第18話 あしたのために そのいち
自分の中で一つの機転となったゴールデンウィークが終わった。
妖怪猫かぶり白雪は、その後特になにもなかったようにみんなと合流。
普通に過ごして、普通にその日は終わった。
自分がなにを言ってしまったのかは白雪はよく分かっていないっぽい。
まさか心の声が聞こえているとは思っていないはずなので、白雪の中ではなんとか誤魔化せたと思っているようだ。
「おはよ」
俺ともう一人を除いて……。
「おはよ……」
連休明けの登校日。
いつもは近藤から朝の挨拶をしてもらっていたのだが、今日は俺からしてみた。
だが、近藤の口ぶりはすこぶる重い。
「近藤ってこんなに朝来るの早かったっけ?」
「テスト近いから朝勉しようと思って。そういう遠藤こそ珍しく早いじゃん」
「お、俺も今日から朝勉をしようと思って……」
「そんなことよりも私に言うことない?」
「ですよね……」
白雪の毒を直撃してしまった近藤も、あの後みんなと合流。
空気を読んで白雪のことを追及することはしなかった。
「今年のゴールデンウィークは長かったなぁ~」
「うっ」
「携帯で聞くのも、ちょっともやもやするわけじゃん?」
「うぅ」
「だから休み明けに直接聞いてやろうと思って」
今は朝の七時ちょっと過ぎ。
登校するには大分早い時間だ。
校内には部活の朝練などをしている生徒がちらほらといるが、今教室には俺と近藤だけの状態だ。
「私、すごーい悲しかったんだよ」
「か、悲しかった?」
「二人とも私に嘘をついてたんだなって」
「う、嘘はついてないよ!」
「だって付き合ってるんでしょう?」
「付き合ってない! これは本当だから!」
「じゃあ白雪のあれはなに?」
「俺も聞きたいくらいなんだけど……」
「好意がない相手にああいうことは言わないよねぇ~」
近藤の目が怖い。
いつもは少年みたいな目で話しかけてくるのに、今日はじとっとした目で俺のことを見つめている。
「はぁ、二人ってそういう感じなんだ」
「そういう感じとはどういう感じでしょうか……」
「私は恋愛のことなんて全然分からないけどさ、友達だと思っていた二人がそうなるのは結構思うものがあるよね」
うぅ、白雪の毒に当てられて近藤が状態異常になってしまっている……。
どうしよう。
変わりたいと思ったばかりなのに、このままでは俺の唯一の友人がいなくなってしまう。
「……」
ちゃんと言おう。
嘘偽りなくちゃんと近藤には伝えておこう。
だって、俺はまだ近藤と友達でいたいと思っているし。
「本当になにもないんだけど、全く恋愛が関係ないというと言うとそうでもないというか……」
「ふーん」
「俺と白雪って小さい頃からの幼馴染だからさ色々と複雑で……」
「えっ? そうなの?」
「うん、家も近くて」
「知らなかった」
「多分、このクラスでは誰も知らないと思う。俺とクラスの“白雪姫”がそうだって誰も思わないでしょう?」
「……」
「俺、白雪に追いつくためにこれから色々頑張ろうと思うんだ。だから今日も朝、勉強するために早く来てみた。そ、そんな感じだから俺は近藤とは友達のままでいたいなぁ……なんて」
「……」
近藤が拗ねたように唇を尖らせていたが、俺の話を聞いているうちにそれが段々と元に戻っていった。
「
「え?」
「これから
「えぇえ!? なんで!?」
「近藤だとプロ野球選手みたいになるから。別に自分の名字が嫌いなわけじゃないけど」
「へ、へぇ~」
「それに私の友達はみんな私のこと朝陽って呼ぶから」
「え?」
近藤はいつもの表情に戻っていた。
「それに誰かのために頑張るっていうのは嫌いじゃないから」
「こ、近藤選手ぅ……」
「むっ」
あっ、近藤の目がまたじとっとした目に戻ってしまった。
「朝陽、あ・さ・ひって言ったでしょう!」
「最後にスーパードライ付きそう……」
「誰がビールだ」
良かった。いつもと同じように軽口聞ける関係に戻った。
今の説明でちゃんと納得してもらえたかは分からないけど、友達破棄とはならなそうだ。
「私も
「え?」
「なによ文句あるの?」
「文句はないけど……」
文句はない、むしろ名前で呼ばれて嬉しいくらいだ。
だが一つだけ恐ろしい懸念点があるんだけど……。
「最後に一つだけ質問いい?」
「な、なんでしょうか?」
「結局、
「……」
近藤が真剣な顔つきで俺のことを見ている。
「うん……」
嘘偽りなく自分の気持ちを答えた。
声は少し震えてしまったかも。
自分の気持ちをちゃんと言うのって本当に勇気がいるな……。
「そっか。じゃあちゃんと言ってくれたから許してあげる。これからも宜しくね
にかっと近藤もとい朝陽が微笑んだ。
一瞬、ほんの少し寂しそうな顔をしていたのはきっと俺の気のせいだと思う。
※※※
「でも、なんで勉強始めようと思ったの?」
「今度、中間あるじゃん。そこから頑張ろうと思って。そういう近……
「私はただ単純に家だと勉強できないから」
「超分かる。家には誘惑が多すぎる」
「本当にそれ」
五月の中旬にある中間テストに向けて、俺は早く登校して勉強することにした。
確か白雪の成績はクラスでもTOP3に入るほどだ。
その白雪に少しでも近づくため俺は勉強を頑張らないといけない!
あしたのためにそのいち! とりあえず学生は勉強頑張る!
「ちなみに
「丁度、真ん中くらい」
「それだと三割打者はほど遠いですなぁ」
「野球ネタ引っ張るな! そういう
「丁度、真ん中くらい」
「一番つまらないやつ」
「その言葉そのまま返す」
二人でそんな会話をしながら勉強をしていたら、ちらほら教室に人が増え始めた。
白雪のいつもの登校時間までもう少しだ。
(早く
ん……?
今日はいつもより大きめの心の声が聞こえてきた。
白雪はまだ教室にいないようだが……。
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