第27話 白雪姫のお泊り 2
「ふ、ふぅ~」
い、一旦落ち着こう。
とりあえず深呼吸しよう。
天ドンまでしたのにこれじゃ本末転倒だ。
白雪でもそういうときあるんだ……。
顔を合わせてしまったら白雪の高ぶりを直接感じることになってしまった。
「なんで溜息ついているの?」
(あ、あれ……もしかして私と一緒にいるの嫌……?)
「深呼吸しているの! お前と一緒にいると緊張するから!」
「緊張ってなんでよ」
(ふぇえええ、怒っているよぉ)
「今、お前と話していると変な気分になるの!」
「変な気分?」
「だからエッチな気分になるの! 言わせんな恥ずかしい!」
「ふぇ!?」
「あっ」
「……」
派手に自爆した。
思考よりも先に口から言葉が出ることに慣れ始めてしまっている!
心の声が勝手に聞こえてくるから、白雪に対してはそれはそれでいいのかもしれないけど……。
「……」
「……」
白雪が熱にうなされたような顔で俺のことをじっと見ている。
沈黙が痛い。
仕方ないじゃん!
相手のそういう気持ちも全部伝わってきちゃうんだから!
「……ムラムラしてるの?」
(嬉しい)
スルーして欲しかった場所を見事に拾われてしまった。
「言うな、触れるな、ツッコむな!」
「え~」
「この会話禁止! 母さんに色々言われてるんだから!」
「ちぇ、つまんない」
(つまんない)
心の底からその言葉を吐きやがったな。
俺が思っているよりも、相手の思っていることが聞こえてくるってずっとやばかった。
普通の関係なら触れることがない繊細な話題も丸聞こえになってしまう。
特に性のことに関しては本当にダメなやつだと思う。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……部屋に戻らないの?」
「戻ってほしいの?」
「そういうわけでは……」
「じゃあここにいてもいいじゃん」
(この鈍感、アホ、意気地なし)
ぐぬぬぬ……!
実際に声に出されるより、心の中で毒吐かれる方がダメージあるんだが!
「もう寝る」
「えー! 寝ちゃうの!?」
「寝るって言ったら寝る! 明日も学校だし!」
「学校なんてどうでもいいじゃん」
「さすが家出少女は言うことが違いますなぁ。いいから早く毛布返せ」
「遠藤ってそんなに学校好きだっけ?」
「好きじゃないけど頑張りたいと思ってるの! “クラスの白雪姫”の隣にいられるような男になりたいの!」
「へぇ!?」
自分でも大分キザったらしいことを言ったと思うが、さっきの話に比べたらこんなのどうってことなさすぎる。
「そ、そんなこと思ってくれてたの!?」
「クラスの陰キャと白雪姫じゃ全然釣り合わないだろうが!」
「へ、へぇ~。ふーん」
(私のことそんなに思ってくれてるんだ……)
白雪があからさまに照れている。
こういう話はもっと素直にしてもいいのかなぁ。
男としてはカッコ悪い所見せたくないってあるんだけどな。
……俺に限っては今更であるが。
「嬉しいけどさ、
「へ?」
「ひねくれていて陰キャでオタクで馬鹿で鈍感でニブチンで鈍感でひねくれ者だけどそのままでいいよ。変わる必要ないと思うよ」
怒涛の悪口やめろ! しかも後半かぶってるし!
でも俺はそれにツッコむよりも違うところに驚いてしまった。
「ん? なんでびっくりした顔してるのよ」
「い、いや、今
心の声では何度も聞いた呼び方を初めて面と向かって言われた。
「
「今までのこと普通になかったことにしようとしている……」
「別にいいでしょう!
「朝のことを掘り返すな!」
言葉の力ってすごい。
何度も聞いているはずなのに、直接言われると全然違う。
「もう! 私、そろそろ寝るからね!」
「うん」
「私のこと想像して変なことしないでよねっ!」
(私のこと想像して変なことしてほしいなぁ……)
全部台無しだよ、馬鹿野郎。
せっかくほっこりしていたのに、またスタート地点に戻ってしまった。
「じゃあおやすみ。今度は天井に悪戯しないでね」
「分かったって」
そう言って、白雪は二階の俺の部屋に戻っていった。
(沢山お話しできて楽しかったな)
(結局、肝心のところは言えなかったけどまたいつかあるよね)
(でも、そっかぁ。
(もしかしたら幼馴染ってそういう目で見てもらえないと思っていたから嬉しいな♪)
(えへへ、家出しちゃったけど悪いことばかりじゃなかったかも)
また、二階から声が貫通してきた。
(私、もうちょっと大胆になって良かったのかもなぁ)
(……)
(……)
(おかしいなぁ……)
(
よし! 深夜だけど外で散歩してこよう!
こんな声ずっと聞いてたら頭がおかしくなっちゃうよ。
※※※
「
「まぁね……」
長い長い夜が更けた。
白雪が寝付くまで(声が聞こえなくなるまで)俺は深夜のお散歩をしていた。補導をされたら大変なので近場のお散歩のみだったけど。
深夜の散歩なんて初めてやったけど、結構ドキドキするもんなんだな。
いつもの道が違う道に見えて案外楽しかった。
「おはようございます!」
「あっ、白雪ちゃんおはよう」
白雪が二階から下りてきた。
登校するにはまだ時間があるのに、白雪は既に制服に着替えて準備ばっちりになっていた。
「白雪ちゃん、洗い物あったら出しておいてね」
「それはさすがに申し訳ないです」
「そんなの気にしないで。昨日も言ったけど自分のうちだと思ってくつろいでいいんだから。白雪ちゃんは私の娘みたいなものなんだから」
「あ、ありがとうございます!」
「んー! 素直で実の息子より可愛いわぁ~」
白雪が丁寧に母さんにお辞儀をしている。
朝から母さんは絶好調だ。
知らないって幸せだなぁ、中身は全然素直じゃないのに。
「おい」
母さんがふと俺の顔を見た。
「白雪ちゃんの洗濯物漁るなよ」
「息子に対する信頼度なさすぎじゃない?」
頼むからその手の話は今しないで!
ただでさえ白雪とは微妙な距離感になっているんだから!
「あっ、
「おはよう白雪」
「今日は一緒に学校に行こうね」
満面の笑みを浮かべて白雪が俺にそう言ってきた。
呼び方が変わっていることに気づいて母さんがニヤニヤしている。
「やだよ! 白雪と登校しているのを見られたらみんなになんて言われるか分からないよ!」
「え~、そんなこと言わないでよ」
(まだそんなこと気にしてるの!? このバカちんが!)
今度は心の中で毒を吐かれるようになった。
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