No.6 年末年始の練習《友香》(1)
世界選手権などの派遣選手の会見が午前中にあって、午後からはエキシビションがあった。
練習しているときにアイスダンスで
出演する選手たちが選んできたプログラムで楽しそうに滑っているのが見えていたんだ。
わたしは流行っているアニメの主題歌ではなくて、アイスショーで披露した曲で手拍子をもらって滑っていくのがとても好きだった。
しばらくしてカップル競技のエキシビションとなるとかなり派手になるチームも時々あるんだ。
特にペアの
でも、きっちりとペア特有のリフトもすごくて、みんなが笑顔で踊ったりしていることが楽しいんだ。
いつも試合のプログラムはバレエ音楽とかを使っているから、そのギャップが人気なのかはわからないんだけど恒例になってきている。
「文花ちゃんと俊くんって踊り上手い……すごい」
二人が勢いに乗ってトリプルサルコウを跳んでから、みんなが大きな拍手が聞こえてきているんだ。
舞台袖からそんな姿を見ているときに笑顔で踊る二人を見ていたんだ。
そして、全日本選手権の日程が終わってから数日が経過している。
冬休みにも入って一般滑走のときにも人が多くなってきているなと思うし、人の合間を縫って滑ることが多い。
今日はクラブの練習日で年内最後の貸切練習が始まろうとしているんだけど、今日の練習日はほぼ任意で決まっているんだ。
集まっているのは大学生と近所に暮らす中高生が多めだけど、今日は遅いし選手の年齢層が高くなっているんだ。
これが終わればある程度の時間以外は氷上のトレーニングは減ることになる。
今日は年内最後のクラブ練習が始まろうとしているんだけど、新年まで残り三日くらいあるけど大学生が残って練習しているのには訳がある。
といってもインカレが年明け早々にあるので一月二日に練習をしようということになった。
準備運動をしているときに
「
「おはよう。伶菜ちゃんはバイトなの?」
「ううん、今日は別に疲れてないけど、シフトは入れてなくて。深夜のシフトに入りすぎて、大学の練習までに繋ぎでやってきたけどさぁ」
「もしかして、時給が高くて稼ぎすぎた?」
「それ、バイトはほどほどにしろって言われて……再発しないように努力してる」
「そうだね」
伶菜ちゃんは東原スケートセンターのスタッフとして時間が空いているときにバイトをしている。
主に大学のスケート部の練習が始まるまで受付と点検などを任されているみたいだ。
他にはアイスホッケーのチームにいる先輩の人と他にもいろんな年齢層のスタッフさんで回しているらしい。
ときどき
「でも、逆に推しのグッズを買えるし、とても楽しみだよ」
「そうなんだ。あと
「え、もう別れてるよ。向こうから全日本が終わったときに言われて」
「え!」
「そうだよ。違和感があったから友だちの方が良いんじゃないって」
「意外だな……」
「そんな感じだよ」
千裕くんと伶菜ちゃんはいつものように会話を続けているのが見えて、関係性はあまり変わっていないんじゃないかって思うんだよね。
わたしもそのつもりでいるから一緒の学校として出場するのは初めてだなと思いながら滑る。
「最初の曲、友香ちゃんからね」
フリーの『ジゼル』で曲かけをしているときに清華ちゃんがコーチの陽太くんと一緒に何か話しているのが見えた。
何となくだけどジャンプ構成について気にしているような顔をしているみたいだ。
その次にリンクの端っこで加速して、わたしがリンクの端でスピンをしているときだった。
トリプルアクセル+シングルオイラー+トリプルサルコウがあと少しでできそうな形になっていた。
わたしはそれを気にせずにトリプルルッツ+トリプルトウループを跳んでから、楽しそうな顔をしているのが見えて滑っていけるようになってきた。
ねんざの影響はまだ残っているからジャンプの回数制限をしているし、集中力を高くして滑らないといけない。
そこから次のジャンプはトリプルループ+ダブルアクセルを降りてから滑りきって、これからはスケーティングとスピンを中心に滑ることになる。
そのなかでフリーのなかで四回転サルコウ+トリプルトウループ、四回転トウループ、四回転ルッツの三つを使おうとしている
それと練習ではかなり成功率が高い四回転ループに関しても、ようやく試合でも投入予定らしいという。
この前のグランプリファイナルでフリーでアメリカのハル・ローレンスくんに逆転されて悔しかったんだって。
「そういえばさ、
「そうなの? そういえば、噂になってたね」
「文花ちゃんたちの練習拠点ってどこになるんだろう」
「いつも短期合宿で行ってたカナダのトロントだって言ってたよ」
「そっかぁ。寂しくなるね」
その話をしているときにペアの文花ちゃんたちがカナダへ練習拠点を移すことにしているらしい。
ミラノ・コルティナオリンピックへ行くことを目標にしているみたいだ。
しかも文花ちゃんが大学から通信制で内部進学することを聞いていたので、薄々そうするのかなと思っていたけど。
それから伶菜ちゃんはプログラムを連続的に滑ることをしていくのがすごい。
スケーティングも上手くなってきているけど、もう体力の限界を感じているみたいで氷の上に大の字で転がっているのが見えた。
「はい。オッケー! 伶菜ちゃん、練習は上手くいってるね」
「はい……でも、体力的にはきついっす」
そんな会話をしている中で大西先生に呼ばれて、フェンスの方へと滑っていくんだ。
「友香ちゃんは大丈夫そうだね」
「はい。でも、今年はケガに悩まされてましたけど……来年はケガなく過ごしたいです」
「ジャンプの構成の話に戻るけど、インカレはいつも通りでいいの?」
「はい。安定した演技をしたいので」
「そうか。わかった」
その次に『スケートをする人々』の音楽が聞こえてきて清華ちゃんがトリプルアクセル+トリプルトウループを見事に降りているのが見えた。
その後に単独のトリプルアクセルを降りてからもスピードに乗っている。
ジャンプに関しても曲かけのとき以外のジャンプ練習は極力抑えている。
でも、四回転がなくても余裕を持つジャンプを跳べるから、すごいんだよね。
そのときに保護者の人たちは圧倒されているような気がしていて、ときどきひそひそと何かを話しているのがわかる。
「伶菜ちゃん。四回転の練習を始めてたんですって」
「そうなの」
「でも、友香ちゃん以外はいなくなると思ってた」
「聞こえちゃうよ」
「だってそうじゃない? 全日本ノービスもジュニアも一度しか出てない子が、あんなに活躍できると思う? せいぜい大学生で海外とかオリンピックに行けない星の巡りなのよ」
それを聞くととてもつらくなってくる。
確かにわたし以外はジュニアで全日本に言ったのは一度や二度しかないかもしれない。
でも、それ以上にがんばってきたからそれが言えるんだよ。
それに本人たちが目標にしている場所に行けないとか、言うのは相手のいままで積み重ねてきたことを全否定されているように思えてしまう。
そんな気持ちを持ちながら年内最後の練習を終えることになったんだ。
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