No.6 年末年始の練習《友香》(2)

 わたしはお正月に関してはインカレの練習があるということで、韓国行きを断念して一人で家にいることが多かった。

 家にいるときはずっとアニメと紅白と好きな番組の録画を見て、大晦日と元日を過ごしていたんだ。


 その間も簡単なストレッチをしたり、軽くジョギングをしたりして体力を温存したりしているんだ。


 それと初詣に行こうと誘われて近所の神社で参拝してスマホゲームのなかでニューイヤーイベントの限定ガチャを貯めていた石とチケットで回しまくっていたら、推しの限定SSRが出てきて狂喜乱舞したりしていた。


 でも夕方になると大きな地震が北陸があったと速報が入って、かなりの被害が出ていることなども知られてきた。

 それを見て大丈夫かと思いつつも、何となく遠い記憶に遭った震災のことを思い出した。


 翌日のお昼から練習があってインカレ出場者が多くて、なぜか舘野たての美樹みきちゃんと島浦しまうら蒼生あおいくんがこちらに来ている。

 全日本であって以来だったけど、オフな感じで練習をしているのが見えた。


「あけおめ、友香ゆかちゃん」

「あ、おめでとう」

「どうしたの? 美樹ちゃんたち」

聖橋せいきょう学院は三が日はやってないから、今日はここで練習」

「明日は普通に出発だから、大変だよね」

「うん」

「そうだよね」


 今日の練習は東原ひがしはらスケートセンターを拠点としている三つのクラブの大学生スケーターが貸し切っているので、懐かしいメンバーが多くなっているんだよね。


「今日の練習って大学生が貸切してるんだよね」

「うん」

「あ、かおるくんと栞奈かんなちゃん。久しぶりだね」

「久しぶり~」


 市ノ瀬いちのせ栞奈ちゃんは乃木のぎ学苑がくえん女子大にいることもあって、普段は会うことがグッと減っているスケーターなんだよね。

 おっとりとした校風にも合っているようで、とても楽しそうにどんなことをしているのか確かめているみたいだ。


 みんな全日本以来の集合だったんだけど、みんなが最終調整を行っていることが多いんだ。

 それからすぐに楽しそうな雰囲気ができていて、まるで小学生の頃に戻ったような気持ちになる。


 それと聖橋学院からも美樹ちゃんと蒼生くんは大学のアイスアリーナが三が日は閉鎖していることもあって、年始の練習はしばらくこちらでやっているんだよね。


「蒼生と美樹ちゃん。久しぶりじゃない? このメンバーで練習するの」

「そうなんだよね、これでみっちゃんもいてくれたらね」

「あ、今日来てるよ」

「マジ? うれしいわ! インカレには出ないんでしょ?」

「うん、でも滑りたいって話してたよ」


 そう言いながら練習着に白いスケート靴を履いた碧峰あおみね美智みちちゃんがこちらにやってきた。

 いまでもきれいに滑るのを何度か一般営業で見たことがあるんだけど、そのなかで色んな話をしていることが大きいかもしれない。


 でも、部活のときは一回転ジャンプを成功させていたりすることがときどきある。

 それを見てとても楽しそうに部活に参加しているなと思ったりしているんだ。


 これから四年生になって忙しくなるから、後輩たちに引き継いでいる項目も多くなっているらしい。

 来年、四年生になる佑李くんたちは進路はどうするんだろうなと考えている。


 大学卒業と同時にフィギュアスケートを引退して、社会人になることも珍しくはない。

 でも、あの三人は普通に卒業しても現役でやっていきそうな気がするし、トップスケーターの人でもそう言う人は多い。

 滑るのは部活のときに滑っているくらいなんだけど、その上達スピードがとても速かったんだよね。


「みっちゃん。ジャンプは跳ばなくてもいいよね」

「うん」


 みんなが練習をしているときにみっちゃんは氷の上でタブレットを持って撮影している。

