第3話 嘘つき彼女は俺に言う
「え?」
「正直、困っていたから助かった。だからありがとうって言いたくて」
「……」
珍しく白雪が俺に毒を吐かない。素直にお礼を言っている。
やっぱり幻聴が聞こえてきている!
「でも勘違いしないでよねっ! あんなの自分で言えたんだから!」
「はいはい……」
「あんたなんて大ッ嫌いなんだから!」
(本当は大大大好き!)
俺は頭がおかしくなったらしい。白雪が俺に愛の告白をしている。
「ま、まぁ~、でもあんたに借りを作るのは嫌だし。今度お礼をしてあげてもいいよ」
「そんなの別にいいよ……」
「それだと私の気が済まないって言っているの!」
(やだやだやだ! お礼したい! 絶対にしたい!)
「……」
あ、頭がくらくらしてきた。情報量に脳みそが追い付いていない。
「ごめん、今日は疲れちゃって。帰ってもいい? それに予定があるんでしょ?」
「う、うん……」
「お礼の話は次の機会でいい?」
「も、もちろ――じゃなくて! 体調は大丈夫なの!?」
「寝れば治ると思うから」
「じゃ、じゃあ今日は暖かくして寝なさいよっ!」
「そうする」
今日は早く帰って休もう。
明日になればこんな幻聴は聞こえてこなくなるよな……?
※※※
「ポテチを持ってっと」
リビングにある110インチの大型テレビの前にお菓子と飲み物を持ってきた。
ソファーの横にはいつもで寝れるように毛布を完備。この大画面で映画を見たり、ゲームをしたりするのが楽しいんだ。
「
「ごゆっくりどうぞー」
母さんが出かけていった。
毎週金曜日、近くの公民館ではママさんバレーが行われている。それにうちの母さんは参加している。その日は大体母さんの帰りが遅くなるので、羽を伸ばせるチャンスの日でもあるのだ。
「はぁ……」
とりあえずホラー映画でも見ることにするか。でもホラー映画ってバットエンドが多いんだよなぁ。
「……」
テレビの電源を付けて、ボーっとその映画を見る。
いきなりゾンビが現れて街で大暴れしている。
……あの声はなんなんだろう。
あいつ俺のこと好きだったの?
いやいや、ないない。
幼馴染とはいえクラスのマドンナがそんなはずあるわけがない。口から出る言葉とのギャップがありすぎる。
「はぁ……」
また溜息が出てしまった。
自己嫌悪で死にそうだ。
友達すらいない俺が、まさかクラスであんなことを言ってしまうなんて。
しかも自分に都合よくあんな声が聞こえてくるだなんて。
確かにあいつの本心を知りたいとは思っていたけど……。
今日、布団に入ったらしばらく悶えないといけないやつだ。何年後にふと思い出して急に叫びたくなるやつだ。
「あっ、終わっちゃった」
ゾンビが謎の化学兵器であっさり全滅した。
見事なご都合展開である。現実でこんな都合の良いことは絶対にあり得ない。
「うーん……」
沢山考え事をしたら眠たくなってきちゃった……。
今日はもうそのまま寝ちゃおうかな――。
●●●
「えっ? 白雪のお父さんとお母さんって離婚するの!?」
「うん、私のお母さんどこかに行っちゃうみたい……ぐすっ」
「そ、そんな」
「お父さんとお母さん、ずっと私のことで喧嘩してたもん」
「……」
「私、いらない子だったのかなぁ」
「そんなことないっ! 絶対にそんなことないよ!」
「えっ?」
「だって白雪はお父さんとお母さんに名前をつけてもらったんでしょう!?」
「う、うん……?」
「童話の白雪姫って最後は絶対に幸せになるんだよ! だから――」
●●●
ピンポーン
「んぅ……」
玄関の呼び鈴で目が覚めた。随分、昔の夢を見た気がする。
「あら~! 久しぶりじゃない!」
「お、お久しぶりです」
母さんが誰かと大きな声で話している。
「パッと見、誰か分からなかったよ~。こんなに綺麗になっちゃって!」
「恐縮です。
「えっ?
「昨日、調子が悪そうだったので」
うるさいなぁ。朝から母さんのテンションが高い。もう少し寝かせてよ、まだ寝ていられる時間――。
「
「なんでやっ!」
思わず飛び起きてしまった。一気に目が覚めた。
なにがどうしてあいつがうちに来るのか!?
「やばいやばい!」
よく考えたら昨日お風呂にも入ってない。こんな姿、あいつに見られるわけにはいかないぞ。
「
母さんが余計なこと言っている。
「じゃあお言葉に甘えさせていただきます」
白雪も遠慮しろっていうの! こんなところクラスの誰かに見られたら大変なことになるぞ!
急いでリビングの寝床を片付ける。こんな自堕落なところ見られたらまた毒を吐かれるに違いない。
「
「う、うん」
「あっ、ちゃんと起きてる」
白雪がリビングに来るまでになんとか毛布だけは見えないところに片付けた。
うちの母さんはこういうところが雑なんだよ。大雑把なO型は年頃の男女の距離感を全く分かっていない。
「ごめん、急にお邪魔しちゃって」
「い、いや……」
「昨日、調子悪そうだったから大丈夫かなと思ってさ」
濃い緑色のブレザーにチェックのスカート、胸元には落ち着いた赤色のリボン。決して着崩すことないその制服は見事に白雪の性格を現わしていると思う。
一方の俺、無地のTシャツにジャージ。多分、寝ぐせもついている。
ものすごく恥ずかしくなってきた。
「具合は大丈夫?」
「そもそも大したことなかったから」
「そっか、じゃあ良かった」
昨日の謎の声は聞こえてこない。やっぱりあの声は幻聴だったんだ。
「白雪ちゃん、朝ごはん食べていかない?」
「い、いえ! そこまでは結構です! 朝からご迷惑おかけしてすみません」
「えぇ~、ちょっと他人行儀じゃない? 昔は毎日遊びに来ていたのに」
「それは……」
(いきなり食べていけって言われても困っちゃうよぉ……。ただ心配で来ただけなのに)
……。
……。
前言撤回、また声が聞こえてきた。
どう考えても白雪の声だ。
俺には白雪の心の声が聞こえてしまっている。
「いいから、いいから! 白雪ちゃん、唐揚げ好きだったでしょう?」
「朝から揚げ物は食べられないですよ……」
(唐揚げ!? やったぁー!)
嘘つきじゃん! めちゃくちゃ喜んでるじゃん!
俺はつい白雪の顔を覗き込んでしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます