第16話 増え続ける視聴者


「ほんと、ゴーシュさんって規格外ですよね」


 ミズリーがそんな言葉を発したのは、S級ダンジョン《青水晶の洞窟》の入り口から進んで間もなくしてのことだ。

 ゴーシュの討伐した魔物は既に50体を超えており、それに対しての呟きである。


「そんなに持ち上げられると恥ずかしいが。モスリフで農家をやっている時も魔物駆除はしてたし、それで慣れてたのかな。ハハ……」

「ここに出現するのはS級ダンジョンの魔物なんですけどね」


 ミズリーが指摘を入れると、配信を視聴していたリスナーたちもそれに続く。


【ミズリーちゃんがツッコむその気持ち、よーく分かるぞ】

【さっきから斬りまくってるの、危険度B級以上の魔物ばっかりなんですが(白目)】

【拙者、剣には自信があった方だが、今日で消え失せたでござる】

【マジゴーシュさんパネェっす!】


【同時接続数:62589】


 気づけばゴーシュたちの配信を見に来ているリスナーの数も6万を超えていた。

 立ち上げ間もない配信ギルドが叩き出す数字としては異例の視聴者数である。


 と、ゴーシュたちの前にまた新たな魔物が現れる。

 入り口付近で倒したブラッドウルフよりも更に多い数。


 小型有翼種の中でも上位を誇る魔物、スティールバットの大群である。


【めっちゃいっぱいいる!】

【数多くね? ざっと見ても20匹以上はいるぞ】

【さすがに大剣だとキツいか?】

【さすがS級ダンジョン、ヤバい敵が多いな】

【これは逃げても仕方ないですわね】


 リスナーたちが慌てふためくのも無理はない。

 群れをなしたスティールバットは別名、死のコウモリとしても恐れられている凶敵だ。


 通常は、剣などの対単体戦に特化する武器では相性が極めて悪く、複数体を処理できる攻撃手段――例えば魔法などを扱える者がいないと苦戦必至とされる魔物である。


「今度は数が多いな」


 鋭い牙をむき出しにしながら襲い来るスティールバットの群れを注視し、ゴーシュは大剣を前方に構える。


 そして――。


「四神圓源流、《枯葉散水かれはさんすい》――」


 ゴーシュが呟いた後、無数の線が走る。

 それは洞窟内の青水晶の光に照らされた剣閃で、スティールバットを一匹、また一匹と両断していく。


【おおおおー!!!】

【スパスパスパッ!】

【はっや!?】

【大剣のスピードじゃないw】

【ゴーシュさん、どんだけ技あるんすかw】


【ゴーシュ殿、私はマルグード領の領主ケイネス・ロンハルクである。どうか私のところの騎士団に加入してもらえないだろうか。ゴーシュ殿であれば騎士団長の座を任せてもよいと思っておる】

【A級冒険者のシグルド・ベイクだ。俺のパーティーに加入してくれないか? というか剣教えて】

【また領主いるじゃんw A級冒険者までw】

【大剣オジサン、勧誘がやまない】

【これだけの逸材、そりゃみんな欲しがるわなw】


 そうしてリスナーたちがコメントを打ち終える頃には、スティールバットの群れは一匹残らず斬り刻まれていた。


「ふぅ……」

「はいはーい。今のゴーシュさんの技について解説しまーす!」


【またきたw】

【待ってました】

【ドヤ顔で眼鏡を着けてるミズリーちゃん、てえてえ……】

【解説モードのミズリーちゃん、推せる】

【絶対準備してたよなこの子w】


「ミズリー、またやるのか。けっこう恥ずかしいんだが……」

「配信ですからね。リスナーの方々にも分かりやすい方が良いかなと!」

「それはそうかもしれないが……」


 ミズリーの勢いに押され、ゴーシュは頬を掻くことしかできなかった。


「今ゴーシュさんが使用したのは連続で斬撃を繰り出す技ですね。上段からの斬り落とし、返しで切り上げ。少し変化をつけて袈裟けさ斬りからのまた返しで右斬り上げなどなど。普通はやろうとしてもただの連続攻撃になっちゃうんですが、一連の動作で行えるゴーシュさんは凄いですよね! あと技名もカッコいいですよね!」


【しかも大剣でなw】

【めっちゃ早口で喋るやんw】

【クックック。確かに技名もカッコいい】


【私も大剣オジサンみたいになれるかな……】

【この配信がリアタイで見れた俺は幸せです】

【ファン登録しました】


「それでですね、この剣技の凄いところは――」


 ミズリーが意気揚々と語っていた、その時だった。


 ――シャアアアアア!


 背後にあった岩陰から蛇型の魔物が飛び出て、ミズリーの喉笛に噛みつこうと牙をむく。

 奇襲にして素早さもあり、常人では対応できない攻撃と言っていいだろう。


「っ……! ミズリー、伏せ――」


 ゴーシュが慌てて大剣を振ろうとする。……が、それには及ばなかった。


「えいっ!」

「え……?」


 振り返ったミズリーが瞬時に腰から剣を抜き、無造作に払う。

 蛇型の魔物はその身を両断され、呆気なくその身を転がすことになった。


「もう。人が解説しているのに失礼ですね」

「……」


 ミズリーは事もなげに言って剣を収めたが、その様子を見ていたリスナーたちは大興奮だった。


【うぉおおおおお! ミズリーちゃんすげぇ!】

【何者なのこの子w】

【ミズリーちゃんも強いのね……】

【この子と大剣オジサンのコンビ、最強じゃね?】


「あ……、皆さんありがとうございます。でも、私はゴーシュさんの配信を見て剣を覚えた感じでして。まだまだ見様見真似なんですが……」


 ミズリーは自分を称賛するコメントに照れながら謙遜する。


 その様子を見ながらゴーシュは、なるほどそれはS級ダンジョン攻略に臆さないわけだよなと、深く納得したのだった。


【同時接続数:76919】


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