第22話 白雪姫と二人きりのお勉強会 2

 俺は勉強にしにきただけ……俺は勉強にしにきただけだからっ!


 心の声がドストレートすぎて、気を確かに持ってないと吹っ飛ばされそうだ。


「お邪魔しまーす……」


 何故か忍び足で家にあがる俺。


 とてつもなくイケナイことをしているような気がしてしまう。


「私の部屋の場所知ってるよね? 先に行ってていいよ」


「なんでさ!?」


「飲み物持っていくから。なに飲む?」


 久しぶりに来た家で、家の中フリーパスは逆に気を使うって! 俺はそこまで図太くなれないよ!


「飲み物はいいから! 俺、白雪と一緒に部屋に行きたい!」


「え?」


「頼む! とりあえず一緒に来てくれ!」


「な、なななななっ!?」


 顔が熱い!


 白雪の顔も赤い!


 お互いに顔が真っ赤になっていると!


「そ、そこまで言うなら……」

(そんなにすぐに二人きりになりたいってこと!?)


 俺の言葉が見事に曲解された。


「じゃあ私の部屋に行こっか?」


「お、おう」


 映画ならラブシーンの直前みたいな会話が飛んできた。


 高級感のある階段を、白雪の後ろをついて歩いていく。


「……っ」


 目のやり場に困る。


 白雪のスカートが目の前に来る形になってしまった。


 見えない、見てない、見てはいけない。


 俺にはなにも見えてません。


「どうぞ」


 白雪の部屋の扉が開く。


「懐かしいなぁ」


 そんな声がすぐに漏れてしまった。


 どんな部屋になっているかなぁと思ったけど、当時の記憶のままだった。


 真っ白なベッドの上には薄いピンク色の毛布が置いてある。所々にぬいぐるみやキャラクターものグッズが飾られている。


 真ん中には丸いラグマットとガラスのテーブルが置かれていた。


「全然、変わってないなぁ」


「そう? 昔はもっとごちゃごちゃしてたと思うけど」


「そうだっけ?」


「うん。これでも物減らしたほうだよ」


 久しぶりに来た身としてはどこがどう変わったか全然分からない。きっと本人しか分からないなにかがあるのだろう。


「白雪の家でかくれんぼしたことあったよなぁ」


「あった、あった。私が全然見つけることができなかったやつ」


「あれは白雪が悪いんじゃん」


「だって、人の部屋のベットに隠れてるとは思わないじゃん」


「灯台下暗しってやつ」


「しかも勝手に寝ちゃってるしさ。最終的にお母さんにめちゃくちゃ怒られるし」


「う゛」


 俺たちの視線が白雪のベッドに写る。


 ……ベッドか。何か変に意識しちゃうなぁ。



(べ、ベッドかぁ……意識しちゃうなぁ……)



 心の声まで俺の思考とダブるのやめろ! 全く同じこと考えちゃってるじゃん!


「……」


「じゃ、じゃあ飲み物持ってくるから!」


「う、うん」


「おまかせでいい?」


「もちろん」


 白雪が顔を赤くしたまま一階に向かった。


 昔は男女を意識することなかったんだけどなぁ……。


 見かけはそんなに変わっていないはずなのに、今はこの部屋が全然別の景色に写って見えてしまっている。


「ダメだ! ダメだ!」


 さっきも言ったが俺は勉強しにきたんだ!


 頭ピンクの発想はもうやめよう。


 白雪も勉強するために俺を家に誘ってくれたんだろう!?


 ならやることは一つしかないじゃないか! 


 真ん中のテーブルに教科書を広げよう!




※※※




「ねぇねぇ、そこ間違ってるよ」

(もっと近づいたら怒られるかなぁ……)


「えっ、どこ?」


「真ん中のちょっと下のところ。単純なケアレスミスだと思うけど」

(もっとてる君とくっついてみたいなぁ)


「ほ、本当だ」


「うん、教科書のここに同じような問題乗ってるよ」

(そうだっ♪ 教科書見せるフリして自然に近づいちゃおう!)


 ……。


 ……。


 全っっっ然、頭に入ってこない。


 頭ピンクがここにもいたわ。


 白雪さんよ、全部筒抜けなんだわ。


 今のお前に自然なんて言葉は存在しないんだよ。


「んっとね。ここでね」

(よいっしょ)


「……」


 テーブルを囲んで勉強していたのだが、白雪が俺の隣にやってきた。


 ふわっと白雪のシャンプーの匂いが鼻をかすめた。


 距離が近い。肩が触れ合いそうな距離感だ。


「ここのページなんだけど」

(あわわわわ、手が震えるよぉ)


 アホだ……。自分で仕掛けて自分で自爆している。


「し、白雪」


 かくいう俺も体かっちんこっちんになってしまっている。


 こ、こいつ、こういうことするんだぁ。今更だけど色々考えてるんだなぁ……。


「あんまり近づかないで!」


「え?」


「白雪に近づかれると緊張しちゃって勉強どころじゃなくなるから……」


「き、緊張って!」


 白雪の顔がニッコニコになった。


「い、一体、なにを考えてるのよ! この変態ッ!」


「お前にだけは言われたくない!」


「私は変態じゃないもん」


「いいや! 似たようなもんだね!」


「じゃあ私に近づかれて意識しちゃったのはどこのどいつかしら!」


「ここのこいつですぅー! 仕方ないだろ! 好きな子の部屋にいるんだから意識するなっていうほう無理だろ!」


「えっ」


「あっ」


 またやったぁああああ!


 思ったことを言い過ぎた! いや、言うべきだったんだけどさ!


「……私のこと意識してくれるの?」

(やばっ、めちゃくちゃ嬉しい)


「そ、そりゃあ」


「遠藤って私のこと女として見てないものだと思ってた」


「……そりゃあ幼馴染だったから。一緒に育った兄妹みたいなものだったし」


「それは今は違うってこと?」


「うん」


 頭で思ったことをそのまま発言する。


 思ったことを言うと心に決めたので、取り繕うことを一切しない。


「えへへへ、遠藤は本当に気持ち悪いなぁ」

(嬉しいぃい……ちょっと涙出そう)


 どのタイミングで毒吐いてんだよ。


 本当に素直じゃないんだから。


「……」


 ……もしかしてこいつに思ったことを言葉に出させるってかなりの至難の業じゃないだろうか。


「……白雪は俺のことどう思ってるの?」


 自分から仕掛けた。


 我ながら白々しいとも思う。


 でも、どうしても白雪の口からあの言葉を面と向かって聞きたくなってしまった。


「わ、私!?」


「前に好きな人がいるって言ってたじゃん」


 胸が痛いくらいに高鳴っている。


 白雪が恥ずかしそうに俺から目線を逸らした。


「どうしても聞きたいの?」


「聞きたい」


「それはね――」



「白雪ーーー! 誰か来てるのー?」



 げぇえええ! 下の階からおばさんの声が聞こえてきた!


 どのタイミングで帰ってきてるんだ!


「は、はーい! 今、下降りるから!」

(私は遠藤のことが好き!)


 だからそうじゃないんだってば……。

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