第15話 思ったことを言う[好き]

 気になる……。


 白雪のことがとても気になる。


「あはは、なにから乗ろうか」


 遊園地に入場してからも白雪はずっと楽しそうにみんなと話している。


 俺が声をかけるタイミングは一切ない。


「遠藤って遊園地来たりするの?」


「来ると思う!?」


「あははは! 思わない!」


 無事、一軍連中に取り込まれた俺は、近藤と亮一君にしきりに話しかけられる。


 俺が孤立しないように気をつかってもらっているのがひしひしと伝わってくる。


 同級生にそんなことをしてもらっていると、ますます自分が情けなくなってくる。


「白雪、ジェットコースター乗ろうよ!」


「えっ!?」


 白雪と永地ながとちさんが話している。


 確か白雪もジェットコースター苦手だったような……。



(うぅ、私高い所苦手なんですけど……)



 やっぱり。


 なんで遊園地なんかに行きたがってたんだか……。


「あ、あのぅ……」


「ん? どうしたの遠藤君」


 恐る恐る永地さんに声をかけた。


「ジェットコースターって苦手な人もいるからあまり無理強いしないほうが……」


「遠藤君は苦手なの?」


「ま、まぁ……」


「じゃあ下で待ってればいいじゃん」


 その通りすぎた。


 白雪になんの助け舟も出せていない。


「じゃあ一緒にのろうよ、つばめ!」


朝陽あさひとー? 別にいいけど」


 あっ、近藤が話に混ざってきた。


 その様子をじっと白雪がなにか言いたげに見ていた。




※※※




「なんのつもりよ」


「ん?」


 俺と白雪の間にはぽかんと微妙な空間が空いている。


 ジェットコースター乗り場の入口で俺と白雪はみんなを待つことになった。結局、白雪はうまいことを言ってジェットコースターに乗ることを回避した。


 悪ノリで無理矢理乗せようとしないのは、このクラスの良い所かもしれない。


「私が高い所苦手なの知っててああ言ったでしょう」


「別に」


「むぅ」


 うーん……。


 話したいと思っていたのに、いざ二人きりになると言葉が上手く出てこない。


 今日はこれが白雪と話すことができる最後のチャンスかもしれないのに。


「……お前って遊園地好きだっけ?」


「好きでもないし嫌いでもない」


「なんだそりゃ」


「乗り物は苦手だけど楽し気な雰囲気は嫌いじゃないもん。だからプラマイゼロみたいな感じ」


「ふーん」


「……」


「……」


 会話が終わってしまった。



(うぅ、話題が見つからないよぉ……。ちゃんと伝えないといけないことあるのに)



 白雪の心の声が聞こえてしまった。


 伝えないといけないこと? なんだそれ?


「あ、あのさぁ……」


「う、うん」


「き、昨日は変なこと言っちゃってごめん」


「変なこと?」


「で、デートがどうたらって……」


「あ、あぁ……」


「私って思っていることと口から出る言葉がたまに違くなっちゃうみたいで……」


「……」


「だから絶対に勘違いしないでよね!」


 白雪が少しだけ寂し気に微笑んだ。



(ちゃ、ちゃんと言えて良かったぁ……。こう言っておけばまた変な感じにならないよね?)

 


 なんだ、伝えないといけないことってそんなことか。


「……」


 あれ? 俺、ちょっとがっかりしてる? なんで?


「あっ、綺麗~」


「綺麗?」


「ほら、向かいのメリーゴーランド綺麗じゃない?」


 白雪の目線を追うと、向かいにあるメリーゴーランドがぐるぐると回り始めていた。


 白い馬は少し黄ばんでいて、随分年季が入っているように見える。


「私、あっちのほうが乗りたいなぁ」


「えぇ!? 子供かっ!」


「うっさい、馬に蹴られて死ね」


「嫌だ。死なない」


「おっ、ついに言い返してくるようになった」


「……馬と言えば、お前、昔こんなこと言ってたよなぁ」


「こんなこと?」


「私にはいつか白いお馬さんに乗った王子様が迎えにくるって!」


「な、なななななっ!」


「夢見過ぎ」


「う、うるさい! 死ね死ね死ね死ね!」


 王子様かぁ。


 あっ……。


 こんなしょうもないやり取りで気づいてしまった。


「お前ってそういうところあるよなぁ」


「そ、そういうところってなによ!」


「子供っぽいところ」


 口が悪くて意地っ張り。


 思っていることと違う言葉が出てくる嘘つき。


 みんなに“白雪姫”って言われるくらい綺麗なルックスをしているのに、中身はただの子供っぽいやつ。


 目の前の派手なジェットコースターより黄ばんだメリーゴーランドに乗りたいなんていう女の子。


「白雪は全然変わってなかったのかな……」


「はぁ? 馬鹿にしてる?」


「してない」


 幼馴染がクラスのマドンナになって複雑だった。


 一番身近だった女の子がみんなの白雪姫になって嫌だった。


 こいつが誰かに告白されているのを見てもやもやしていた。


 俺って……。


「ったく、なんで遊園地に来てまであんたなんかと一緒にいるんだか」


 ……こんな毒を吐く白雪のことが好きだったんだ。


 俺が白雪の王子様になりたいと思ってたんだ。


「白雪っ!」

 

 言おう。


 思ったことをちゃんと言葉にしないと。


 俺もそろそろ自分の気持ちにちゃんと向き合わないと。


「きゅ、急に大きな声出してなによ」


「俺、お前に言いたいことができた!」


「はぁ?」


「だからはっきり言う!」


「え?」


「ちゃんとにして伝えるから聞いてほしい!」


「う、うん……?」


「俺、お前のこと好きかもしれない!」


「ほわぁあああああああ!?」

(ほわぁあああああああ!?)

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