No.5 全日本の頂点へ《清華》(2)

 表彰式までは残り時間があるみたいで、上位の二人がこちらにやってきたんだ。

 上位三名は意外と試合が終わるまで一定の場所で集められることが多い。


「おめでとう、清華せいかちゃん!」

「ありがとう。カレンちゃん、美愛みあちゃんたちもおめでとう」


 衣装を上からジャージを羽織っているのが見えて、ふとホッとして笑顔になってしまう。

 待っていたのは三位の美愛ちゃんと二位のカレンちゃんの二人だ。


 表彰式の準備の関係で時間が空いたときに、カレンちゃんが少しだけ心配そうに声をかけてくれたんだ。


「清華ちゃん。大丈夫? 顔色悪い気がするけど」

「寝不足だったんだよね。ちょっと前まで」

「ああ、そうなんだ。試合前はヤバいよね」

「うん」


 そのときに美愛ちゃんは楽しそうなことをしているようなことが話している。

 ジュニアのトップスケーターだけど全日本ジュニアではなかなか優勝することが難しいみたい。


 でも、十分成績としては優秀な選手ってことは変わらないと思う。


「美愛ちゃんと話すのは初めてだね」

「は、はい。質問しても」

「良いよ。どんなことが気になる?」

「シニアでも四回転が跳べるようになりたいんです。どうしたら跳び続けられますか?」

「う~ん。わたしは美愛ちゃんみたいにジュニアのときはそんなに活躍してなくて、背も伸びててケガも少しあったから。その間にスケーティングとか基礎的なことをコツコツ練習して、できるようになったときはうれしくなるんだ」

