No.4 勝つのは誰か(1)

 十二月七日からグランプリファイナルの競技が始まった。

 今日はパブリックビューイングじゃないんだけどダンススタジオで見ることになった。


「大学の授業終わったの?」

「うん、終わってる。それじゃあ設営」

「よし」

「軽食持ってきた?」

「うん」

「競技はオンデマンド配信か」

「そっちの方が良いかもしれないね」

「うん。とにかく設営は完了したからね」


 ダンススタジオに来ているのは練習が終わった子たちが集まっているのが見える。

 そのなかには清華せいかちゃんの高校と大学の友だちである久野ひさのさんも加わっている。

 他の競技を応援することはあっても、どうしても時間がズレて見れないこともあるので画面越しではあるけど応援したいと思った。


 ジュニアでは女子が彩羽いろはちゃん、優凪ゆうなぎちゃん、福岡の黒木くろき美愛みあちゃん。男子は京都の北野きたの悠生ゆうきくんが出場している。


 シニアはかなり多い、女子は清華ちゃんと一条いちじょう紫苑しおんさん。男子は佑李ゆうりくんと蒼生あおいくんが出場しているところだ。

 今年日本からはカップル競技で出場組はいないものの、かなり豪華なメンバーだと思う。


 そのなかでジュニア女子では日韓戦となっていてショートでは彩羽ちゃんが一位になっているのにびっくりしてしまった。


 本人は『ウェストサイド物語』のマリアになりきっているし、とても楽しそうな演技をしている気がしていた。

 優凪ちゃんは二位についてきて、三位にはジュニアデビューしたばかりの韓国のユン・チェヨンちゃんがいて驚いてしまう。


「韓国勢も強いな」

「ね、でもライバルが増えていくのはいいことだと思う」


 そのなかで美愛ちゃんは転倒があって四位になったけれど、まだ逆転できる位置にいる。

 それからジュニア男子にはアメリカの岡田おかだ加穂留かおるくんが三位に入っているのと、北野悠生くんが一位になって得点が発表されたときは叫んでいた。



 シニア男子が始まろうとしていて佑李くんと蒼生くんが六分間練習でアナウンスされた。


 対峙するのはアメリカと中国の四回転ジャンパーだ。


 アメリカのハル・ローレンスくんが若手で、すごい勢いに乗った四回転サルコウ+トリプルトウループと四回転ルッツを跳んでいる。

 中国からはベテランのリュウ・ハオランさんが高さのある四回転ジャンプを跳んでいる。

 そして、カナダからはフョードル・ラスキンくんという戦いが始まったばかりだ。

 そのなかで一番目に滑るフョードルくんが四回転ルッツを派手に転倒しているのが見えた。


「すぐに立ち上がるってのもすごいよね」

「確かにね」


 他にも四回転を跳ぼうとしてる選手たちがすごいスピードに乗って滑るのは迫力がある。

 佑李くんは四回転ルッツを武器にしているけれど、得意なのは四回転サルコウ+トリプルトウループを華麗に降りているのが見えた。

 イェジュンはケガの影響もあって四回転は成功率の高いサルコウのみだという。


「うわぁ……ほとんど複数種類で戦ってるじゃん」

「ヤバいね」


 そのまま六分間練習が終わって最初にコールされたのはアメリカのハルくんだ。

 高らかに流れてきたのは『ドン・キホーテ』のパドドゥのメロディーが流れてきている。

 最初に四回転サルコウの単独ジャンプのタイミングをミスったのか、氷上に叩きつけられるように転倒している。


「あちゃぁ。痛そう」

「大丈夫かな」


 すぐに立ち上がってからすぐに加速して次のジャンプを跳ぼうとしているのが見える。

 流れてくる音に合わせた振付をしながらトリプルアクセルを跳んでいたはずなのに、これも軸が曲がって転倒してしまった。


「緊張しているなぁ」

「そうだね」


 そのなかでステップとスピンでレベルを落としたりして、何か感覚を掴めていないようなまま滑っている。

 でも、主人公を演じながら楽しそうな演技をしている。


「あきらめてないね」

「うん」


 そのときに後半になって最後に残しているジャンプを成功させたときに驚いてしまった。

 彼が跳んだのは四回転ルッツ+トリプルトウループという訳の分からないコンビネーションスピンだった。

 四回転のなかでルッツはとても難しい方……それに二本目にジャンプを入れて後半はえげつない。


「はあああああああっ⁉ 何あのコンビネーションジャンプ」

「連続ジャンプえげつないな」

「しかも加点がすごいよ」


 隣にいたたちばな千裕ちひろくんと河野かわのかおるくんをはじめとする男子中高生と大学生が信じられない表情で見ていた。

 速報値の出来栄えの加点がすごい。

 最後の一本で得点源をきれいに降りれているのが見えている。


「やば」


 ノーミスではないけれど『82.05』の得点が出ていて本人は満足していないように見える。


「うわぁ。これノーミスだったら百点台なんじゃ」

「すごいなぁ」


 その後にほとんどが進んでいるのが見えて、上位三名になった瞬間の緊張感がある。

 ファイナル進出した三位は韓国のキム・イェジュン、韓国男子でもベテランの一人だ。


「イェジュンが来たぞ」

「すごそうだね」


 流れてきたのは洋楽の『Last Night』という曲でゆったりしている曲調で流れてきて、とても楽しそうな笑顔で話しているかもしれない。

 その後にラップみたいな韻を踏むような感じがしている。


 のびのびとしたスケーティングをしているのを見ると、何か吹っ切れているなと思う。

 ノーミスで滑り終えて今シーズン初めての百点台を叩き出しているのを見て驚いている。


「やべぇとか言ってるわ」

「聞き取れた?」

「うん」


 その後に滑ってきたのは佑李くん、淡い青のシャツに黒いズボンを着ている。

 左手で指輪が通されたネックレス、右手で左手首につけているブレスレットを握っているのが見える。


 いつも滑るときに行うルーティーンで自然な柔らかい表情でうつむいている。


 流れてきたのは『ラカンパネラ』で日本人のピアニストが演奏しているのを選んだと聞いている。


 いつも聞いているけれど試合になるととてもすごいと思う。


 スピードもそうだけどジャンプの迫力がすごいんだよね、毎回試合が一緒になるとそう思う。

 音が降ってくるような感じがして、ワルツのリズムが入っているように感じている。

 複雑なステップと振付を簡単にこなしていく。


 最初に跳んだのは四回転ルッツ、得意としている武器を高さと幅があるまま降りている。


「すごい」


 その次は四回転サルコウ+トリプルトウループをお手本のように成功させている。

 そこからフライングシットスピンを始めてからいつの間にか後半へと繋がるステップが始まっている。


「こう見るとジュニアのとき、どんだけ荒れてたんだって思うんだよね」

「わかる。あのドンキのシーズンが覚醒したよね。後半で」

「うん。でも、スケートが楽しんでるのを見るとうれしいよね」

「そうだね」


 わたしはそれを見てから二位とは三点差の一位になっている。

 それを見てガッツポーズをしているのを見てから、リンクの向こう側にいる蒼生くんへ拍手をしているのが見えた。


 蒼生くんは『パイレーツ・オブ・カリビアン』で王道な衣装を着て勢いよく滑っていく。

 海賊になりきっている彼は四回転トウループ+トリプルトウループをきれいに降りて、次の四回転サルコウはパンクしてしまったけれど上手くまとめている。


 それを見て楽しそうな演技をしているのが見えた。

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