No.5 全日本の頂点へ《清華》(1)
リンクに入ると最初に練習をしているときに体を動かしながら滑っていく。
六分間練習のときから全日本で感じていたフリーの空気が徐々に変化してきているのがわかる。
いまは
得点のアナウンスが間もなく流れるのか音楽が止んで、モニターにはキス&クライにいる紫苑さんとお父さんが映し出されているのが見えた。
わたしは自分の体を動かしながら、最初のジャンプ三本を気にして踏み切りと着氷の姿勢を意識しつつ動いていく。
「
「
その間にアナウンスされている得点が思ったより低くて驚いてしまう。
紫苑さんの演技でミスが続いて暫定四位になっていることにかなりざわめいている。
モニターの彼女は納得したようにうなずいてすぐにお辞儀をして立ち上がっていたんだ。
もちろんこの時点で一位にいるのは
二位にはジュニアの
三位にはノーミスの
「うん。もう自分ができることを滑る」
「いってらっしゃい」
陽太くんは緊張した表情でこちらを見つめていて、すぐにリンクの中央へと滑っていく。
今日は特別な日なので気合が入ってしまう。
『二十四番、
会場内に拍手が聞こえてきて、声援が聞こえてきて緊張感が張りつめている。
でも、怖くなってきて手足が震えてくるのを抑えたくて深呼吸をする。
このまま逃げ出したいと思ってしまうくらいになることを見ている人には気づかれていないかもしれない。
手を差し出すポーズが最初にあるのに、震えて上手くポーズできるはずがないと思う。
そのときだった。
「清華、がんばれ‼」
その声援のなかにお父さんの声が聞こえてきてハッとして、キス&クライの方から声をかけてくれたんだと思った。
その顔は普段家にいるときと変わらない笑顔をしていた。
ホッとしてポーズを改めてポーズをして最初の音楽が流れてくるのを待つことにしたんだ。
バレエ『スケートをする人々』のバレエダンサーをイメージしているけど、とても楽しそうな笑みを浮かべながら滑っていく。
スケートを楽しみながら勢いに乗って、ひょうたんや他の基礎的なストロークが振付に入っている。
周りの人がどう思っていることはひとまず置いておいて、気楽に最初のジャンプ三本に集中することにしたんだ。
誰かが一緒に滑っているようなエスコートを受けていく間にも、音楽と一緒にリンクを移動していく。
ジャッジ席の前を加速しながらスピードに乗って、目の前の光景がすごい変化していくのがすごい。
風に揺れているスカートも大きくはためいているので、かなりスピードが出てきているなと思う。
今回のフリーの難易度がとても高いから、とても気をつけないといけない。
最初のジャンプは一番成功率の高い四回転ループを勢いに乗って跳びあがった。
ループジャンプは意外と成功率が高い、ほぼ九割跳べるのがすごいと思っちゃう。
一瞬で回りきって、氷の上を降りた感触と後ろへと押し出されていくスピードに乗って滑っていく。
かなり加点がついているかもしれない。
大歓声と同時に拍手も聞こえてきて、スピードを上げてからは余裕をもってツイズルをする。
次のトリプルアクセルのコンビネーションジャンプが鬼門かもしれないと考えている。
公式練習でも、六分間練習でも成功していたりこけたりしているところだ。
思い切りトリプルアクセルを跳ぼうとしたときに、一回転半のシングルアクセルになってしまった。
冷静に次のジャンプでトリプルトウループはタイミングが合わなくて両足着氷になっていて、焦らずに次――三本目のジャンプである単独のトリプルアクセルを跳ぼうと考えている。
もう開き直って跳ぶことの方が気持ちが勝つ。
わたしはすぐにトリプルアクセルをスピードに乗って踏み切って、歓声が上がっているのが聞こえてくる。
跳んだ時点で軸が斜めになっていて、着氷したときに重心が後ろ側に行き過ぎて転んでしまった。
すぐに立ち上がって流れを途切れないように加速していくときに観客席の方から拍手が聞こえてくるのがわかった。
がんばれという気持ちの拍手が聞こえてくると、少し心が軽くなるような気がした。
ここからはもう難しいジャンプはないし、得意な物ばかりだ。
気負わずに跳べば成功する。
そう思うと笑ってしまうのを抑えていく。
きれいに滑るスケーティングを意識しつつ、イナバウアーからのフライングキャメルスピンを始めていた。
ピンと伸ばしているフリーレッグのブレードを掴んで、上から見るとドーナツ状に見える姿勢に持っていく。
わたしはブレードから手を離して、勢いに乗ってトリプルサルコウを跳んだ。
拍手のたびに心臓の鼓動が大きく波打って、心がふとワクワクとした感情がわき上がってくる。
こうなるとメンタルの振れ幅がおかしくない?って思われそうだ。
そこから勢いに降りてからは楽しく滑っていくことができて、すぐに後半のジャンプ構成が始まろうとしている。
最初のジャンプはトリプルルッツ+トリプルループのコンビネーション。
これはとてもいい感じにできて、みんなが歓声が上がっている。
その次にある一番得点源のあるトリプルフリップ+トリプルループ+トリプルトウループがとてもきれいに降りたときの歓声がすごかったんだ。
最初に滑っていったときにはトリプルフリップを降りてからはもうスケーティングだけのエレメンツになる。
最初のステップシークエンスはずっとスケートをしていく姿を表現していこうという気持ちになってきている。
振付師のアレンさんのプログラムで作るステップシークエンスはとても細かいステップと、体の動きがとても動いていくんだよね。
練習のときにもかなりの時間を割くことができているので、みんなが笑顔で拍手をしているのが見えた。
何度も練習していたことだから体が覚えているように動けている。
最後の右足の後ろ向きから入るツイズルを終えてから、次はコレオシークエンスがスタートして片足を上げて滑るスパイラルをしていく。
違う姿勢のイーグルやスパイラルを使ってから、足換えのスピンをしてからレイバックスピンを始めた。
演技をしているときはショートのときみたいな黒い感情が全然出てこない。
でも、あふれ出す前に発散した方が良いんだと思う。
スピンをしてからは何度かその場で演技をしてから、丁寧に滑っていくことがとてもうれしそうにジャッジ席にポーズをした。
拍手が聞こえてきて、それが少しずつ大きくなってきたのが聞こえてきた。
汗がダラダラと流れてくるのを感じて、しだいにトリプルアクセルを全ミスしたことの悔しさがこみあげてくる。
四方にお辞儀をしてからすぐに陽太くんが出迎えてくれて、エッジケースとタオル、ジャージを渡される。
「お疲れ様。アクセル、大丈夫だった? 開き直ったでしょ」
「うん……もう間に合わなくて。ごめんね、ほんとに」
「清華ちゃんらしいよね。お父さんに似てるし、マジで楽しそうに滑ってて」
「そうかな、四回転ループは良かったけど、Totalがなぁ」
「そんな心配はしない。お、これから出るんじゃないか?」
そのときに得点が発表されるのがわかって、すぐにモニターを見ることにしたんだ。
『星宮さんの得点154.41。総合得点236.42。最終順位は第一位です』
それを聞いて順位を聞いて少しだけ驚いてしまって、結果を見てやっぱりミスが続いたことで得点が低くなっている。
そのときにわたしの優勝と世界選手権の代表が内定したけど、目標達成したときのうれしさよりも悔しい気持ちの方が勝ってしまう。
大きく深呼吸をして会場内の拍手を聞いて、それにこたえるように手を振った。
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