第21話 白雪姫と二人きりのお勉強会 1

 放課後のチャイムが鳴った。



白雪< じゃあ先に行ってるからね



 携帯にメッセージが届く。


 白雪は放課後のチャイムが鳴ると同時にそそくさと帰宅。


 あまりの帰宅の早さにクラスの誰もがいつものように話しかけることができなかった。


「えっ? もう白雪帰ったの!?」


「そうみたい」


 永地ながとちさんと露本つゆもとさんがそんな会話をしているのが聞こえてきた。


「さては白雪のやつ男ができたな~」


「あんなに告白されても誰にもなびかなかったのにね」


「白雪の彼氏ってどんな人だろう?」


「……絶対に年上だと思う。大学生とか」


「えー! じゃあもう大人の関係になってるかもじゃん!」


 おーい、白雪さんよ。


 好き勝手言われてるぞー。


 こいつらも俺とは違うベクトルで思ったことが口から出るタイプの人間だと思う。

 

「朝陽~、白雪が帰っちゃったよ。今日どこに遊びに行く?」


 二人が朝陽のところまでやってきた。


「二人とももうすぐ中間なのに余裕じゃん」


「だってもう諦めてるし。ワースト五位の座は渡さないからね」 


「そんなの誰も狙ってない!」


 永地ながとちさんが朝陽あさひに寄りかかりながらそんなことを言っている。


 白雪の友達連中って優秀な印象があったけど、どうやらそうでもないみたいだ。


 ……俺が言えた口ではないけど。


「じゃあ俺、帰るから」


「うん、またね」


「うん、また明日」


 朝陽に声をかけて俺も帰ることにした。


 白雪はいち早く帰って、勉強会の準備をするらしい。


 勉強会って準備必要なのかなぁ?


 まぁ、誰か来るなら部屋を片付けたいという気持ちはよく分かるのでそこはあまり言及しないようにしよう。


「遠藤って帰りの挨拶するようなキャラだっけ?」


 永地ながとち露本つゆもとコンビからそんな声が聞こえてきてしまった。


 ぐぬぬぬ……!


 そんな風に言われると、さすがの俺でも少しばかり腹が立つ。


 朝陽あさひとか亮一君とか、性格の良い陽キャとばかり話していたから久々にそんな言われ方をしてしまった




※※※



 

「で、普通に来ちゃったわけだけど……」


 白雪の家に到着した。


 何年ぶりに白雪の家に来たのだろうか。


 俺と白雪の家は同じ住宅街にあるが、家の作りは全然違う。


 うちが日本の一般的な木造建築なら、白雪の家はどこか西洋風の家だ。白雪の家の外観は真っ白なお城みたいな外観をしている。


 多分、前のお母さんの趣味だと思う。


 庭もよく手入れされていてうちとは大違いだ。


「俺、白雪の義理のお母さん苦手なんだよなぁ……」


 蘇る苦い記憶。


 白雪を連れ回していたらよく怒られてたっけ。


 ゲームは一日一時間まで! とかよく言われたなぁ。他にも遊びに行った汚い足で家に上がるなとか怒られた記憶がある。


「今の俺が行っても大丈夫なのかなぁ」


 微妙に嫌な予感がする。


 年頃の男女が二人きりになることに毛嫌いしないだろうか。


 そもそも俺のこと覚えているのかなぁ……。


「とりあえずチャイム鳴らすか……」


 すごく緊張してきた。


 白雪のお義母さんのこともそうだが、初めて好きだと言った女の子と二人きりになる。


 年頃の男なら誰だって当然色々な想像はしちゃうわけで……。


『はーい』


 あれ? 白雪のお義母さんが出ると思って身構えていたのに、インターフォンからは白雪の本人の声が聞こえてきた。


「遠藤ですけど」


『はいはーい、ちょっと待って~』


 毒吐き白雪姫の声色じゃない。昔の無邪気な白雪の声になっている。


「お待たせ~♪」


「はやっ! 待ってない!」


 すぐに玄関の扉が開いた。


「どうぞ~♪」


 学校の様子と全然違う。


 この前みんなと遊びに行った遊園地のときとも違う。


 かなり自然体の白雪が玄関に現れた。


「……」


 真っ先に白雪の服装が目に入った。


「どしたのそれ?」


「どう似合ってる?」


 袖がレースになっている黒いシャツに白いスカート。


 白雪がいつの間にかお着替えをしていた。


 いつもの制服のスカートより短い……。


 髪は短めのポニーテールにしているし、これからどこかに出かけるのかってくらいお洒落をしている。


 しかも黒いトップスのせいか、いつもの白雪よりも大人びて見えてしまう。


「どう…かな……?」

(えへへ~、早く帰っておしゃれしちゃった♪)


 部屋の片付けじゃなかったんかい!


 俺、勉強にきたんだよな? これじゃ普通に白雪の家にデートに来たみたいだ。


「に、似合ってるよ」


「本当!?」

(やったーー! 早く帰って良かったー!)


 めちゃくちゃ喜んでる。


 心の中だと感情表現が直球すぎて、どうしていいのかたまに分からなくなるなぁ……。


「お、大人っぽくて可愛いと思うよ」


「大人っぽい!?」


「うん」


 自分ルールに従って、俺も思ったことを直接言う。


「そうかなぁ?」


 白雪が自分の服を見回している。


 恥ずかしいには恥ずかしいが、白雪がとても嬉しそうに笑っているので悪い気分ではない。


「ところでおばさんは?」


「お母さん? 今日はいないよ」


「え?」


「今日は家に二人きりだけだよ? なにか問題あるの?」


 白雪が「なに言ってんだ」みたいな顔できょとんとしている。


 アホかこいつ! 問題しかないじゃん!


「さぁ、どうぞどうぞ。とりあえず家にあがって」


「お、おう」


「場所は私の部屋でいいよね?」


「えっ」


「なんでびっくりした顔してるのよ」

(きゃー! 部屋に誘っちゃったぁ!)

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