第25話 白雪姫の家出
「はい……はい……。とりあえず今日はもう遅いのでうちに泊めますので――」
母さんが白雪の家に電話をしている。
おばさんが心配してしまうので、泊るにしても連絡はしないといけないということだ。
「どうして喧嘩したのさ?」
母さんが電話をしている間、俺と白雪はリビングにあるいつもソファに座ることにした。
白雪は目を伏せてこちらを見ようとしない。
とても落ち込んでしまっているようだ。
「あははは、本当に他愛もないことで……」
(今日、
「……」
やっぱり俺のせいかぁ……。
あの鋭いおばさんが、白雪の言葉を全部鵜呑みにするとは思えなかったもんなぁ。
そこはちゃんと俺に言ってくれていいのに。
「き、気にしないでね! 本当にただの喧嘩だから!」
「気にはするでしょう。家出してきたくせに」
「う゛っ!」
白雪から変な声がでた。
白雪がどう言って家を出てきたのかは分からないが、行き場所が俺の家で大丈夫なのだろうか。
下手をすれば炎に更に油をそそぐことにならないだろうか……。
「……だってお母さんうるさいんだもん」
「うるさい?」
「私の交友関係がどうのって。いい大学に入って、いい会社に入って、そして優秀な人と結婚しなさいって。なんでそこまで言われなきゃいけないのよ」
「……」
難しいなぁ……。
多分、それはおばさんの白雪への愛情表現の一つなんだと思う。
遠藤家は俺にそこまで口出ししてこないしな。
どうしよう。
白雪になんて声をかけていいのか分からない。
「お母さんは私の本当のお母さんじゃないくせに……」
「白雪、それは言ってはダメだと思う」
「あっ……ごめん……」
つい語尾が強くなってしまった。
思ったことがすぐに口から出てしまった。
「ふぅ~、久しぶりに鈴木さんちに電話したから緊張しちゃったわ」
あっ、そうこうしたら母さんが戻ってきた。
「ご、ご迷惑おかけしてすみません! お母さん何か言ってましたか!?」
「近所にいるなら良かったって。ご迷惑おかけしますが今日は娘のことお願いしますって言われちゃった」
「そう……ですか……」
「白雪ちゃんのお母さん、とても心配してたよ」
ご近所特権が発動した。
歩いて五分くらいだもんな、俺と白雪の家。
それが良いのか悪いのかはこの場合はよく分からないけど。
「……」
「白雪ちゃんはご飯食べたの?」
「じ、実はまだでして……」
「なにか食べる?」
「い、いえ! 大丈夫です!」
「遠慮しなくていいから。チャーハンくらいならすぐできるから」
白雪の言葉を無視して母さんがご飯を作り始めた。
白雪が家出をしてきた理由はどうやら詳しく聞かないようだ。
「
「なんで? 沸かせば入れるけど?」
「今あるのは二日目のお湯でしょう! あんたと私はかまわないけど白雪ちゃんは嫌でしょう!」
「その通りでしたっ!」
母さんの言う通りだ! 誰が人の家の残り湯に入るかってんだ!
「あ、あの……本当におかいまなくです……」
「おかまいはするよ。家出とはいえ、鈴木さんちの大切な娘さんを預かるんだから」
「すみません……」
「でも、自分の家だと思ってゆっくりくつろいでいいからねっ!」
「あ、ありがとうございます!」
「私のことはこれからおばさんじゃなくてお母さんと呼びなさい」
母さんが急に白雪に変なことを言い始めた。
「おばさん」
「
こういうとき、うちの母さんはこういう性格で良かったと思う。
よくも悪くもあっけらかんとしているし、こういう物事には結構柔軟に対応してくれるほうだ。
「お、お母さん……!」
(お、お義母さん……!)
「お前もなに真に受けてんねん」
白雪の天然ボケが炸裂したところで、俺はお風呂の掃除に向かうことにした。
※※※
「母さん、話が」
「なに?」
白雪がお風呂に行っている間、俺は母さんに今日のことを素直に話することにした。
「実は今日白雪の家に行っててさ」
「うん」
「おばさんに見つかりそうになったから何故か隠れちゃった」
「うん」
「多分、それがおばさんにバレて喧嘩になったんだと思う。だから――」
「自分でそう思っているなら、これからどうするかは自分で考えなさい」
「え?」
「人の家に迷惑かけたと思っているなら、どうするかくらいは自分で分かるでしょう」
「分かったよ……」
いつもへらへらしている母さんがほんの一瞬怒ったような顔を見せた。
うん、明日はちゃんと白雪のおばさんに謝りに行こう。
「すみません、お風呂先にいただきました」
白雪がお風呂から戻ってきた。
自分の家から持ってきた真っ白なパジャマを着ている。
風呂上がりの火照った顔が妙に色っぽい。
白雪はしっかりチャーハンを二杯食べて、しっかり三十分以上お風呂に浸かっていた。
いや、全然いいんだけどね。全然かまわないんだけどさ。
でも逆の立場だったら、俺は絶対にもっと遠慮すると思う!
白雪って案外神経が図太いのかもしれない。
「白雪ちゃんは
「え? でも、
「こいつはいつもそこのソファーで寝ているから大丈夫。ベッドの布団ちゃんと洗濯してあるやつに変えてきたから安心して」
「そ、そこは心配してないのですが……」
今度は白雪が俺のベッドを使うことになったらしい。
今日の朝は、まさかこんな事態になるとは思わなかっ。
まさかお互いのベッドを行き来することになるなんて。
「
「なんだよ」
「白雪ちゃんに変なことしないように」
「息子への信頼度……」
「言っておくけどマジで言ってるからね。分別ある行動をするように」
「分かってるって」
この様子だと母さんは俺と白雪の関係に少し感づいているっぽい。急に疎遠だった息子の幼馴染が家に来るようになったら、さすがの母さんでも気づくか……。
「白雪ちゃん、
「変なこと!?」
「こう見えて
やめろ馬鹿!
母親にその手の話されるのは拷問以外の何物でもないだろう!
「わ、私は別に……」
(輝君と一緒に寝たかったなぁ)
だから筒抜けなんだってばぁ……。
もしかして今夜、ずっと白雪の心の声を聞きながら寝ないといけないの?
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