第12話 ゴールデンウィークのご予定は?

「白雪こそなにしてんの?」


「お参り」


「白雪姫が神社でお参り!? 似合わねぇえええ!」


「うっさい! 黙れ! 隣の墓場に納骨直送便されたくなかったらそこをどきなさい!」


「すんません」


 納骨直送便ってなに? ってツッコミたくなったけどツッコまない。


 とりあえず思いっきり毒を吐かれたのだけは分かる。


「お願いごとしてたの?」


「秘密」


「秘密主義きも」


「なんでもきもいと言えば良いと思いやがって……!」


「だって、私よりあんたがここにいるほうが似合わないじゃん」


「ふんっだ。俺は信心深いからな!」


「嘘つき。全然、この場所に寄ってなかったじゃん」


「え?」


「私はちょいちょい来てたもん」


 白雪がお賽銭箱に小銭を投入した。


 手を合せてお願いごとをして――。


「やめた」


「はい?」


「あんたが近くにいると叶わなそうだから」


「俺は疫病神かなにかでしょうか?」


「あはははー! うまーい! 似合ってる!」


「なに今日イチで笑ってんねん!」


 その話ぶりだと白雪は結構な頻度でここに来ているらしい。


 一体なにをお願いしているのだろう? ちょっと気になる?


「……私さ、この前嬉しかったよ」


「え?」


 風になびく髪を抑えながら、白雪が急にそんなことを言ってきた。


「この前、家に行ったときにあんたの素直な気持ちを教えてくれて」


「……」


「だから私もごめん。あんたにはきついこと言い過ぎたかも」


「白雪……」


「だから、前みたいに……とはいかないかもしれないけど、普通に接してくれると助かる」


「……うん」


「そ、それにね! あれも言い過ぎた!」


「あれ?」


「死ねって言ったの!」


「あぁ、慣れているから全然大丈夫」


「慣れって! 本当は全然そんなこと思ってないからね!」


「う、うん……?」


「だから勘違いしないでよね!」


「わ、分かってるって」


「だから勘違いしないでって言ってるの!」


「だから分かってるって!」


 白雪の顔が夕焼けの色に染まっている。


 お互いの気持ちをちゃんと言葉で知ることができてスッキリした。


 これで俺も白雪とまた新しい関係を――。



(うっうっー! 全然分かってないよぉ……)



 あ、あれ? また声が聞こえてきちゃった……。


「あー! 頭がごちゃごちゃしてきた! もう帰る!」


「お、おう。気をつけて」


「後でメールするからね!」


 そう言って白雪は駆け足で去って行った。


 お、おかしいなぁ。


 心の声はもう聞こえなくなると思ったんだけど……。




※※※




(白雪)< ゴールデンウィークのご予定は?



 宣言通り、白雪からメッセージが届いた。


 なんだよ、この業務連絡みたいな内容。



(遠藤)< クラスで遊園地


(白雪)< それは知ってる


(遠藤)< でしょうなぁ


(白雪)< それ以外


(遠藤)< 家でごろごろ


(白雪)< 寂し


(遠藤)< うっさいよ!


(白雪)< 暇そうだから付き合ってあげてもいいよ


(遠藤)< なにを?


(白雪)< 家でごろごろ



 白雪が変なこと言ってる。しかもやたら上から目線だ。


「返信どうしよ」


 携帯だと白雪がなにを考えているのかさっぱり分からん。


「うーん……」



(遠藤)< お好きにどうぞ



 感じ悪い言い方かな? でもこんな風に返すしかないような。


 クラスのマドンナが家でごろごろって一体なんぞや?



(白雪)< じゃあ好きにする



 白雪の返信がやたら早い。


 今日のやり取りはここで終わった。


 携帯だと心の声が聞こえてこないので、白雪の反応がとても怖い。


 でもそれが普通だと思う。


「……どうやったらあの声は消えるんだろ?」


 俺はそのことで頭がいっぱいなっていた。




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