第34話 ほやほやの二人
お互いの気持ちを伝えてから一晩が経った。
「
「おはよ、白雪」
「なんだか緊張しちゃうね」
(きゃーー!
朝、洗面所で顔を洗っている白雪と出くわした。
今日も白雪の心の声は元気いっぱいだ。
「そうかなぁ」
「えっ、なにその余裕そうな態度」
(なんでそんなに普通にできるのー!?)
「だって俺たち幼馴染だし」
「お、幼馴染って! それだとなにも変わってないじゃん!」
「……幼馴染で恋人でいいんだよね?」
「きゅん」
(きゅん)
「変な鳴き声が聞こえた」
たまに心の声と口から出る言葉が一致するのが面白いなぁ。
……実は、母さんが近くいるからクールぶっているだけで、内心はドキドキである。
白雪の顔を見るだけで朝から幸せな気分でいっぱいになってしまった。
「今日は一緒に登校してもいいでしょ?」
「うっ、みんなになに言われるか」
「別になにを言われてもいいでしょ。私は気にしないよ」
「もうちょっと格好つくようになってからと思ってたのになぁ……」
「私は他のみんなの目より
ぐぅ、その言い方はズルい。
こうなると俺も覚悟を決めないといけない。
「手、繋いで登校する?」
「絶対に無理!」
「恥ずかしがっちゃって」
(
このネタバレの塊の心の声もどうにかしないとだよな。
白雪の家出もこのままにはしておけないし、今後の問題は山積みだ。
「洗面所でこうしていると新婚さんみたいだよね!」
「付き合いたてほやほやだから似たようなもんじゃない?」
「えっ、全然違うと思う」
「急に真面目に返すのやめてもらえる」
まぁ、でも全部なんとかなるかな!
白雪が一緒にいてくれればそんな気がしている。
「
「はーい!」
白雪が小さな子供みたいに、元気よく母さんに返事をした。
家出中なのに元気なのはおかしいけど、落ち込んでいるよりはずっといいや。
「昨日の残りの唐揚げだけどいいよねー?」
「わーい! 唐揚げだー!」
白雪が浮かれて子供返りしているような気がするけど、今日はそれすらもとても嬉しかった。
※※※
「ご飯粒ついてるよ」
「えっ、嘘」
「仕方ないなぁ。このおっちょこちょい」
白雪が俺の頬についていたご飯粒を取って、そのまま自分の口に入れてしまった。
「ふむ」
げっ、その様子を母さんに見られた。
「二人とも今日は距離近くない?」
「そ、そうですか?」
「ご飯粒をひょいぱくっ! なんてバカップルしかやらないやつじゃん」
白雪の馬鹿っ!
母さんの前でなにやってんだ!
「……」
さっきまでへらへらしていた白雪の顔が急に真剣なものに変わった。机の上に箸を置いて、両膝に手を乗せて背筋を伸ばしている。
「
「ん?」
「この度、鈴木白雪は
「お付き合いね、お付き合――」
「真剣に交際させていただければと思ってます。応援していただけると嬉しいです」
リビングの雰囲気がうちとは思えないくらいビシッと引き締まる。
白雪から鬼気迫るものを感じる。
「えっ? えっ?」
さすがの母さんも茶碗を持ったままフリーズしてしまった。
「どぇえええええええ!?」
あっ、解凍した。
母さんがひっくり返りそうなくらいびっくりしている。
「えぇえええ! この前までそんな感じじゃなかったじゃん! いやそうかなとは思っていたけどさ!」
「すみません」
「あ、謝ることではないよ! でもこんなのがいいの!?
“こんなの“とか“なんか”とか失礼だなぁ。
もうちょっと白雪の前では手心を加えてほしいんだけど。
「こんなのがいいんです」
「お前も言うんかい!」
母親と彼女になった女の子からこんなの呼ばわりされる俺。
少し可哀想じゃない!? 俺の味方はどこにいるんだよ!
「
「分かってる」
母さんが真っ直ぐ俺を見つめきた。
俺もその視線に負けないように真っ直ぐ答えた。
「白雪ちゃん、
「アホなのは知っているので大丈夫です」
この二人、俺のことになると結託しそうだなぁ……。
なーんか微妙に嫌な予感がしてきた。
「はぁ、でもこうなると問題だらけのような……」
「問題?」
「白雪ちゃんって一応ただの友達の家に泊まっていることになっていたでしょう? それが彼氏となるとまた話が変わってくるような」
母さんが最もなことを言ってきた。
※※※
白雪と一緒に通学路を歩く。
少し前はすぐそこの交差点で喧嘩をしていたなんて嘘みたいだ。
朝の母さんの言葉で繰り返される。
確かになぁ……。
彼氏の家だなんて聞いたら、それこそおばさんもひっくり返って地面にめり込んでしまいそうだ。
「うちのお母さんのこと考えてるの?」
「そんなとこ。俺も白雪みたいにちゃんとしないといけないなって思って」
「そんなに気にしなくていいのに」
いやいや!
そうは言ってはられないでしょう!
だって将来は俺のお義母さんになるかも――。
「げっ」
白雪が急に変な声を出した。
「なんだよ、汚ない声出して」
「あ、あれ……」
(最悪なんですけど!)
白雪のとことん嫌そうな心の声が聞こえてきた。
白雪の目線を追うと、なんとそこには白雪のおばさんがいる!
今日もお化粧ばっちりでドレスみたいな服を着ている。
「あっ! 白雪!」
すぐにおばさんは白雪に気がついた。
あれ? もしかして白雪のこと待ち伏せしていた?
「白雪ッ! ちょっとこっちに来なさい!」
鬼の形相でおばさんが俺たちのことを睨んでいる。
般若だ! 般若があそこにいる!
シンプルに怖いよ!
「
「えっ?」
白雪が俺の手を握ってきた。
「ちょっと白雪! いい加減にしなさいよ!」
「うるさい! なんでもかんでもお母さんの言う通りになると思わないでよ!」
白雪がおばさんに毒を吐いた。
「学校に言うからね!」
「じゃあ学校に行かないから!」
「え、遠藤さんのお母さんにも無理矢理戻してくれって言うから! じゃないと警察呼ぶって――」
「はぁあああ!? じゃあ
白雪が俺の手を引っ張って、駅の方に走り出してしまった。
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