第16話 一方通行両想い 前編

「俺、子供の頃からずっと白雪のことが好きだったのかも……」


「えぇえ!? えええ!?」

(えぇえええええええ!?)


「それにちゃんと気がついたのは今だけど……」


「えっ、えっ」


「正直、昨日デートって言われて嬉しかった自分もいて……」


「う、嬉しい!?」

(私も嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい!)


「だ、だから……」


「だから!?」

(嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい!)


 心の声邪魔だなおいっ!


 全然、白雪の会話が頭に入ってこないんだけど!


 勢いで言ってしまったがとりあえず嫌がられてはいない……みたいだ。


「おっ、意外と話している」


 永地ながとちさんの声が聞こえてきた。


 そうこうしていたらみんなが戻ってきてしまった。


「お、おかえり」

(なんでこのタイミングで戻ってくるの!?)


「二人きりで大丈夫だった?」


「そ、そりゃあ大丈夫だけど……」

(早くジェットコースターに戻れ、バカちん共!)


「じゃあ次は白雪が乗れるやつに行こうか~。今度は一緒に乗ろうね」


「あ、ありがとう」

(一人で乗れぇええええ!)


 誰 か 助 け て。


 頭がごちゃごちゃするよぉ……。


 白雪+他の人の会話だと益々わけ分からなくなってくる。


「遠藤、大丈夫だった?」


「あっ、近藤」


「白雪と二人きりはきついかなぁと思ったんだけど……」


「大丈夫、全然そんなことないよ」


「そう?」


 ちゃんと言葉にすると自分の気持ちが全然変わってくるなぁ。


 腹が決まるというか、腰が据わるというか。


 腰が据わるはちょっと違うか。


「あ……」


 ふと白雪と目が合った。


 でもすぐにぷいっと目線を外されてしまった。


「……っ!」


 あれ?


 あれれ?


 俺も急に顔が熱くなってきたぞ。


「白雪、大丈夫? 顔赤いけど」


「そ、そそそう!? ちょっと暑いのかなぁ……」

(やややばばばばいい! ドキドキが止まらないよぉ!)


「ふぅん?」


 俺たちの様子を近藤が不思議そうに見ていた。




※※※




(嬉しいなっ♪ 嬉しいなっ♪)


「……」


(ふひひひ、顔がニヤケそうなのバレないようにしないと)


「……」


(でも、そっかー! てる君も私のこと好きだったんだ~。てる君も本当に素直じゃないんだから)


「……っ!」


(あんな場所で言っちゃうくらいなら早く言ってくれて良かったのに~)


 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。


 告った相手の心の声が聞こえてくるってやばいだろ! もうただひたすら恥ずかしい! 


 っていうか素直じゃないのはどっちだよ!


 お前にだけは言われたくないわっ!


「遠藤、大丈夫? 汗びっしょりだけど」


「あんまり大丈夫じゃないかも……」


「じゃあ向こうで休む? これ使っていいよ」


 近藤が俺にハンカチを渡してくれた。


 そうだ、一回白雪から離れよう……。


 一方的に心の声を聞かされるなんて、今日に限ってはテロ行為だ。自爆しているのは白雪のほうのはずなのに、本人にはノーダメージなのが腑に落ちない。


「あっちにベンチがあるから行こ」


「うん……」


「私、みんなに声かけてくるから」


 相変わらず良い奴だなぁ、近藤……。


 自分だってめいいっぱい楽しみたいだろうに。



(はぁ~!? あの女なにやってんの!?)



 ひぃいいい。怖い声が聞こえてきたよぉ。



(なに人の男を寝取ろうしてんのよっ! あの狸女!)



 寝てない寝てないっ!


 なに言ってんただあいつ!? いや、言ってはないけど!


「私、飲みもの買ってくるから先に休んでて!」


「あ、ありがとう」


「リクエストは?」


「なんでもいいよ」


「分かった! 適当に買ってくるから文句言うなよ」


 近藤はそう言って小走りで近くの自販機に向かって行った。



(ムカムカヒヤヒヤ――)



 同時に白雪たちのグループと距離ができた。


 声が聞こえなくなり、あいつの気分だけが伝わってくる。


 白雪の返事は……まだ聞いてないや。


 聞かなくてもなんとなく分かっちゃってるけど。


 ……俺、もしかして白雪と付き合えるのかな?


 そう思うと気持ちがふわふわしてきてしまう。


「冷たっ!」


「ただいま」


 ベンチで待っていたら、頬にペタッと冷たい缶をくっつけられた。


「はい、お茶」


「ベタなことしているし、無難なチョイスだし……」


「文句あるのー?」


「全然ありません!」


 近藤が戻ってきた。


「あっ、お金」


「いいよ、奢りで。たかがジュースだし」


「それは悪いから払うよ。近藤とは友達だからそういうことはちゃんとさせて」


「おぉ~」


 近藤が俺の隣に腰を下ろした。


「遠藤から友達って言ってくれた」


「近藤が最初にそう言ってくれたんじゃん」


「あははは、そんな風に言ってくれると嬉しいもんだね」


 近藤が目尻下げて笑っている。


 とりあえず財布からお金を――。


「ぜぇぜぇ……! はいっ! 私も買ってきたから!」


「あれ、白雪じゃん。どうしたの? そんなに息を切らして」


「私も飲み物買ってきた!」


 えぇええええ!?


 何故急にやってきた! 白雪がいつの間にか目の前にいる!


「私のてる君取らないでよ!」

(勘違いしないでよねっ! あんたのために買ってきたんじゃないんだから!)


「え?」


 近藤が口をあけてポカーンとしてしまっていた。

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