No.1 人生三度目の中国(3)
翌日の公式練習は何となく調子が悪い。
特にトリプルルッツ+トリプルトウループを降りることができないんだ。
プログラムの冒頭に入れるつもりだったのに、なかなかショートが終わってから跳びにくくなっていた。
「あれ?」
「
無意識に右足首をかばうような跳び方になっているせいで、タイミングとかが違うことでジャンプが成功しないと思っているんだ。
それで後半にはジャンプシークエンスを跳ぶ構成にした。
それを聞いて焦ってしまうことが大きいかもしれない。
「それじゃあ、後半にコンボを詰め込めたら、それしようよ」
「はい」
女子フリーが始まって、六分間練習が始まっていた。
第二グループはかなりレベルの高い戦いになる。
四回転ループを実戦に入れてきた
基礎点はおそらくこのなかでは二人がトップじゃないかなと思っている。
わたしはトリプルルッツ+トリプルトウループを跳ぶのをあきらめることができない。
歓声のなかでトリプルアクセルを成功している紫苑さんへの声援が大きい。
「友香ちゃん、大丈夫?」
「ルッツのコンボ、行けそうです」
そのことを伝えると、先生もうなずいて構成に組み込んでくれることになったんだ。
わたしは白を基調としたジゼルの衣装をきれいに滑っていく。
トリプルルッツ+ダブルトウループにしてみれば安定して跳ぶことができる。
「友香ちゃん、一応この構成で行こうと思う。トリプルトウループは無理せずにね」
「はい」
六分間練習でも清華ちゃんはトリプルアクセルなどの高難易度のジャンプを確認している。
そのなかに四回転ループがほとんど成功しているのがすごいなと思ってしまう。
きれいに降りることができているのでかなりの脅威になるかもしれないと思っている。
リンクにはユミちゃんがフリーを始めようとしているのが見えて、とてもきれいな音楽が聞こえてくる。
昔のアニメで『源氏物語』をテーマにしているものだということは知っていた。
興味があるのであとで調べてみようと思っているところで、ユミちゃんは安定の演技を見せて暫定一位になっている。
次のメグちゃんは『ハイスクール・ミュージカル』に乗せて、等身大の高校生を演じて行こうと思っているんだよね。
衣装は私服みたいでこのまま学校へ通っているだろうなというイメージがつきやすい。
軽やかなステップとジャンプはレベルが高くて、きれいに滑っていくのがすごい印象が強く見える。
そのまま自己ベストを叩き出して暫定一位になっているのを驚いているのが見えた。
「すごい」
「レベルアップしてる」
次が韓国のジヨンちゃんが構成を少し変えて確実に点数を重ねるようにしたらしい。
わたしはイヤホンをしてからは振付を丁寧に確認したり、体を温めるようにストレッチをしたりする。
その隣には紫苑さんがコーチである清華ちゃんの父さんが考えながら見たりしている。
「友香ちゃん、時間やな」
「はい」
ジャージを着てリンクサイドに向かうことにした。
リンクに入ってからは緊張感が張りつめている。
中国語と英語のアナウンスが聞こえてきて、スタート位置に立ってポーズをとる。
流れてきた『ジゼル』のプロローグが流れてくると、儚くて病弱なイメージのジゼルを演じていく。
最初のジャンプはトリプルルッツからのコンビネーションを予定している。
跳んで空飛ぼうとしたけれど、トリプルトウループを跳ぶことができなかったんだ。
落ち着いて考えていく間に技は続いて行く。
悲しげなイメージではなく恋人のアルブレヒトと踊るところがシーンが滑っていく。
わたしが表現するのは目の前にいる彼と手を取り踊ることがとても楽しくて幸せだったということを感じていくシーンだ。
その直後にアルブレヒトが貴族であること、婚約者の存在も知ってしまってショックのあまり命を落としてしまうシーンに入る。
ジゼルがショックを受けてしまうシーンで焦らないで勢いに乗ってトリプルフリップ、トリプルループ、足換えのコンビネーションスピンとフライングキャメルスピンをしていく。
前半最後のトリプルサルコウをきれいに降りることで、ホッとできたのも束の間で未婚の女性の幽霊――ウィリーになってしまう。
体が軽くなったようなイメージで後半のジャンプが三つ連続、ずっと続くんだ。
ジャンプは後半に全てコンビネーションを持っていくという大博打に賭けることにした。
最初はトリプルループ+シングルオイラー+トリプルサルコウでリカバリー。
トリプルフリップ+トリプルトウループを入れて、最後にトリプルルッツ+ダブルアクセルという特異なジャンプシークエンスを入れる。
もともと構成に入れていましたよ的な雰囲気を出して、最後のコレオシークエンスとステップシークエンスへと向かう。
最初がパドドゥで墓を訪れたアルブレヒトがウィリーとなった自分と踊る。
体がない自分が軽い感じで踊っていくことが見えたりしているんだ。
あっという間にフリーをほとんどノーミスで終わらすことができたんだ。
自己ベストでわたしは中国杯を終わらせることができた。
でも、異次元な演技をした紫苑さんが優勝、ノーミスしたものの清華ちゃんが二位になっていた。この時点で清華ちゃんのグランプリファイナルへの進出が確実となった。
わたしは三位で終わらせることができたんだけど、これからNHK杯に向けて頑張らないとファイナルへ進出することができない。
紫苑さんもその大会に進出することが決まっているからだし、現世界女王の舘野美樹ちゃんも一緒だからだ。
「清華ちゃん、ほんとに四回転入れてきたね」
「うん。今シーズンは入れないって決めてたけど、ここで跳ばないと表彰台に登れなさそうで」
「そんなことないよ」
「紫苑さんのレベルが高くてさぁ」
清華ちゃんは悔しそうな顔をしているのを見て、負けることができないなという闘争心がメラメラと出てきてしまう。
「また北京に行こうね。清華ちゃん」
「うん。ドキドキするなぁ」
負けたくない。
その気持ちが再びわき上がってきた。
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