第17話 一方通行両想い 後編

 ここにいる三人全員の時間が止まってしまった。


 なにを言われたか・なにを言ったか、ここにいる全員が理解できていない。


 白雪はただ涙目で近藤のことを睨みつけていた。


「どういうこと?」


「え?」


てる君って遠藤のこと?」


「えっえっ!?」


 近藤が当然の疑問を白雪に問いかけた。


 今までスルーしてたけど、心の中だと俺の呼び方が昔のまんまなんだよなぁ……。


「わ、私、そんなこと言った?」


「今、自分で言ったんじゃん」


「~~~~っ!」


 白雪の顔が羞恥心でかーっと真っ赤に染まっていく。


「そ、それは……だって……」


「もしかして二人って付き合ってる?」


「え……?」


「二人はどんな関係なの?」


 どうしよう。近藤にどう説明しよう。


 そもそも今の俺たちの関係ってどう説明すればいいんだろう?


「つ」


「つ?」


「付き合っているわけないでしょ馬鹿ぁああああああ! 誰がこんなやつなんかと!」


 わっと大きな声が遊園地構内に広がった。


 ついに白雪がクラスメイトに毒を吐き散らかしてしまった。


 こ、こんなやつって。


 しかも俺にも追加ダメージが入った。


「こ、こんなやつって! 白雪、それは言いすぎだよ!」


「こんなやつったらこんなやつでしょ! オタクで陰キャで――」


 近藤が真顔で俺のことを擁護してくれている。


 それに負けじと白雪が反論する。白雪の声は静かに震えていた。



「だから、てる君は私以外の女の子と話さないで!」

(だからこいつにはこんなやつで十分でしょう!)



「えぇええええ!?」


 近藤から心底驚いた声が出た。


 俺もひっくり返りそうなくらいびっくりだよ!


 もう実際に出ている言葉と心の声がぐっちゃぐっちゃになっている。


「し、白雪って遠藤のこと好きなの!?」


「ち、ちちち違くて……」


 あっ……。


 赤くなっていた白雪の顔がどんどん青ざめていく。


 この顔は知っている。この顔は白雪が大泣きするときの顔だ。


「うぅうう……!」


 白雪が目頭を抑えてダッシュでどこかに行ってしまった。


「ちょ、ちょっと白雪!」


 あ、呆気にとられてしまった。

 近藤もどうしていいのか分からない顔をしている。


「え、遠藤どういうこと?」


「お、俺もよく分かんない……」


「二人って付き合ってたの?」


「そういうわけではないけど……」


 は、早く白雪のことを追わないと……。


 クラスのマドンナが行方不明になってしまったら、クラス全体を巻き込んだ大事になってしまう。


「とりあえず俺、白雪のこと探してくる!」


「う、うん、私も……!」


 そう言って近藤も立ち上がった。


 普通ならこんな広い遊園地でたった一人の人間を探すのは大変だろう。


 でも、今ならすぐに白雪のことは見つけられると思う。




※※※




 好きな子から“こんなやつ”って言われてしまった。


 白雪の毒がじわじわと俺に継続ダメージを与えていた。


 客観的に見たら確かにそうだよなぁ。


 クラスのマドンナと俺とじゃ不釣り合いすぎるし……。



(うぅううう……やってしまったぁ……)



 あっ、いた。


 少し歩いていたらすぐに白雪の心の声が聞こえてきた。


 今の俺は白雪の声が聞こえてくるので、大体どこのあたりにいるのかは丸わかりだ。


 声がするほうに近づくと、白雪はトイレの裏でうずくまっていた。


「なにやってんのさ」


「へ?」


「白雪、一人で変なこと言ってたよ」


「なっ……なっ……!」


 白雪が俺の姿を見て目をぱちくりさせている。


「な、なんでここに!」


「こんなので悪かったな」


「うっ」


 俺がそう言うと、じわっと白雪の目元に涙が浮かんでしまった。


 しまった! 意地悪したいわけじゃなかったのに!


「こんなのはこんなのだもん……」

(違うもん、本当はそんなこと思ってないもん)


「う、うん」


「なんでいつも朝陽と仲良さそうにしてるのよぉ……」

(別にあんたと朝陽が仲良そうにしてたって私には関係ないもん)


 ま、またしても実際の言葉と心の声がぐちゃぐちゃになっているような気がする。


「……」


 勢いで白雪のこと好きだって言ってしまったけど、間違いだったのかなぁ……。


 いつかバスケ部の先輩が白雪にしていたように、告白って自信がある人が行うものかもしれない。


 ……だって、そうじゃないと好きな人のこと守ってあげられないから。好きな人を悩ませてしまうから。


「白雪」


「なによぉ……」


「俺、白雪のこと好きだ」


「はひぃ!?」


「へ、返事はまだいいからさ。俺にちょっとだけ頑張る時間をくれない?」


「頑張る? 頑張るってなにを?」


「俺、白雪にこんなやつって言われないように頑張る。勉強もクラスとの関わり方も」


「え?」


「オタクで陰キャな俺かもしれないけど、これからは前向きに頑張るよ」


 よしっ! 決めたぞ。


 俺はこれから白雪にちゃんと“好き”って言ってもらえるように頑張ろう。


 心の中だけではなく、白雪の口から、白雪自身の言葉から、好きだって言ってもらえるように頑張ろう。


 毒ばかりが出てくるこいつの口から、そう言ってもらえるように俺は変わらないと……。自分に自信が持てるようにならないと。


「そ、そんなわけだから……」


「わ、私、本当はそんなこと思ってないよ……? 好きって言ってもらえて嬉しかったもん。私もてる君のことずっと好きだったもん」

(ふんっ、精々頑張りなさいよ!)


「あ、あれ……?」

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