第38話 付き合うってそういうこと?

「……」


「……」


 俺たちはさっき降りた駅まで戻ってきた。


 泊まらないで今日は帰るつもり……だった。


 今日は話せないかもしれないけど、明日になったらちゃんと白雪はおばさんと話すつもり……だった。


「なんで電車来ないの?」


「俺が知るわけないじゃん」


 待てど暮らせど電車が来ない。


 ダイヤ上ではもうとっくに来ていてもいいはずだ。


 時間はもう夕方の四時になろうとしていた。


「うーん、この路線は人身事故だかで止まっているみたい、多分」


 携帯で今いる位置と駅名を検索する。


 土地勘がないので分からないけど、近くの路線で人身事故があったらしい。


「人身事故?」


 まずいことになってきた。


 今から普通に帰っても夜の到着になってしまう。


 日中は大丈夫だったけど、深夜帯になればさすがに制服を着たままだと補導される可能性も出てきてしまう。



(も、もしかして本当にさっきのところに……?)



 俺も白雪と同じことを思ってしまっている。


 他に近くに宿泊施設ってあるのかな……。


 そもそも高校生だけで泊めてくれるところはあるのだろうか。


 うわぁあああ! 頭が痛くなってきた!


「ど、どうしようね……」


「……」


「復旧は未定みたいなこと書いてあるけど……」


 こうなったら母さんに助けを求めるか……?


 いや、さすがに今から母さんにここまで迎えに来てもらうのは無理がある。そんな負担もかけられない。


「うぅううう……」


てる君?」


「白雪、最悪あそこに泊るしかないからな!」


「なんでキレてるのよ」

(きゃぁああああああああ!)


 心の悲鳴が頭に鳴り響いた。


「……ところで、あそこって十八歳未満入れるの?」


「多分、無理だと思う」


「だよなぁ」


「そ、そもそも私たち制服だし……」


 おかしいなぁ。


 映画ならここでハッピーエンドの流れだったんだけど。


 現実にご都合主義って存在しないのね……。




※※※




 無人駅舎のベンチで待つこと二時間弱。


 その後も電車が来る気配はなかった。


 宿泊場所を検索しまくったが、どこも予算オーバーか未成年お断り。


 そもそも場所が遠かったりと丁度良いところがない。


 携帯の充電も怪しくなってきた。


「て、てる君……一か八かに賭ける?」


「……」


 白雪の気持ちは完全に行く方向に固まっていた。


 でもなぁ……。


 制服の上着を脱いだら多少は誤魔化せるだろうが、バレたときのリスクが高すぎる。


 俺はかまわないけど、白雪にそういうリスクは取らせたくない。学校で噂にでもなったら大変なことになる。


 それに――。



(お、お風呂はあるんだよね……?)


(お風呂に入らせてもらって……次の手順はなんだっけ?)


(チューから始まるんだっけ? それともギュー?)


(ふ、服はお風呂に入ったら脱いだまま……?)



 白雪が頭の中で行った後のことをシミュレーションしちゃっている。


 ……多分、俺たち、今行っちゃったらいくとこまいっちゃう気がする。


 さっきから心の声がうるさいんだよー! このむっつり姫が! 口数の少なさに比例して、心の声が爆増してるんだよ!


 憎い……! 心の声が本当に憎い!


 俺だって男だぞ! この前からこんな声を聞かされていて、しかもそういう場所に行ってしまったら自分が抑えられる自信がないよ。

 

「……白雪は大丈夫なの?」


「だ、だって付き合うってそういうことでしょ……?」


 かーーっと白雪の顔が赤くなった。


 肩を強張らせて、体がかっちんこっちんになってしまっている。


「白雪――」



輝明てるあきッ!!」



 白雪に声をかけようとした瞬間、よく聞き慣れた声が聞こえてきた。


「え……?」


「はぁ……はぁ……! 良かった、ここにいた!」


「か、かかか母さん!?」


「この馬鹿ッ!」


「ど、どうしてここに!?」


「心配だからに決まっているでしょう! あんに連絡された駅に来てみたら、丁度あんたたちの姿が見えたから!」


 路肩に母さんの車が止まっている。


 ま、まさか車できたのか!?


「白雪ちゃん! 心配かけて!」


「お、おばさん!?」


 母さんが息を切らせている。


 目に涙を浮かべて、白雪の体を抱きしめた。

 

「もうっ! なにかあったらどうしようかと!」


「す、すみません……!」


「本当に馬鹿なんだから! あんたたちのそういう思いつきで行動するところ昔からそっくりなんだから!」


「すみません……」


「親は子供になにかあったらどんなことでも心配するんだからね!」


「す、すみま……」


 母さんの雰囲気に飲まれて、白雪の目にも涙が浮かんでいく。


 ……。


 ……。


 正直、俺もほっとしている。


 多分、高速できたの……かな?


「来るなら電話くらいくれても……」


「急いで来たから途中で携帯の充電なくなっちゃったの! 車のナビだけを頼りに来たんだから!」


「じゃ、じゃあ、もし俺たちがここにいなかったらどうしてたのさ!?」


「そうしたらコンビニかどこかで充電器買うだけでしょう」


「そ、そっか……」


 あ、足の力が抜けてきた。


 母さんの顔を見たらどっと疲れが出てきた。



 ――こうして俺たちのプチ逃避行は中途半端に終わりは告げた。



 付き合ってから一日しか経っていないとは思えないほど濃い一日だった。


 明日はきっと白雪とおばさんの直接対決があるだろう……。



(お、おばさん、来てくれたのは嬉しいけどタイミングが悪いよぉ……)



 最後に白雪のちょっとした毒が聞こえてきた。

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