第20話 思ったことを言う[筒抜け]

「ちゃんとフォローしてこよう」


 俺は席を立ちあがった。


 そういう細かなすれ違いで今までこじれてきたんじゃん。


 確かに白雪目線だと 告白してきた男がいつの間にか他の女を呼び捨てにしているのは面白くないよな……。


 あいつが思っているようなことは一切ないけど、ここはちゃんと説明しよう!


「白雪、ちょっといい?」


 白雪がみんなに話しかけられる前に、俺は勇気を出して白雪に声をかけた。


「なに?」


「今話せない?」


「どうして?」


「話したいことがあるから」


 白雪が眼光鋭く俺を睨みつけた。


 ……と、思ったけどよく見たら白雪の目にはほんのり涙が浮かんでいた。


「な、泣くほどか!?」


「うっさい、馬鹿」


 白雪が涙を隠すように自分の目をこすっている。


 とてつもない罪悪感が襲ってきた。


 浮気なんてしていないのに、本当に浮気していたような気分になってきた。



「遠藤が白雪さんに声かけてる……」



 なにやらみんなから視線を感じる。


 白雪は人気者だもんな。


 俺が教室で普通に白雪に声をかけているのは不自然だもんな。込み入った話話はここでしないほうがいいかも。


 ……こういう状況も白雪のことが好きなら変えないといけないよな。


「始業前だけど一旦教室出ない?」


「別にいいけど……」


 いつもより素直に返事してもらえた。


 白雪の態度もほんのちょっとだけ柔和になった気がする。


「ちょっと行ってくる」


「はいはーい」


 朝陽あさひに一言だけ声をかけて、俺たちは教室から出ることにした。


 白雪が顔を伏せて俺の後をついてくる。


 廊下に出ても白雪は相変わらずみんなの注目の的だ。


「白雪、歩きながら聞いて欲しいんだけど」


 何事もないように、なるべく自然に後ろにいる白雪に声をかけた。


「なによ」


「俺、そんなに器用じゃないから!」


「知ってる。どっちかというと不器用じゃん」


「そうそう!」


「昔、ガンダムのアンテナ壊してたよね。プラモデルの」


「違ーう! そうだけどそうじゃない!」


 なんでそうなる! 全然俺の気持ちが伝わっていない!


「お、俺ってさ一人のことしか見れないから!」


「そりゃ物理的にそうでしょう。目は二つしかないんだから」


「だからそうじゃない」


 死ぬほど察しが悪い。


 自分からこういう話するのってかなり恥ずかしいんだけど。顔を合せる形じゃなくて本当に良かった。


「さっきからなにが言いたいの?」


「だ、だから俺の好きな子は一人だけっていうか……」


「へ?」


「後は言わなくても分かるでしょう……」


「う、うん……」


 微妙にちゃんと言葉にすることができなかった。


 頭から煙が出るほど恥ずかしい。


 

(えぇえええ! そんなにはっきり言ってくれるの!?)



 待て、待て。そこまではっきりは言ってない。



(そんなに私のこと好きなんだ~。全くてる君は素直じゃないなぁ♪)



 だからそれはお前に言われたくない!



(仕方ないなぁ。本妻の余裕を見せてあげますかっ! 朝陽のことは少しだけ目を瞑ってあげないと!)



 ツッコミどころしかないっ!


 でも心の声なのでしっかりツッコむことができない!


 めちゃくちゃもどかしい!


「白雪ッ!」


 そんな気持ちがこもったのか、自分で思ったよりも大きな声になってしまった。


「は、はひっ!」


「だから変な誤解しないようにして!」


「分かったよぉ……」

(急に男らしい! 好き!)


「それに朝勉をしようと思ったのはお前に少しでも追いつこうと思って……」


「どういうこと?」


「白雪の隣に立てるように成長したいなって……」


「無理しなくてもいいのに」

(そんなこと思ってくれてたの!? 好き!)


「だ、だからこれからも頑張ろうと思ってるから――」


「うん、お互い頑張ろうねっ」

(私のために頑張ってくれるってこと!? 好き!)


 お 互 い に 全 部 筒 抜 け じ ゃ ん か。


 思ったことを全部言う俺に対して、思ったことが全部聞こえてくる白雪。


 お、おかしいなぁ。俺の知っている小説や映画だったら、もっと恋愛って心理戦みたいな駆け引きがあった気がするんだけど……。


 絶対に今の白雪とババ抜きできないと思う。とんでもない泥仕合になってしまう。もしくは光の速さで決着がつくか。


「ま、まぁ俺も好きだし……」


「え?」


「あっ」


 やっちまったぁあああああああ!


 思わず心の声に反応してしまった!


「きゅ、急にこんなところで馬ッ鹿じゃないの!」

(嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい)


「俺もそう思う……」


「いきなりでマジできもいんですけど」

(私も好き好き好き好き)


 ズルしないようにと思って全部思ったことを言うようにしたけど、今度は逆に白雪がズルくないか!?


 表向きは圧倒的に俺の分が悪いじゃんか!


 くっそぉ、いつか絶対にこいつの口から直接“好き”だって言わせてやるからな……!


「仕方ないから今日からあんたの勉強手伝ってあげるから!」


「手伝うってなにをさ?」


「一緒に勉強してあげるって言ってるの! この私が手伝ってあげてる言ってるんだから感謝しなさいよね!」

(輝君と一緒に勉強したいよぉ……)


 恩着せがましい!


 そう言ってもらえるのは確かに嬉しいけど、ちゃんと心の中で思っていることを言葉に出して欲しい!


「助かるけどどこで勉強するの? 図書館とか?」


「私の家来ればいいじゃん」


「はい?」


「たまには私の家に来ればいいじゃん。昔はよく来てたでしょう」

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