No.4 勝つのは誰か(2)

 翌日はシニア女子のショートとジュニア女子のフリーが行われている。

 最初がジュニア女子だったんだけど、黒木くろき美愛みあちゃんが無双しているのがすごかった。

 四回転サルコウを見事に跳んでいた彼女はとても楽しそうに滑っているのが見えた。


 表彰台には美愛ちゃんが逆転優勝、二位に優凪ゆうなぎちゃん、三位に彩羽いろはちゃんという日本女子が表彰台に乗っている。

 その次に行われたシニア女子が始まるまでには練習を終えて応援に来ている人が多くなった。


「あ、栞奈かんなちゃん」

「久しぶりね」


 クラブは違うけれど同い年の市ノ瀬いちのせ栞奈ちゃんが来ていたので、最前列で一緒に見ることにしたのだ。


 向こうは乃木のぎ学苑がくえん女子大に通っていて、女子大でおっとりした学生生活を送っているらしい。


 そのときにポイント下位の選手から滑走順が早いので、テレビの表示順に見ると。

 レイラ・スカーレット(アメリカ)

 イ・アリン(韓国)

 キム・ユラ(韓国)

 星宮ほしみや清華せいか(日本)

 ミーリツァ・アレクセイエワ(カザフスタン代表)

 一条いちじょう紫苑しおん(日本)

 このような滑走順なので複数人で出ているのは日本と韓国だけになっている。


「この滑走順さぁ、清華ちゃんヤバいんじゃない?」

「そうと思うよね。一番滑走の方が気が楽だって聞いているから」

「うん。大丈夫だと思いたいんだよね」


 そのなかで清華ちゃんはいつものようにトリプルアクセルを跳んでいるのが見える。

 六分間練習が始まっているんだけどトリプルアクセルを武器にしているのがアリンちゃんとトップ3だ。

 そのなかでトリプルルッツ+トリプルループを跳んでいる清華ちゃんはフリップでも試している。


「良さそうじゃない?」

「うん。わかる」


 どっちにするかは不明だけど、どうせ後半で組み込んでくるのでえげつない点数になりそう。


「清華ちゃん、ジャンプ上手くなってない?」


 清華ちゃんのジャンプは跳びあがってから軸を作り、回転を開始するのが遅いタイプだ。

 ディレイドジャンパーなのにきれいに回転不足なく降りてくるのはすごい。

 その後にイ・アリンちゃんがトリプルアクセルに挑戦しているのが見えた。


 その間に紫苑さんは豪快なジャンプを跳んでいるけれど、次にミーリツァちゃんがトリプルアクセルを降りている。

 六分間練習を終えてからレイラちゃんの演技が始まってから競技が始まった。


 わたしは少し家族からの電話で外に出ていたので、どこまで滑っているのかがわからないので焦った。

 すでに競技は後半の三人が滑ろうとしているのが見えているんだ。


「清華ちゃん、始まるよ!」

「危なっ、間に合った」


 テレビの向こうからは中国語で名前が呼ばれた後に英語で呼ばれた姿があった。

 緊張しているのか表情が硬いまま、滑っていくのが見えるので心配になってしまう。


「清華ちゃん、がんばれ!」

「ガンバ!」


 紺色から濃いブルーへのグラデーションがきれいな衣装を着て、ゴールドのストーンや刺繍がされている。

 ノースリーブなんだけどロンググローブをはめているのでドレスを着ているみたいだ。


 スケーティングもいつもよりスピードが出ていないように感じているけど、トリプルアクセルへと軌道を滑っていくのが見える。

 クラリネットのソロから始まる『ラプソディー・イン・ブルー』が流れてきて、上品なイメージを感じながらトリプルアクセルを踏み切った。

 でも、それがパンクしてしまって着氷しているのが見えて、本人は驚いた表情で滑り続けている。


「あ、パンクした……」

「ヤバくない?」


 その次はトリプルルッツの入り方だったんだけど、上手くタイミングが合わないのか転倒してしまっている。

 清華ちゃんの滑り出すときのスケーティングはあまり伸びがないのがわかった。


 それを見て二年前の全日本を思い出してしまう。

 ジャンプを全部ミスってフリーにギリギリ進出することができた日だ。


 でも、それから二年経って清華ちゃんのスケートを見ていても動揺しているようには見えない。


 その後のスピンはレベルを取っているし、加点もついているから十分だ。

 ステップに入るときに勢いに乗せてスケーティングがいつものように戻ってきた気がする。


 難しいステップを入れたプログラムなのに楽しそうで、会場内からも拍手が聞こえてくるのが見えたりしている。

 その後にスピンを終えてからは残るジャンプを決めるしかないという表情をしている。


「次のジャンプは決めてくれ!」

「うん」


 その後に彼女が得意としているトリプルグリップ+トリプルループのコンビネーションを降りることができている。

 加点がここで一気に高くなって技術点が高くなっているような気がする。


「すごいね! がんばれ」


 最後のスピンで難しいポジションに変更したなと思った。

 ビールマンスピンがかなり軸が細くなっているように感じた。


 プログラムを滑りきった清華ちゃんの表情は悔しそうで、ジャンプの跳び方を確かめたりしているのが見えた。

 初めてのグランプリファイナルで大歓声だったら、とても気にしてしまうかもしれないと考えてしまう。


「惜しかったね」

「うん」


 得点は68.86、かなり点数は低いんだろうなと感じてしまう。

 でも、まだ挽回できる余地があるんだろうと思っている。


 その後の歓声が聞こえてきて次の滑走者への声援がすごいことになっている。


 ミーリツァ・アレクセイエワちゃんが滑ろうとしているのが見えて、本人も緊張しているようで深呼吸をして太ももを叩いたりしている。

 新しい衣装なのかキラキラが増したチュチュタイプの衣装を着ているんだ。


 王道なプログラムが流れてきてバレエの振付を入れながらブラシュアップされている。

 高難度のジャンプ構成を完璧に終えて、高得点を叩き出して余裕の一位になっていたの。


「うわぁ~~~~~ヤバい」

「これを逆転するのは無理でしょ」

「うん」


 最後に残されているのは紫苑さんでとても楽しそうに踊り始めようとしているのが見えた。


 新しい気持ちにさせてくれるロック調の曲に乗せて楽しそうな笑みを浮かべて滑っている。


 彼女の得点は僅差でミーリツァちゃんを抜いて一位になっているのが見えた。

 清華ちゃんは四位からの逆転をしていこうと考えているみたいだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る