No.3 気持ちの変化《友香》(2)
これからフリーが始まろうとしているので、ドキドキしてしまう。
このなかで順位が低いわたしはすぐに滑走順が回ってくるので、朝に行こうとしないといけない。
スタートした第二グループの六分間練習にトリプルルッツを単独で入れてもよさそうな雰囲気があった。
一緒に練習をしているのは大学生やジュニア選手などが多くて、みんなが楽しそうな話をしている。
そこから次にフリーで何度か確認をしてからすぐにスケーティングを確認していく。
最初に跳ぶのはトリプルルッツ+トリプルトウループを降りると、足の痛みは全くない。
「
「三連続ですよね」
「そう」
わたしは後半最初に跳ぶ三連続ジャンプをきちんと練習すると、勢いに乗せてトリプルループ+トリプルトウループ+ダブルループが上手く降りれている。
すぐにトリプルトリプルサルコウを確認してみたり、次にトリプルフリップ+ダブルアクセルのジャンプシークエンスを入れている。
こっちの方が点数も稼げるし、ルール改正された一年前から増えている。
六分間練習が終わってからリンクから降りて、グループ一番目が始まろうとしているのが見えた。
わたしは最終滑走なのでスニーカーに履き替えて体を温めるように動かしていく。
「友香ちゃん。とりあえず振付の確認と腕の上げ方ね」
「はい。コレオシークエンスのあそこですよね。ウィリーになっている」
「そこだね。人ではなく幽霊としての表現だから、極力力はいらない」
その言葉を聞きながらイメージをするときに何かが感情が入るのかもしれないと考えていた。
まだ
全日本で一緒になってから話しかけることが少ないんだけど、子どもの頃みたいな気持ちになってしまうんだ。
でも、彼女とかいるだろうし。
そんな気持ちが『ジゼル』に似た感情になるのかもしれない。
そのときにモニターではいま大阪の子が滑っていくんだけど、笑顔で演技を終えてから楽しそうにお辞儀をしているのが見えた。
しばらくして自分の出番が来るときにはもう気持ちが新しく入れ替わっている。
迷いはない、大丈夫だ。
リンクに入って前の選手の得点が発表されるまではジャンプなどの確認について行う。
六分間練習のときより感覚が遠のいているので、この間にしっかりと滑っていかないといけない。
わたしは衣装の上から着ていたジャージを脱いで、大西先生が笑ってこちらを見つめている。
そのときに前の選手の得点が発表されて、もう時間がやってきてしまったんだ。
「友香ちゃん。いまのできることを滑ってきなさい」
「行ってきます!」
「よっしゃ、いったれ!」
『十二番、
先生とそんなことを言いながらリンクの中央へとスピードを上げて滑る。
アナウンスが同時に流れてきて拍手と声援が聞こえてくる。
「友香ちゃん、ガンバ!」
「がんばれ!」
「ファイト~!」
その声を聞いて緊張しているのか、心臓の鼓動が速くなるけどポーズを取って音楽が流れるまで待つことにした。
流れてきた『ジゼル』のバリエーションを滑っているときに楽しそうな笑顔で滑っていく。
幸せそうな表情で滑っていくなかで最初にトリプルルッツ+トリプルトウループを丁寧に決める。
ホッとした表情で丁寧に滑ろうとしているのが見えて、笑顔で次にトリプルフリップの単独を跳んで振付を笑顔で滑っていくんだ。
それからダブルアクセルが始まってから物語は徐々に変化していく。
そのなかに入れられているジャンプとスピンを次々と成功させていくけど、ちょっと着氷が惜しいところがあったけど難しい演技になる。
恋人と思っていたアルブレヒトが身分の違う貴族で、すでに婚約者がいたことを聞いて狂乱してしまうんだ。
困惑と愛している気持ち、裏切られた悲しみ、怒りなどが混ざっていく。
なんで、アルブレヒトはわたしを愛していたの?
遊びのつもりだったの?
