第4話 ズルくない?
「なにもないなら良かった」
「いや、なにかはあったんだけどね」
流れで白雪と一緒に登校することになってしまった。こんな風に白雪と登校するのは本当に久しぶりだ。
「どういうこと?」
「まずお前がうちに来たことが大事件だ」
白雪はうちで朝ごはんを食べていった。なんならしっかりおかわりもしていた。
終始、うちの母親は久しぶりに白雪に会えて大喜びだった。
「私が来たら迷惑ってこと!?」
「そこまでは言ってないだろ!」
この妖怪猫かぶりめ! クラスでは絶対そんな反応しないだろう!
と、思ったが本人には絶対に言わない。
言ったら絶対に毒を噴射される。
「久しぶりにおばさんに会ったけど元気そうね」
「あの人はいつもあの調子だよ。白雪の――」
「ん?」
「……いや、何でもない」
「気になるじゃん」
危ない、余計なことを聞きそうになった。
「ところで昨日言っていたお礼の話なんだけど」
「えっ!? まだその話終わってなかったの!?」
「だって私の気が済まないから」
こんな性格だったかなぁこいつ。
子供の頃は、俺がゲームで勝っても遊びで勝っても「えへへ、
俺は対抗心のないこいつのことをつくづく面白くないやつだと思っていたくらいだ。
「いいよ、本当にそこまでのことしてないし」
「むっ、なによこの私がお礼をしてあげるって言っているのに」
(うぅ、言い方が良くなかったかなぁ……。そもそも朝、家に行っちゃったのを怒ってるのかも)
うーん……。
この声が聞こえてくるタイミングって一体なんなんだ。
全部が全部聞こえてきているわけじゃないと思うし、直接顔を合せないと聞こえてこない気がする。
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
「本当!?」
「そう言わないと納得しなさそうだったから」
「その偉そうな態度ムカつく」
(やったぁ! やったぁー!)
よし、一旦その誘いにのろう。
これはこの声を確かめるチャンスかもしれない。
※※※
「遠藤、昨日はごめん」
「へ?」
教室に着くと、すぐに隣の席の近藤に声をかけられた。
「ど、どうしたのさ!?」
「昨日のこと本当に悪かったなって思って」
「悪かった?」
「これは言い訳になっちゃうんだけど遠藤にも声かけようと思ってたんだよ。席が隣だからいつでも声かけられるかなって思ってたら――」
近藤が今にも泣き出しそうな顔で俺に謝罪をしている。
どうやら真の陽キャは性格も良いらしい。
むしろあの態度を取ってしまったら責められるの俺のほうなのに。
「大丈夫だよ、全然気にしてないから。むしろ、こっちが空気悪くしてごめんていうか……」
「ううん、ああいう流れは私も良くないと思ってた。遠藤がはっきり言ってくれて助かった」
うぅ、またしても罪悪感が。あれはただ白雪の心の声らしきものに反応してしまっただけなのに。
「遠藤って思ったことはっきり言ってくれるから本当に助かる」
「どこが!?」
「入学したばっかりの頃、私にこう言ったの覚えてない?」
●●●
「隣の席の
「よろしく」
「遠藤君はどこの中学校なんですか?」
「三中だけど……」
「え? どうしたの?」
「同級生に敬語使うのおかしくない? 呼び捨てでいいよ。それに気を使って無理矢理話題作ろうとしなくていいから」
●●●
「遠藤ってちゃんと自分がある人なんだなって思った」
「めんどくさかっただけだよ。俺、人と話すの得意じゃないから」
「でもこうして私と話してくれてるじゃん」
「それは――」
「私、遠藤と友達になれて良かったと思ってるよ! これからも宜しくね!」
「友達ぃ!?」
えっ、俺って友達がいたんだ。ちょっぴり嬉しい。
「うん、今日はそれが言いたくて! 昨日そればかり考えちゃって寝付けなくてさ、あははは」
何度も言うが真の陽キャは性格が良い。
思ったことをはっきりと伝えてくれるのは近藤の方だ。
……。
……。
……俺、ズルくないか?
心の声が聞こえているかもしれないのに、自分だけなにも言わないなんて。
※※※
「あんた、ちょっとこっちに来なさい」
「何故に!?」
「話があるから」
お昼休みになるといきなり白雪に呼び出された。
その様子を見て教室がざわめき出す。
「遠藤が白雪さんに呼び出されている」
「昨日のことじゃね? 遠藤、白雪さんに喧嘩売ってたから」
喧嘩は売ってないってば! ただ思ったことがぽろっと口から出ちゃったんだって!
「大丈夫? なにかあったら相談にのるからね」
近藤がこそっと俺に耳打ちをしてきた。相変わらず距離が近い。
「大丈夫だとは思うけど」
「なに二人でこそこそしてんのよ」
「い、いや……」
「とりあえず教室出ましょうか」
「うん」
言われるがまま白雪の後をついていく。
今度は一体何があるんだ。既に嫌な予感しかしないんだが。
(ムカムカムカムカ)
非常に不穏な音が聞こえてきている。
完全に噴火する前の火山だ。
火口からはマグマではなく猛毒が溢れ出そうとしている。
「白雪さんこんにちは」
「白雪! 今度遊びに行こうね!」
それにしても高校入学してからまだ一ヶ月も経っていないのにすごい人気っぷりだ。白雪が廊下で誰かにすれ違うたびに挨拶されている。
……本当に綺麗になったもんなぁ。
“白雪”が名前負けしていないって相当だと思う。
昔を知っている身としてはやや複雑。身近な存在だった子が、自分の知らない誰かになってしまった感がある。
まぁ唐揚げを美味しそうに頬張っているところを見ると、実はそうでもないんじゃないかなって今は思えたりもするけど。
「もっと背筋を伸ばして歩いたらどうなのよ」
「いや、みんなに注目されているから恥ずかしくて」
「そんなこと気にしてるの? きもいんですけど」
(私だって恥ずかしいんですけど……)
また声が聞こえてきた。
やっぱりズルい……。
人の思っていることが聞こえているかもしれないなんてあってはいけないよ。
確かに白雪の本心を知りたいと思ったけどこんなのダメだ。こんなの不公平だよ。
ハッピーエンドってみんなが幸せになるからいいんだろう……?
自分だけが得する展開を言うわけではないじゃん。
なら、俺はどうすべきなんだろう。
「……」
「遠藤? どうしたの?」
俺はその場で立ち止まった。
「……俺、お前に言っておきたいことがある」
陰キャでオタクな俺だけどズルはしたくない。そこを間違えたら自分の中の最後の芯みたいなものがなくなってしまう気がする。
不公平だと思うなら不公平でないようにしよう。
こいつの心の声が聞こえてきたと思った時は……。
――俺も思ったことをはっきり言葉にしよう。思ったことをはっきり伝えよう。
「俺、お前のことは綺麗になったと思っている」
「ふぇ!?」
「俺、お前のことは可愛いと思っているからっ!」
「ふぇえええ!?」
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