第15話 大剣オジサンの強さの秘密
「やっぱりゴーシュさんは凄いです! あれだけの魔物をいっぺんに倒しちゃうなんて!」
「お、おい、ミズリー」
ゴーシュが大剣を振るい、ブラッドウルフ5体をまとめて倒した後のこと。
ミズリーは興奮冷めやらぬ様子でゴーシュに駆け寄った。……ばかりでなく、ゴーシュの手を掴んでブンブンと楽しげに振っていた。
【ミズリーちゃんの喜びようが心に染みる】
【くっ……! ミズリーちゃんに手を握ってもらえるなんて羨ましいぞ大剣オジサン】
【ほんと純粋やなぁこの子】
【なんかこの二人見てるとほっこりするわ】
【分かる】
「ミズリー。喜んでくれるのは嬉しいんだが、今は配信中だからな」
「と、そうでした。ついうっかり」
ミズリーが照れ隠しに舌を出して笑うと、その様子にまたリスナーたちが熱狂する。
天然でこれをするのだから、ミズリーもまたゴーシュとは違う意味で配信者に向いているというものだ。
「皆さんも見ましたか? ゴーシュさんのカッコ良いところ!」
【おう! 攻撃は見えなかったけどな!】
【本来、大剣って攻撃速度が劣るのが弱点なんですけどね!】
【マジで結果は凄いとは思うんだけど、過程が見えないのよw】
【魔法で視力強化とかできる奴なら見えるかも?】
「ふむふむ。確かにゴーシュさんの攻撃は凄いですが、速すぎて何をしたか分からないという人が多いみたいですね」
ミズリーはリスナーたちのコメントに目を通し考え込む。
「それでしたら、私が解説しましょう! ゴーシュさんの強さの秘密について!」
「え……?」
ビシッと人差し指を立ててミズリーがリスナーたちの関心を惹きつけた。
かと思うと、どこから取り出したのか眼鏡を装着し、ミズリーは解説モードに切り替わる。
ゴーシュはといえば、これから自分のことを語られるのかという気恥ずかしさから固まるしかなかった。
「コホン。まずですね、ゴーシュさんが扱っている武術についてです」
【ほう?】
【武術ってことは剣以外もいけるってことか】
【そういえば一昨日の別配信でも剣無しでナンパ男を撃退してたね】
【大剣オジサン、ドレッドワイバーンの攻撃も見切ってたからな。あれも武術の一種か】
「ですです。ゴーシュさんの習得している武術というのは、かつて獣人族のみが扱えるとされた、《
ミズリーは眼鏡に手を添えて、得意げな顔で語る。
「よく流派の名前まで知ってたね、ミズリー」
「ふふん。ずっとゴーシュさんの配信を追いかけてきてますからね」
そういえば1万回以上は見たと言っていたなとゴーシュは思い当たり、乾いた笑いを浮かべた。
【でもさ、大剣オジサンはどこでそれを習得したんだ?】
【それな】
【誰かに師事してたとか?】
【拙者でも習得できなかった武術でござるのに……】
「確かに《四神圓源流》を扱える人は現代にはいないとされていますが、理論は残っていますからね。獣人族が配信したものの中に《四神圓源流》の理論を伝えている動画があったので、それを見たんじゃないかなと思いますが、いかがですかゴーシュさん?」
「あ、ああ。その通りだ。とある獣人族の老師が配信しているのを見て、それで知ったんだ」
「なるほど。でも、それを習得するのにはかなりの努力をされたのではないですか? 誰も理論を再現できなかった伝説の武術と言われていますし」
いつの間にかインタビュー形式みたいになっているなと、ゴーシュは頭を搔きつつも答えることにした。
「まあ、何というか……。朝の運動にちょうど良さそうだな、と。それで、健康のために毎日やっていたんだが」
「え?」
【は?】
【は?】
【はい?】
ゴーシュの答えにミズリーだけでなく、リスナーたちも戸惑いの反応を見せる。正確には戸惑いというより「何を言っているんだこの人は」という反応だ。
「えっと、ゴーシュさんは朝の運動で《四神圓源流》を習得しちゃったんですか? 伝説の武術なのに?」
「そうなる、のかな……。そう言うと凄く恐れ多いことをしてたような気持ちになるけど……」
【それは草】
【大剣オジサン、朝の運動で伝説の武術を習得していた模様】
【体操代わりかよw】
【創始者もビックリだろw】
【本当にすごい。おじいちゃんでも再現できなかった武術なのに……】
【ゴーシュさん、アンタすげえよ】
【天才現るw】
リスナーたちが呆れとも羨望とも取れるようなコメントを流していくが、それも無理はないだろう。
ゴーシュが言っているのはそれだけ非常識なことだった。
「はは……。さすがゴーシュさん。で片付けて良いのか分かりませんが、うん。そうですね、さすがとしか言いようがないです」
ミズリーがずれ落ちそうになっていた眼鏡をかけ直し、気を取り直す。
「とにかく、先程ゴーシュさんがブラッドウルフに放った《
「ああ。《四神圓源流》は体術や剣術、槍術に斧術といった物理的な攻撃手段に応用ができるから」
「なるほどなるほど。それでは、この後のダンジョン攻略でもゴーシュさんの色んな技が見られるかもしれないですね。皆さん、これは注目ですよ!」
「は、はは……」
ミズリーは上手く締めくくって、リスナーたちにウインクしてみせる。
そうして、ゴーシュたちはS級ダンジョンの攻略を再開することにした。
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