第9話 好き?

 一試合目、淡々と試合が進んでいく。


 俺と白雪は同じチーム。


 同じチーム内でポイントを競うことになった。


「負けないんだからね」


「言ってろ!」


「あっ! そっちに敵いた!」


「馬鹿め! 俺に敵の場所を教えるなんて!」


「あぁあああ! しまった!」


 一試合目は普通に俺の勝利。白雪の自爆もあり俺の圧勝だった。


「はいはい、なんでも答えてあげるわよ。どうぞなんでも質問してください」


「負けたくせにその態度」


「次は負けないもん」


 白雪がそう言いながらうちのソファーに思いっきり寄りかかった。


 まるで子供みたいに唇を尖らせている。


「スリーサイズとかはやめてよね、変態」


「聞くわけないだろッ!」


 なんでも言ったらのになんでもじゃないじゃん。


 そんなこと聞こうとは思ってなかったけど、そう言われると気になっちゃうやつじゃん!


「じゃあなに聞くの?」


「うっ……」


 そう言われると困った。


 聞きたいことはあるにはあるが――。


「……白雪のおばさんって元気?」


「お母さん? 元気だよ」


「そっか」


「はい、じゃあ次の試合ね」


 白雪が何事もなかったかのように次の試合の準備を始める。


 白雪の両親は俺たちが幼い頃に離婚をした。


 白雪はしばらくお父さんと二人暮らしをしていたが、ある日から新しいお母さんが来るようになった。


 ――白雪の義理のお母さん。


 俺の子供の頃の印象だと、怖くて厳しくてとても綺麗な人。


 白雪とあまりうまくいっていないと聞いたことはあるけど……。


「はいー! 私の勝ちー! 随分、注意力が散漫だったんじゃない?」


「ぐぬぬぬ! お前が俺の獲物をキルパクするからだろう!」


「パクってないし。たまたまそこにいただけだし」


「んなわけあるかっ!」


 くっ、考え事をしていたら普通に負けてしまった。


 やっぱり普通に上手い。相当やり込んでやがる。


「はい、じゃあ私の質問に答えてもらおうかなぁ」


「はいはい、なんでもどうぞ。どうせ陰キャでぼっちな俺には失うものはありませんよ」


「……」


 隣に座っている白雪がじっと俺の顔を覗き込んできた。


「な、なんだよ」


「ぼっちではないでしょう」


「えっ、嫌味?」


朝陽あさひがいるじゃん」


朝陽あさひって誰?」


近藤こんどう朝陽あさひ


「あぁー、近藤のことか」


 名前で言われるとすぐに分からなかった。


 なんでここで近藤の話が出るんだよ。


「朝陽とは付き合ってるの?」


「はぁああああ!? そんなわけないじゃん! なんでそうなるのさ!」


「で、でしょうね! あんたみたいなやつに朝陽はもったいないもん!」

(や、やっぱり違ったんだ。良かったぁ~)


「……」


 くぅう……このタイミングで声が聞こえてきてしまった。


「あっ、私は朝陽のこと心配してたのよ! あんたの朝陽を見る目がいやらしかったから!」

(ふふふ、これで安心安心。ちゃんと聞けて良かったぁ~)


「濡れ衣が過ぎる」


 さっきの質問は少し誤魔化してしまったが、こうなると逃げられなくなる。


 恥ずかしいし、怖いけど、このことはちゃんと聞いておかないと……。


 俺の自惚れだったらそれで終わる話だし。


 なによりこの状態を放置するのは良くない!


「よし……! じゃあ次な」


「おっ、目の色が変わった」


「かかってこいよ。ボコボコにしてやるから」


「言ったなぁ」


 俺のコントローラーを握る力もつい強くなってしまった。




※※※




「うっそぉー! ダブルスコア!?」


「よし!」


 ふぅ、なんとか勝てた。


 スコア的には大差はついているが、内容的にはぎりぎりの戦いだった。


「私、結構このゲームやり込んでたんだけどなぁ」


「だろうなぁ、普通に上手いよ」


「えへへ、遠藤はすごいねぇ」


「……」


 白雪が負けたくせに満面の笑みで俺にそう言ってきた。


 久しぶりにこいつのこんな楽しそうな顔を見た。


 昔の光景と今の光景がダブって見えてしまう。


 昔も「てる君はすごいねぇ」って――。


「特別にスリーサイズくらいは教えてあげてもいいよ」

(楽しいなぁ。こんな風に前みたいに遊べるようになるといいな)


「い、いいんかい!」


「なによ、冷静ぶって。どうせ童――」


「とんでもないタイミングで毒を吐こうとするな!」


「あはははは」


 クラスにいるときとは違い、顔をくしゃくしゃにして笑っている。


「……」


 上手く声が出せない。口がぱさぱさしている。


 本来なら相手の気持ちなんて分からないはずなのに、それを知ってから言うのはやっぱりズルいと思う。


 そんな後ろめたさと今までの罪悪感で口が上手く動いてくれない。


「し、白雪っ!」


「な、なに!?」


 やっとの想いで声を出した。


 ふいの大声に白雪がびっくりした顔をしている。


「今までごめん! 俺、白雪のこと避けてた!」


「えっ?」


「綺麗になっていくお前を直視できなかった! みんなと仲良くなっていくお前に嫉妬していた!」


「き、綺麗!?」


「中学の頃はお前のほうが背が高かったし……それに体つきも女の子らしくなるからどう接して良いのか分からなかったんだ」


「お、女の子らしいって――」


「だからごめん。とりあえず謝りたい」


 俺がそう言うと白雪の肩の力がふっと抜けたように見えた。


「私も今まできついこと言って――」


「それと、一つ聞いておきたいことがある」


「き、聞いておきたいこと?」


「うん、最後の質問をここで使う」


「分かった」


 このことはすぐに聞くべきだった。


 でも聞く勇気がでなかった。


 今日、この声が白雪の心の声だと確信するまで聞くことができなかった。


 だって、あのクラスのマドンナが……。


 だって、あのクラスの白雪姫が……。



 ――俺のことを好きなのかもしれないから。



「白雪って俺のことどう思ってる?」


「ど、どう思ってるって!?」


「も、もしかしたら好き――」


 白雪の頭からボンっ! と煙が出た……ように見えた。口は金魚みたいにパクパクしている。


「そ、そんな――」


 目元には大粒の涙が浮かんでいた。



「そんなわけあるかボケぇええええ! 今すぐ死ねぇえええええ」

(きゃぁああああああああああああああ)


 

 シンプルかつ狂暴!


 特大の毒を噴射されてしまった。

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