「コツコツ積み重なることですか?」

「うん、もちろんジャンプの練習も必要だけど。回数の制限とかはあるよ」

「わかりました! ありがとうございます」

「敬語じゃなくていいよ」

「わかった」


 それを聞いてから何か思い出したようなことを考えているように見えた。

 するとカレンちゃんがこちらにやってきた。


「トリプルアクセル惜しかったね。コンビネーションを跳んだとき、ビビったもん」

「あれね……自爆したと思う」

「ああ、確かにもう一つもでしょ」

「開き直って跳んだら勢いたりなくて」

「惜しいけど、その後の笑顔が怖くてさ。マジで開き直ってるじゃんって」

「でも、ショートの夜に号泣してから変わったかも」

「そうなの? それ、友香ちゃんとかが話してた……大丈夫だったの?」

「コメントとか見ちゃって、アンチの人が書き込みがしつこい人がいて」

「あるよねぇ」


 カレンちゃんも経験している事らしく、似たような経験を普通に共有して対策を聞いたりした。

 しばらくして表彰式が始まろうとしているらしく、係員が呼びに来てスケート靴を履いたままリンクサイドに出て行った。


 リンクサイドで待機しているときに連盟の人たちと一緒に話していることが多い。

 それから表彰式がスタートして、ボレロが会場に流れてきているのがわかる。


 全日本の表彰台に登るのは二年連続なんだけど、今年は何となく悔しさが残ったりしている。

 リンクの上にはレッドカーペットが敷かれて、表彰台が設置されているのが見える。

 そのときに司会の人がマイクを持って話をしているのが見えた。


『これより女子シングルの表彰式を行います』


 そのアナウンスが聞こえてきてから美愛ちゃんの名前が呼ばれて滑っていくんだ。


『三位、黒木くろき美愛みあさん、クリスタル福岡ふくおか


 フリーの音楽と共に美愛ちゃんが嬉しそうに表彰台に登って、みんなに手を振ったりしているのが見えた。


『二位、与那城よなしろカレンさん、スペランツァ横浜よこはま


 そのことを聞いてリンクに彼女が入っていく。

 その後に四回転トウループ二本を跳んだカレンちゃんが滑ってきて、みんなからの歓声が上がっているのがわかるし本人たちも嬉しそうにしていた。


『優勝、星宮ほしみや清華さん、東海林しょうじ学館大学』


 自分もリンクインをしてからはお辞儀をしてから、表彰台の方へと滑っていく。

 そのときに何となく拍手が小さいことがあったけど、すぐにカーペットの上を慎重に歩いていく。


「おめでとう」


 三位の美愛ちゃんと二位のカレンちゃんにハグをしてから、自分で一番高い位置に立って姿勢を正す。


 そのときにカレンちゃんが何となく違和感を感じたような表情をしているのが見えた。


 そこからメダルの授与が連盟の偉い人からもらうことになっている。


「おめでとうございます」

「ありがとうございます」


 メダルを首にかけてもらって、次に小さな花束を手にして握手をする。


 金メダルを取ることはよくあるけど、全日本は初めてだから少しぎこちなくなってしまう。

 次に賞状とトロフィーが一つは三人が一通り行われていた。


 みんな手に一杯持っているなという気持ちになったんだけど、優勝者にはもう一つクリスタルのトロフィーをもらうらしい。


 一つ床に置いて手にするとみんなからの拍手が聞こえてくる。


「それでは写真撮影に入ります」

「こちらを向いてください」

「はい」


 撮影が終わってからリンクを一周くらいして、すぐに大学の人たちがこちらへ駆けよってきた。


「おめでとう! 清華ちゃん」

「みつねえ! ありがとう、がんばれたかなぁ」

「大丈夫だよ。きっと淳也じゅんや伯父おじさんも見てるって」


 いとこのみつ姉は総合十二位で嬉しそうにこっちを見てくれていて、楽しそうな表情をしているのがわかる。


 ちなみに総合順位でジュニアの優凪ゆうなちゃんが四位、彩羽いろはちゃんが六位に、同じ大学の友香ゆかちゃんは七位、西畑にしはた彩瑛さえちゃんは九位、稲生いなせにいる伶菜れいなちゃんが十一位だ。



 全日本が終わってホテルの広間みたいなところに各競技の上位入賞者が集められて、代表についての選考結果が明らかになっているかもしれない。


 シーズン後半に行われる主要国際大会への派遣選手のことだった。

 それからしばらくして会見が始まろうとしている前に連盟の人たちがこちらに来て話を始めた。


 そのときに世界ジュニアの派遣選手のことを言われて、すぐに男女シングルの代表が呼ばれることになった。

 男子が北野きたの悠生ゆうきくん、天野あまの乃蒼のあくん、琴平ことひら陽人はるとくん。

 女子が二宮にのみや椿つばきちゃん、黒木くろき美愛みあちゃん、渡辺わたなべ優凪ちゃん。

 アイスダンスでは全日本ジュニアで優勝した西倉にしくら七海ななみ野田のだ智樹ともき組。

 ペアは上野うえの尋美ひろみ佐藤さとういつき組が条件付きでの出場になっている。


 七海ちゃんは昨シーズンの終わりに再び全日本ジュニアの優勝を目指すことを発表して、シニアデビューせずにジュニアのカテゴリーを選んだ。

 年齢もジュニアでいられる最後のシーズンで、とても嬉しそうに微笑んでいた気がする。


 次にシニアの主要国際大会への派遣について発表があったんだけど、心臓がとてもドキドキしてきている。

 まずは四大陸選手権から発表された。

 男子シングルはたちばな千裕ちひろくん、河野かわのかおるくん、ジュニアの北野きたの悠生ゆうきくん。

 女子は舘野たての美樹みきちゃん、金井かねい友香ゆかちゃん、西畑にしはた彩瑛さえちゃん。

 アイスダンスは黒木くろき優愛ゆあ安島あじまれん組、宮島みやじまえりか・西倉和樹かずき組、四位の大島おおしま亜衣あい・大島瑠衣るい組。

 ペアは伊藤いとう舞香まいか田中たなか翔太しょうた組、早場はやば文花あやか深澤ふかざわしゅん組が選ばれている。


「次に世界選手権を派遣選手についてです」


 男子シングルは神崎かんざき佑李ゆうりくん、島浦しまうら蒼生あおいくん、沼津ぬまづみなとくん。

 女子はわたし、与那城よなしろカレンちゃん、一条いちじょう紫苑しおんさん。

 アイスダンスは二組あるんだけど、一組目ははた琉莉香るりか新島にいじま颯斗はやと組に決まった。

 二組目は今回は実力が拮抗していることもあり、四大陸選手権の結果で発表することになった。

 ペアは伊藤舞香・田中翔太組、早場文花・深澤俊組、条件付きで長谷川はせがわ美浪みなみ小林こばやし翔也しょうや組ということになった。


 条件付きっていうのは世界選手権で出場するために必要な技術点が多いんだよね。

 それを聞いてから会見は翌朝に行われることを聞いて、ひとまず今日はホテルへと戻ることにしたんだ。



「清華ちゃん、誕生日おめでとう!」


 ホテルに入ったときに東原ひがしはらFSCフィギュアスケートクラブのみんなにそう言われて初めて十九歳を迎えたことを思い出した。


 フリーに一極集中していたせいでうっかりと自分の誕生日をすっぽかしていたんだ。


 そりゃ全日本選手権期間中の誕生日だったら、お祝いされることも多いはずだけど……気が付かなかったな。


「ありがとう。忘れてたなぁ」

「じゃあ、明日のご飯で食べようよ」

「そうだね。お祝いはそこにしよう」


 それからわたしたちはホテルに帰って寝ることにした。

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