第11話 思ったことを言う

「おぉ~、良いじゃん!」


 委員長の亮一君が真っ先に俺に便乗してくれた。



「確かにいいかもね!」


「さんせーい! 私も多数決がいいと思うー!」



 他のクラスメイトたちからもそんな声が聞こえてくる。


 よ、良かったぁ……。


 思いつきで言っただけだったけど、みんなの反応は悪くないようだ。


 その後、上位グループの連中がすぐに段ボールの投票箱を作って多数決が行われることになった。


 ノリの良いクラスなのでこういうことの準備はやたら早い。


 前の席から投票用の白い紙がすぐに回ってきた。


「ちらっ」


 さっきからやたら白雪の視線を感じる。


 頼む! これ以上、声は聞こえないでくれ! 自分の思ったことをみんなの前で言うって、かなりメンタルが削られるんだよ!


「私も遠藤のこと見習わないとなぁ」


 そんなことを思っていたら隣の席からがボソッとそんな声が聞こえてきた。


「急にどうした?」


「私も同じようなこと思ってたけど言えなかったなぁって。どこでも良いって言って流されそうになってた」


「まぁ、それが普通じゃない? ほら、俺は近藤と違って失うものがないし。むしろ近藤のほうがみんなと上手くやれていてすごいと思うけど」


「へ?」


 なんだろ? 近藤が目を見開いてびっくりした顔をしている。


「遠藤って優しいんだね。今、ちょっと下がりそうになってた」


「普通だよ、ただ思ったことが口から出ただけ」


「そっか、そっかー」


 満足そうに頷いて、近藤が紙に記入をし始めた。


 口元が妙ににやついているような気がする。


「遠藤さー、後でどこって書いたか教えてよ」


「無記名投票の意味ないじゃん。そういう近藤はどこって書くの?」


「秘密」


「めちゃくちゃ言ってやがる」


 俺はなんて書こうかなぁ。


 ぶっちゃけどこにも行きたくないので、白紙提出もありだと思っている。


 でもなぁ、自分で多数決を提案しておいてなにも書かないっていうのは人としてどうなのだろうか。


 ……。


 ……。


 ん……? 


 机の上に置いておいた携帯がふと光った。


 このタイミングは誰だろ? 母さんかな?



(白雪)< どこにするの?



 思わず窓際にいる白雪を見てしまった。


 まさかの白雪だ。


「……っ!」


 目線を逸らされた。


 あいつぅ、人に聞いておいてその態度。


 あくまでクラスでは俺との関係は秘密にしたいってわけか。



(遠藤)< 決めてない


(白雪)< つまんな


(遠藤)< そういう白雪は?


(白雪)< 決めてない


(遠藤)< つまんな



 なんだよこのしょうもないやり取りは。


 もういいや。適当に書いちゃおう。


 どうせ誰がなにを書いたかなんて分からないんだし。




※※※




「それでは~! 一年七組ゴールデンウィーク決起集会の場所は“遊園地”に決まりましたー!」


 早速、開票が行われ結果が発表された。


 ぐぅうううう! 俺の案が採用されてしまった。


 遊園地が八票、海が七票、山が六票、水族館・映画などが五票、その他が諸々。


 永地ながとちさん曰く、思ったよりも票が割れたらしい。



「くそぉおおお! 俺の海がぁああああ!」


「海は夏休みに行けばいいじゃん」



 男子たちから不穏な会話が聞こえてくる。


 も、もう夏の予定決めようとしているの? まさかまたクラス全員で行こうとか言わないよな……。


「あー、でも遊園地はお金の問題もあると思うので自由参加だね」


「そうだね」


 教壇の前には永地ながとちさんの他にいつの間にか同じ吹奏楽部の露本つゆもと凛佳りんかさんもいる。


 露本つゆもとさんは切れ長な目が特徴のクールな印象のある女子だ。


 以上、俺の露本つゆもとさん情報終わり。


「遠藤は参加するよね?」


「うっ」


 近藤が俺にそんなことを聞いてきた。


「み、未参加の方向でお願いしたいかなぁと……」


「自分で多数決提案したんだからそれはなしだよね~」


「くぅうう……」


 近藤め……段々俺がどんな反応するか分かってきてやがる。


「そ、そういう近藤は?」


「一応、参加かなぁ。めんどくさいけど」


「はっきり言っちゃったよ」


「遠藤の真似しただけ」


 近藤の顔が悪戯小僧みたいに笑っている。



(ワクワクワクワクワク)



 こっちは気が重くなっているのに、窓際からはワクワクの波動が飛んできているんですけど。


「白雪ー! 一緒にジェットコースターのろうよ!」


「えー、どうしようかなぁ」

 

 はぁ、でも遊園地なら別行動できるからいいか。


 ゲーセンで時間を潰せるし。


「遠藤は誰と回るの?」


「お、お前ぼっちに聞いちゃいけないことを聞いたな! 二人組を作って下さいのトラウマを知らないやつはこれだから困る」


「えっ、じゃあ私たちと一緒に回ろうよ」


「はい?」


「だから私たちと一緒に回ろうって」


 近藤がとても優しい声色で俺にそんなことを言ってきた。



(ムカムカムカムカムカムカ)



 同時に猛毒の波動もこっちに飛んできた。




※※※




「神様、神様、あの声はもう聞こえなくて大丈夫です」


 学校帰りに例の神社に寄ることにした。


 そうだよ。ここでお願いしてから変なことになったんだ。


 だからもう一度お願いして、白雪の心の声は消してもらおう。


「小銭がないのでなけなしの千円を入れます。それ以上は小遣いがなくなるので勘弁してください」


 パンパンッと両手を叩いてお辞儀をする。


「あっ、後はお礼も言わないと」


 もう一度深くお辞儀をする。


 神様のおかげで、こんな俺だけどちょっぴり成長できたような気がします。


 人間って出ている言葉が全てじゃないんだなと知ることができました。


 ありがとうございます。


「よしっ!」


 これであの声は聞こえてこなくなるかな?


「あれ? なにしてんの?」


「ん?」


 後ろを振り向くと白雪がいた。

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