第28話 デレツン

「じゃあ行ってきまーす」


「行ってらっしゃーい!」


 母さんがわざわざ外まで出て俺たちを見送っている。


 普通に白雪と家を出てしまった。


「とりあえず放課後、白雪の家に行くからな」


「なんで?」


「おばあさんに謝りに行くの! 昨日言っただろ!」


「そうだった」


 白雪がわざとらしく笑っている。


 家出しているはずなのに危機感を一切感じられない。むしろ、この状況を楽しんでいるように見えてしまう。


「はぁ、クラスのマドンナと登校しているなんて誰かに見られたら……」


「まだそんなこと言ってる」


「しかもうちに泊ったなんて知られたら」


「今日も泊る予定なんですけど」


「初耳なんですけど!?」


 さも当然のように今日もうちに泊る気の白雪。


 嫌ではないんだけど、毎日、白雪が泊っていたら身が持たないよ。熟睡できない毎日なってしまう。


「そんなに私と一緒にいるのイヤ?」

(あんなに私のこと好きって言ったくせに!)


「そ、そんなことはないけど!」


「じゃあ別にいいでしょ?」

(なんでそこでどもるのよ! てる君のアホ!)


 うん。


 よく分かった。


 心の中で毒吐かれる方がよっぽど精神的ダメージを喰らうわ。


「お前はもっと自分の影響力を考えたほうがいいと思う」


「だってそれは勝手に周りが言ってるだけだもん」


「それはクラスで言わないほうが……」


「そんなこと分かってるよ」

(もーー! 私はてる君と一緒にいたいだけなのに! この鈍感ニブチン野郎!)


 ぐぐぐ……!


 心の中と実際の言葉が逆転してないかこれ!?


 前は毒を吐かれたらすぐに言い返せていたが、これだとやられっぱなしだ。


「わ、私はてる君と一緒に登校できて嬉しいんだけどなぁ」

(少しは私と一緒にいれることに感謝してよね!)


 うぅうう……。


 慣れてきたかなぁと思ってきたけど、やっぱり頭がぐちゃぐちゃになるよぉ。


 間違いなくどっちも本当の白雪なんだろうけどさ。


「い、いいか! 俺もお前と一緒に登校できて嬉しい!」


「本当っ!?」


「でも、みんなにあることないこと噂されて注目されるのは嫌だ!」


「むぅ、じゃあどうしろって言うのよ」


「……俺たちの関係は内緒にしたほうが良くない?」


「はぁ、まぁそうなるよね」

(嫌だ嫌だ嫌だ! 言いたい言いたい!)


 すました顔しているくせに、全ッッッ違うこと思っているんですけど。


 寝不足なのもあり頭がパンクしそうだよ。

 



※※※




「エンドゥ、おはよー」


「おはよう朝陽あさひ……」


「げっ、なにそのクマ」


 速攻で朝陽あさひにツッコまれてしまった。


 白雪とは学校の近くで解散。


 俺はちょっとだけ近くのコンビニで時間を潰してから行くことにした。

 

 いきなり一緒に登校したら、どこかどう考えても大騒ぎになるので別々のタイミングで教室に行くことにした。


「大丈夫? 寝不足?」


「うん」


「あっ、分かった。遅くまで勉強してたんでしょう」


「そ、そんなところ……」


 昨日ぶりだけど、色々ありすぎて久しぶりに朝陽あさひにあった気がするなぁ。


 こいつのナチュラルさが、今は何故か心地いいや。


「今日、朝活こないから早速三日坊主になったのかと思ったよ」


「うっ」


「エンドゥ選手はさすが帰国が早いなぁと」


「明日からまた来日するから!」


 今日は白雪がいて朝早く来れなかった。


 白雪との関係が進んでふわふわした気分になっていたけど、これじゃダメだよな。とりあえず勉強を頑張るって決めたんだからそれは貫かないと。


「はい、差し入れ」


「ん?」


「朝、いるかなぁと思ったからコンビニでコーヒー買ってきてた」


 朝陽あさひが俺にコンビニの袋を渡してきた。


「わざわざ買ってきてくれてたの!?」


「そうなのです。そんな私はどんな気持ちでエンドゥ選手を待っていたのか百文字以内で考えてください」


「それは本当にごめん」


「ちゃんと謝れたから許してあげる」


 朝陽がニカっと少年みたいな笑顔を浮かべた。


 本当にシンプルに良い奴だなぁ。


 ……さっきから窓際の席から殺意の波動が飛んできているのは気になるけど。


「明日は来る?」


「その予定だけど正直分かんなくてさ……」


「分かんない? なんで?」


「ちょっと朝は色々と忙しくなっちゃって」


「そっか、じゃあ来れないときはメッセージ送ってよ。来るかなぁと思っているのも寂しいからさ」


「オッケー! 連絡する!」



(あの女、また私のてる君に声かけてるーーー!)


(ムカつくムカつくムカつくムカつく)


(早く席替えやらないかなー! あー、一刻も早く席替えやりたい!)


(大体、てる君も私とキスしたくせになんで他の女と話しているのよ!?)


(これって浮気じゃない!?)


(私とキスした口で他の女と話しているってどう考えても浮気だよね!?)



 白雪の殺意の波動が俺の心にダイレクトアタック。


 誰か浮気の定義を教えて。


 ただ友達と話ししているだけなんですけど。


 そんなこと言われたら白雪以外と話せなくなっちゃうじゃん。



「白雪、おはよ~」


「つばめおはよ」


「ん~? 白雪、シャンプー変えた?」


「え? なんで分かるの?」


「だっていつもと違う匂いするから」



 白雪しらゆき永地ながとちさんが中々際どい会話をしている。


 そりゃそうだよ、うちのシャンプー使ったんだから。



「男の家でも泊まった?」


「な、なななな! そんなわけないでしょう!」


「珍しく白雪が動揺してる」



 向こうの会話が気になる。


 あいつ、うっかり口滑らさないだろうな! 


 白雪って意外にアホだからこの前の遊園地みたいなことをやりかねない!


「ねぇねぇ、輝明てるあき君よ」


「ん? どうしたの?」


「前に言ってた映画の話って覚えてる?」


「あっ、ホラーの話?」


「うん、私気になっているんだけどいつ行こうか?」



(はぁああああ!? あの女、ぶっっっ殺す!)



 白雪特大の毒が飛んできた。


 会話しながらこっちに聞き耳を立ててるなんて器用なやつだなぁ……。



(放課後になったらてる君のことお説教だ)



 なんで!?

 

 心の中の毒やばすぎだろ! これだったら実際に吐いてくれた方がまだマシだったわ!

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