 わたしはというとトリプルルッツ+トリプルトウループを成功させてみると、次に栞奈ちゃんも同じジャンプを跳んでいるけどステップアウトすることが多いみたいだ。


 フリーの『ジゼル』の第三幕が流れてくると佑李ゆうりくんが悲痛な面持ちで滑り出しているのが見えた。


「すごい、速っ」

「あの異次元だなぁ……すぐにトリプルルッツだね」

「勢いに乗ってるなぁ」


 そのスピードに乗って滑っていくのが見えて、とてもかっこいいかもしれないと感じだ。

 表現力がとてもすごいというか、本当にアルブレヒトが乗り移っているように見えた。

 その後に佑李くんがトリプルアクセル+シングルオイラー+トリプルサルコウの三連続ジャンプを跳んでいるのがわかる。


「アルブレヒトが乗り移っているよなぁ」

「うん」


 そこからはジャンプを抜きで滑っていくことが多くて、みんなが話しているのが大きい。

 同じ曲を使っているのが多くて思わず振付の確認をフェンスの前で滑ろうとしていることが多くなっている。

 そのときにみっちゃんも似たようなことをしているのが見える。


「ふふ、友香ちゃん『ジゼル』使ってるんでしょ? とても良くなってるね」

「え、見てたの?」

「テレビでね。振付、アレン・ローレンスなんでしょ? すごい似合ってた」

「みっちゃんはジゼル踊るときはどうしてた?」

「わたしは子どもだったし、それぞれの良さがあるプログラムで良いよ」

「わかった」


 そのときに清華せいかちゃんがトリプルアクセル+シングルオイラー+トリプルサルコウをきれいに降りれそうだったけど、氷に弾かれてしまってステップアウトという状態になっている。


「清華ちゃん。もう練習は終わりにして、スケーティングを中心にして」

「はい」

 その光景を見て美樹ちゃんも驚いているのが見えたんだ。

「ヤバくない? トリプルアクセル、跳べてるし、サルコウの三連続ジャンプって」

「ミーリツァのやつだよね」

「そう」


 そんな話をよそに清華ちゃんがステップとかを中心に練習を始めているのが見えた。


 わたしはジャンプの回数を抑えることでケガを予防するため、これからはスケーティングとスピンを中心とした演技に必要な構成を練習していくことにした。


 ここからトリプルルッツ+トリプルループを跳ぶ佑李くんがセカンドループをチャレンジしている。

 トリプルループ+トリプルループとトリプルフリップ+トリプルループを降りている。

 さらにはトリプルサルコウ+トリプルループも跳んでいるのを見て、すごいセンスがあるなと思っている。


 それを佑李くんのスマホで撮影している千裕ちひろくんが無言でそれを見つめている。


「すごい! ケガしないようにね」

「はぁーい」


 そのときに栞奈ちゃんが『人生のメリーゴーランド』、ジブリ映画『ハウルの動く城』で流れてくる音楽を掛けて動き始めているのが見えた。

 ワルツのリズムにどこか悲しげで切ないメロディーに乗せて、一通り滑っていくことが見えた。


 最後の盛り上がる場所では大きく動きながらワルツのステップみたいな顔をしているのが見えて、楽しそうな笑みを浮かべているのが見えているんだよなと考えている。

 最後にみんなでリンクの氷の穴を埋めてから、整氷を楽しそうに話しながら一緒にリンクの建物を出て帰宅することにした。


「みんな、またね」

「お疲れ様~、インカレ頑張ろうな」

「そうだね」


 そう言いながら家に帰って寝て昼過ぎに目が覚めて、スーツケースの荷造りを始めていると、韓国から戻ってきた家族がリビングでお土産を広げている。


「おはよう。友香、ただいま」

「おかえりなさい。お土産、欲しい」

「とりあえず、インカレで手渡せそうな子たちに持って行ってあげて」

「はぁい」


 そのお土産も入れてインカレの行われる群馬へと旅立つことになったんだ。

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