第6話 カラオケでの出来事

「じゃあ一番バッターは俺が歌いまーす!」


「「「いえーーい!」」」



 ここは地獄だ。


 陽キャの群れに陰キャが放り込まれてしまった。


 昨日、あんなことがあったのも手伝って場違い感が半端ない。


 陸にあげられた魚ってこんな気持ちなのかなぁ。居づらいなんてものじゃない。今の俺は間違いなく息ができない場所にいる。


 委員長の一ノ瀬ちのせ亮一りょういち君。


 野球部の高橋たかはしのぞむ君。


 バスケ部の広瀬ひろせ祐一ゆういち君。


 テニス部の西園寺さいおんじかれんさん。


 吹奏楽部の永地ながとちつばめさんに露本つゆもと凛佳りんかさん。


 そして近藤こんどう朝陽あさひ


 この七人が白雪を取り囲むクラスカースト最上位の連中だ。このグループを白雪姫と七人のなんとかって言われたりしているらしい。


 興味がないからなんとかの部分は忘れた。小人ではなかったと思う。


「遠藤、大丈夫?」


「う、うん……」


 近藤が俺の隣にやってきた。


「あはは、捨てられたチワワみたいになっているよ」


「ごめん、こういうのに慣れてなくて。また雰囲気壊しちゃうかも」


「気にしなくていいと思うよ、カラオケって得手不得手あるもんね。実は私もあんまり得意じゃない」


 近藤が足をぷらぷらさせながらそんなことを言ってきた。


「そうなの? 意外なんだけど」


「私、全然インドア派だよ。うちで一人で映画見るの好きだし」


「へぇ~、近藤ってどんな映画見るの?」


「B級映画が多いかなぁ。この前ゾンビの映画見たよ。あんまり面白くなかったけど」


「マジ? 俺もこの前、ゾンビの映画見たんだけど」


「遠藤も!? あっ、これはみんなに内緒だからね。私のイメージと違うみたいだから」


「それはちょっと分かるかも」


「分からないでよ! このクラスで初めて遠藤に言ったのに!」


「ううん、良いと思うよ。今度、近藤のオススメの映画教えてよ」


「もちろん! 逆に遠藤のオススメも教えてよ」


「いいよ、近藤はエグイやつ大丈夫?」


「全然大丈夫」


「じゃあすごいやつあるよ」


「私、結構ホラー好きなんだけどさ、ホラー映画って投げっぱなしエンド多くない? もしくは全滅エンド」


「分かる! 俺もホラー好きだけど、ハッピーエンドが少ないのは不満」


「超分かる! 読後感が良くないよね」


 やばい、楽しくなってきた。こんなに趣味が合うやつと話すのは初めてかもしれない。



(ムカムカムカムカムカムカ)



 待て待て待て!


 浮かれそうになっていたら向かいの席から猛毒の波動が飛んできた。


 隣にいる女子たちとにこやかに話してはいるが、白雪姫様がかなりイラついていらっしゃる!


 声は……聞こえてこないようだ。


 もしかして射程距離みたいなのがあるのかな? 例えば、声が届く距離じゃないと聞こえてこないとか。


「遠藤、ドリンクバーのおかわりに行かない?」


「あっ、うん」


 近藤が俺の肩を叩いた。


 それは今考えることではないか……。今はこのカラオケをどう乗り切るかを考えよう。

 



※※※




「遠藤、携帯の番号交換しない?」


「えっ」


 ドリンクバーに行く途中、近藤が俺にそんなことを言ってきた。


「私、今まで趣味が合う友達っていなかったから嬉しくってさ。携帯でも良いからおススメの映画教えてよ」


「了解」


 断る理由もないので、その場で近藤と携帯の番号を交換することした。


「あっ、交換したこと誰にも言わないでね」


「えっ? なんで?」


「だって、男子と交換したって知られたら変に勘ぐられそうじゃん。私、他の男子の番号は知らないし」


「へぇ~」


 話せば話すほど意外な一面が出てくる。近藤のことは陽キャだ陽キャだと思っていたがすごく親しみが沸いてきた。


「遠藤君よ、この前もそうだけどその興味なさそうな返事はやめたほうがいいと思います」


「善処します」


「しないやつだ」


「大丈夫、言う友達はいないから」


「半分笑えないやつじゃん!」


「むしろ笑ってくれ」


「ぎゃははは」


「わざとくせー」


 近藤が笑いながらドリンクバーに向かって行った。


 友達ってこういうのを言うのかなぁ……。


 冗談を言い合えるし、異性と話すときの距離感を全く感じない。


 昔は白雪ともこうして――。



(ムカムカムカムカムカムカ)



 ……後ろから死を感じる気配がやってきた。


「私もおかわり!」


 やっぱり白雪だ。


「いや俺に言われても」


「私のドリンクバーも持ってきて! りんごジュースが飲みたい!」


「ここまで来たんだから自分で行け」


「やだ! 私のも持ってきて!」


「ワガママが過ぎる」


 なんやねんこいつ。急にわけ分からんことを言い始めた。


「あれ? 白雪?」


朝陽あさひ、私もジュース飲みたい!」


「飲めばいいじゃん」


 その通り過ぎて何も言えねぇ。近藤もきょとんとしてしまっている。


「私だって……! 私だって!」


「「私だって?」」


 近藤と声がダブった。白雪の真っ白な肌がほんの少し紅潮している。


「な、なんでもない」


「いや、気になるし」


 近藤のツッコミが入った。


 お、俺には分かるぞ……。


 これは毒吐き一歩手前の雰囲気だ。


 告白された先輩に毒を吐くならまだしも、近藤に毒を吐くのは非常にまずい。間違いなくクラス中にそのことが広まってしまう。


「分かったよ。一緒に持ってくるから」


 俺は白雪からグラスを受け取ることにした。こんなしょうもない争いごとはまっぴらごめんだ。


「わ、分かればいいのよ!」

(うぅ、ワガママ言っちゃった)

 

 声が聞こえてきた。ちゃんとその自覚はあったのね。


「りんごジュースだからね! 間違えたら殺すから!」

(私だっててる君と仲良くしたいのに……)


 うぅ、頭がぐちゃぐちゃしてくる。


 本当にこの声は白雪なのか……?


 口から出ている言葉と違い過ぎていまだに半信半疑だ。


 でも、声が聞こえてしまっているので俺も思ったことを言わないといけない。


「い、いいか! 俺もお前と仲良くしたいと思っている! それに近藤と友達になれてとても嬉しい! 近藤めちゃくちゃ良い奴だし!」


「「え?」」


 今度は白雪と近藤の声がダブった。

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