愛しているのに……貴族だなんて知らなかったわ。
こんなに、愛しているのに。
あなたを、ずっと想っていたのに。
そんな気持ちで足換えのコンビネーションスピン、フライングキャメルスピンをする。
勢いに乗って滑っていくのに愛するアルブレヒトの腕のなかへ飛び込むようにトリプルサルコウを跳んで、ジゼルは息絶えてしまい彼女は幽霊のウィリーになってしまった姿を表現するように力のない表現で滑っていく。
まるで人間ではないような姿で滑っていくのがすごい穏やかに滑っていく。
でも、怒涛のジャンプ構成になっているけど、三連続ジャンプは成功したけど次のジャンプシークエンスもぴったりとハマっている。
でも、ここからアルブレヒトがジゼルの墓に来て、幻の彼女と踊るシーンが始まる。
パドドゥのシーンはまるでエスコートされているけど、もうこの世の者ではないジゼルを演じていく。
片足を後ろに上げるスパイラルをしてから、次のイーグルを滑ろうとしているんだ。
このままではアルブレヒトが死んでしまう。
踊り死なせない、愛しているあなたを。
そんな気持ちを抱えながら滑っていくんだ。
そのなかでステップシークエンスは一人で踊るシーンを表現している。
バレエの振付も多いけど、みんなが見てくれているならば関係ない。
もう最後のレイバックスピンを始まる。
最後は笑顔でアルブレヒトを見送ることの方がしっくりくるので、丁寧にステップを踏んでからポーズをした。
そのときに拍手が聞こえて、わたしはハッとお辞儀を四方にする。
「友香ちゃん、すごい」
あっという間だったけど息切れを起こしていることに気がついて、先生のもとへ行くときには足の疲労感とか心臓のうるささが戻ってきた。
「お疲れ様。出し切ったみたいやな」
「ありがとうございます」
呼吸をするたびに変な音が出そうなときに、発作が出そうになるのを抑えながら待つことにした。
たぶん得点が出るまでにはまだならないでと感じてしまう。
気管支が弱いせいか、ときどき発作は出るときがある。
「大丈夫か? 吸引器」
「ある。今はまだ早いので」
映像はリプレイ映像が繰り返し流れてきて、視界にはまだ得点が出なさそうだなと思っている。
早く出てほしいと感じてしまう。
それから音楽と映像が切り替わって自分が映っているモニターに気がついていた。
そのときに流れてきたアナウンスが聞こえてきたんだ。
『金井さんの得点152.78、総合得点212.37』
その声が聞こえてきたときは大歓声が聞こえてきて信じられない。
暫定一位になったことを実感したのはミックスゾーンで取材をされているときだった。
ミックスゾーンの取材に答えて終わったときに一気に気管支ぜんそくの発作が久しぶりに出てしまったんだ。
大西先生は
うずくまりそうになるのを我慢して吸引器と薬を探そうとしているけど、手が上手く探せていない。
小さな頃から気管支ぜんそくを持っていたんだけど、ここ最近は数年に一度しか出てこないくらいだったのに。
ちょうど
「ここなら大丈夫そうだ。
「お、お
「うん」
実はうちのお兄はもともと小学校までアイスホッケーチームにいたこともあり、和樹くんとも仲がいいんだ。
「和樹くん」
「友香ちゃん、吸引器は」
「持ってるよ」
「さすがにしんどいよなぁ」
すぐに吸引器で薬を吸って症状が落ち着いて和樹くんは不思議とホッとしていた。
自分は心臓がドキドキしているけど、それを隠そうとしていた。
「良かったなぁ、フリー」
「お兄、見てたのかな」
「忙しくて見れてないってよ」
「マジ?」
それから和樹くんは嬉しそうに笑っているのを見ると久しぶりに昔に戻れた気がする。
医務室を出るとすぐに急いで取材のゾーンを離れたので、取材は終わっていたのですぐに歩いて更衣室に行こうとしていた。
「友香ちゃん。次に一緒になる試合のときにまた話そう」
「うん。また」
そんなことを言われてとてもうれしくて恥ずかしくなりながらも手を振っていた。
それから更衣室でジャージに着替えてから観客席で応援をしようと感じていたんだ。
「あ、友香ちゃん。遅いよ!」
「ごめん。発作が出ちゃって」
「あ~、久しぶりすぎて戸惑ったのね」
「栞奈ちゃんの演技もうすぐ?」
「終わっちゃったよ~、あと
間もなく伶菜ちゃんの演技が始まろうとしているのが見えて、後半三人連続で東原FSCのメンバーが演技をするんだ。
わたしはすぐに練習をしているのが見えて、楽しそうに話しているのが多くなっている。
『十六番、
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