあと言っておきたいことが……」
「白雪と付き合ってるんでしょう。さっき白雪から聞いたわ」
おばさんがなにかを諦めたように深く深呼吸をした。
「いつまでそうしているの? 家にあがったら?」
「えっ……あっ! す、すみません!」
「私ね、白雪のお母さんだから白雪のことを立派に育てないといけない義務があるの」
立ち上がると同時に、おばさんが優しい声色で俺にそう呟いた。
「おばさん?」
「本当のお母さんなら、白雪のことを無理矢理にでも連れ戻せたんだけどね」
「え?」
「本当のお母さんならどうしてたのかなぁって思って」
毅然とした態度は崩さずに、おばさんはただ独り言のようにそう呟いていた。
「……おばさん、この際なので、俺、思ったこと言っちゃっていいですか?」
「なによ?」
「おばさんと白雪って似てますよね」
「はぁ!?」
もしかして、この前の俺に対する態度はただの言葉足らず?
白雪が素直じゃないのはおばさん譲り?
おばさんの呟いた言葉からは、白雪への愛しか感じられなかった。
おばさんって実は、心の中では白雪にデレデレだったのかも……。
ついそんなことを思ってしまった。
「あのぅ……
「遠藤さん!?」
母さんがおずおずとこちらに混ざってきた。
「お話に混ざっても大丈夫でしょうか……? うちの息子のこっっっ恥ずかしい話が聞こえてきてしまったので……」
どわあぁあああ! やっぱりやっちまってるぅうう!
お互いの親の前で自分の下心を暴露するという暴挙に出てしまった!
「
「そ、そういう話を母親に聞かれる息子の心境にもなってくれ!」
「思っていること全部吐きだしたあんたが悪い」
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