第39話 姫じゃない白雪!
その後、俺たちは車で帰宅。
家についたのは夜の十二時前だった。
(お母さんに連絡しておこう……)
車に乗っている最中、白雪からこんな声が聞こえてきた。
内容までは分からないがなにかしらの連絡はしたのだと思う。
さすがの母さんも家に帰ったすぐ爆睡。
俺はまだよく分からないけど、長距離運転をするのって相当疲れるらしい。
俺と白雪もお風呂で汗を流した後はすぐに就寝。
疲れてすぐ寝たのか、白雪の心の声が聞こえてくることはなかった。
――そして次の日がやってきた。
「母さん?」
「うぅ、疲れた……腰が痛いよぉ……」
母さんがリビングのテーブルでうずくまっていた。
なにやら疲れで動けないらしい。
「あんたも四十超えたら分かるから……! たった数時間では体力が回復しなくなることに!」
「朝ごはんの用意は俺がするから。パン焼くくらいしかできないけど」
「冷蔵庫に残り物入っているからそれも出しておいて~」
「あいあいさー」
母さんに代わって、朝食の用意をすることにする。
かくいう俺も体は重いけど、それくらいはやらないとね。
いつものコーヒーも用意しよう。
(うぅ……もう朝ぁ……?)
あっ、二階から白雪の気だるげな声が聞こえてきた。
どうやら起きたらしい。白雪にしては遅い時間だ。
「あんた今日は学校行くのー?」
「んー、白雪と相談かなぁ」
「そっか」
「……普通、親なら怒るんじゃないの?」
「なんで? 親だから怒らないよ」
学校に行くか行かないか分からない息子を咎めないなんて変じゃないかなぁ。
母さんの行っていることはよく分からないや。
「お、おはようございます……」
あっ、白雪が下りてきた!
「あらあら、白雪ちゃんもお疲れね」
「はい~」
白雪も母さんと一緒にテーブルでうずくまってしまった。もはや本当の自分の家にいるみたいになっている。
「白雪、今日は学校どうするの?」
「行く前にお母さんのところに行く」
「そっか」
昨日の様子からなんとなくそんな気がしていた。
じゃあ俺は――。
「白雪、邪魔しないから俺も一緒に行っていい?」
「うん」
(えぇええ!? 一緒に来てくれるものだと思ってた! 来てくれないって選択肢があったの!?)
白雪にややじとっとした目を向けられた。
いや、一応の意思確認じゃんか。
「あっ、じゃあ私も行く!」
「はいはい、母さんも――。って、えぇえ!?」
四十代、大雑把なO型のおばさんが突然参戦意志を示してきた。
※※※
「じゃ、じゃあとりあえず行ってきますので……」
「う、うん」
朝の八時前。
俺たち三人は白雪の家までやってきた。
おばさんの高級車が駐車場に止めてある。良かった、どうやら在宅中のようだ。
(き、緊張してきた……)
(で、でも! ちゃんとお母さんと向き合わないと……)
(思ったことを言う……思ってたことを言う)
白雪の心の声が不安で染まっている。
「白雪!」
「え?」
「がんば!」
「う、うんっ……」
「外で待ってるからね!」
「ありがと!」
声をかけると少しだけ緊張が和らいだようだ。
「じゃあ行ってきます!」
「いってらっしゃい」
白雪は固い表情のまま、自分の家に入っていった。
自分の家なのに行ってきますはおかしいんじゃないかなぁ。でも、そんな風に言えるくらいうちには心を許してくれているってことなのかな。
心配だな……どうにか上手い方向に収まって欲しいけど……。
「ところでなんで母さんがいるの?」
「んー? 私がいたほうが白雪ちゃんのお母さんも安心でしょう」
「……?」
また、母さんがよく分からないことを言っている。
「あんたも親になれば分かるわよ」
「ぐぅう……」
でも、なんとなく正しいことを言っているのは分かる。
(やっぱり分かってくれない! お母さんの馬鹿馬鹿馬鹿!)
どえぇえええ!?
白雪の心の声(大)が聞こえてきた! めちゃくちゃ怒っている!
「どうしたの? びっくりした顔をして?」
「い、いや……」
白雪の心の声が聞こえない母さんは、俺の様子を不思議そうに見ている。
(私だって……! 私だって!)
(お母さんの言うことも分かるけど! そんなの自分で決めることじゃん!)
二人のやり合っている実際の声も、外に少しだけ漏れてきた。
「あーあー、やっちゃってるね」
「白雪……」
頑張れ……!
俺も、ちゃんと白雪の気持ちがおばさんに伝わるように祈っているから……。
(確かに私はお母さんの教育のおかげで白雪姫になれたかもだけど……)
(私、姫なんかになりたくない。ただの白雪がいい)
(クラスで特別扱いされるのも本当は嫌だった! 目立つのも、噂だけで告白されるのも本当に嫌だった!)
(話したこともない先輩に告白されたりするなんか本当に嫌だった!)
白雪とおばさんの会話内容は分からない。
でも白雪の気持ちは伝わってくる。
(なにが白雪姫よ! 全部、私にクラスの選択肢を押し付けて!)
(私、本当は目立ちたくないの! それをお母さんは分かっていない!)
(良い大学、良い会社になんて興味ない!)
(私、普通が良い! ただ好きな人と普通の生活ができればそれだけで良いもん!)
クラスの白雪姫の本当の気持ちが聞こえてきてしまった。
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