第37話 一緒にいてくれる王子様

てる君って本当に! 本っっ当に馬鹿だと思うッ!」

(恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!)


「すんません……」


「主語は違うでしょう! それは目的語!」

(恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!)


「そっちのツッコミなんだ……」


「私お母さんってことね! あんな言われ方したら勘違いしちゃうよ! 小学校からやり直したら!?」


 お、俺、どこにツッコミくらってるんだろう。


 とりあえず派手に自爆した白雪さんの怒りが全然収まらない!。


「白雪って意外にむっつりだよなぁ」


「ぶっっっ殺すわよっ!」


 果汁100%の毒を吐かれた。


 ふっ、だが今の俺にそんな毒は効かないぜ。


「大丈夫! 誰にでも性欲はあるから!」


「なんっっのフォローにもなってない! むしろ追い打ちかけようとしてるでしょう!」


 段々、白雪が半べそになってきた。


 学校では絶対に見ることのできない表情だ。


 正直すごく可愛い。


「そういう自分はどうなのよ!? そんなスカした態度を取って!」


「自慢じゃないがあるっ!」


「本当に自慢にならない!」


 最近、ちょっとばかり男女の繊細な話題を意識しすぎていたかな。


 こんな風に言い合っているほうが俺たちらしいと思う。


 白雪の心の声は怒りの炎で燃え上がっているけど!


「一緒にベッドに入ったときは全然手を出してこなかったくせに! このヘタレ!」


「お、おばさんが下にいる状況では無理だろう! ただでさえあの日をきっかけにこんなことになっているのに!」


「お母さんを言い訳にしてぇ! じゃあてる君は胸が大きいのと小さいのとはどっちが好きなのよ!?」


「えっ、普通が一番だけど」


「ほら! そういうところがスカしてる!」


「だってこれが本当の気持ちだもん! 俺、細い子が好きだから大きすぎるのもちょっとなぁと思うし、無さすぎるのも見ごたえがないっていうか――」


「変態」


 白雪が待ってましたとばかりにニヤリと笑った。


 しまった! 完全に罠にハメられた!


「人のことむっつりとか言っておいて、よくそんなこと言えたわね! 私がむっつりならてる君はドむっつりじゃん!」


「今のズルくないか! 誘導尋問だろう!」


「ちゃんとてる君の趣向は聞かせてもらわないとね! 私、彼女なんだから!」


「え?」


 どさくさに紛れてデレがきってきた。


 感情がジェットコースターで目が回りそうだ。


「で、でも、勘違いしないでよね! 別になんでもやらせてあげるとは言ってないんだから!」


「久しぶりにその構文きたな……」


 俺たちこんなところでなにやってるんだろうなぁ~。


 付き合いたてなのに、こんな知らない場所で言い合って。


 しかも中間テスト間近なのにさ。


「はぁ……はぁ……!」


「そんな息切らせるまで怒らなくても……」


「ぷっ」


「へ?」


「あはははははは! 本当だスッキリする! 思ったことを言うってスッキリするんだね!」


「お前の毒と似たようなものだと思うけど……」


「なんか言った!?」


「言ってません!」


 白雪の笑い声が海に溶けていく。


 なんとなく。


 本当になんとなくだけど、俺たちってこれから上手くやっていけそうな気がした。


 そりゃそうだよね、だって俺たち幼馴染なんだし。


「……帰ろうか、白雪」


「そうだね」

(よしっ!)


 白雪がとてもスッキリした表情をしている。


 心の中からは決意めいたものを感じた。


 おばさんともう一度ちゃんと話すつもりななんだと思う。


「ところでてる君って私にどこまで付き合ってくれる気だったの?」


「どこまで?」


「このプチ逃避行」


「どこまでってどこまでもだけど……。俺、白雪のこともらっていくって言っちゃったし」


てる君って本当にノリと勢いだけで生きてるよね」


「ぐぬっ!」


 とんでもなく痛い所をつかれた!


 もらうって言ったくせに、自分で限界を感じて白雪に思ったことはちゃんと言ったほうがいいなんて言ったり……。


 めちゃくちゃ格好悪い。


「俺、思ったこと言うようにしてたんだけどさ……」


「うん」


「思ったことを言っちゃうとそれを実行しないといけないよね」


「そりゃそうだよね」


「……自分の言葉って責任があるんだなって思った」


「……」


「だ、だから! ちゃんと白雪のこともらえるように頑張る。ちゃんと責任取るから!」


 この際だから自分の気持ちを全部白状した。


 格好悪くたっていいや。


 今なら、お互いの言いたいことを、目の前の海が全部のみこんでくれるような気がする。


「はいはい」


 ――ふと唇に柔らかい感触がした。


 白雪が顔を赤らめて俺にキスをしていた。


「え? いきなり?」


 俺たちは二度目のなんの変哲もないキスをした。


 白雪姫のキスって童話だと物語の最も重要な場面なのに……それも俺たちらしいかなぁとは思うけど。


「一応、返事のつもり」


「返事?」


「言わなくても分かるでしょ」

(私、ずっとてる君と一緒にいたいな)


 確かに言わなくても分かる!


 勝手に聞こえてくるから!



(私に迎えに来てくれる王子様はいなかったかもだけど、一緒にいてくれる王子様はいる。そんなの童話の白雪姫より幸せだよね)



 あっ、やばい。


 初めて白雪の心の声で涙が出そうになってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る