#3 ライバルとの戦い《友香》

No.1 人生三度目の中国(1)

 東海林しょうじ学館大学の学祭が行われている間、わたしと同じクラブの清華せいかちゃんは中国の重慶に来ていた。


 中国に来るのは北京オリンピック以来なので少し懐かしい気持ちにもなる。


 隣には初めて中国に来ている清華ちゃんは何となく周りを見渡しているのが見える。

 周りの人もわたしたちが代表ジャージを着ているので、何かしらの日本代表だろうということは気づいているはずだ。


「清華ちゃんは中国初めてだよね」

「うん。ジュニアでも行ってない国だね」


 日本代表としてグランプリシリーズ中国杯にエントリーされているのは女子で三人だ。


 一条いちじょう紫苑しおんさんと一緒に出場することはかなり緊張してしまう。

 そんな紫苑さんはカナダに練習拠点がある関係で現地で合流することになっていた。


「紫苑さん、よろしくお願いします」

「それじゃあ頑張ろう」

「うん」


 公式練習では滑走順ではなく国ごとで練習を行うことになっている。

 同じ公式練習にはアメリカからはレイラ・スカーレットちゃんが出場していた。


「ハーイ! シオン、ユカ、セイカ」

「あ、レイラ。元気にしてた?」

「うん。最近は調子も良くてね。あと紹介したい子がいるんだ」


 それはアメリカで今年の一月にナショナルで上位に入っていた子だという。

 その子は前にペアスケーターの文花ちゃんが仲良くなったというアメリカ出身の日系人スケーターだったんだ。


「あ、市谷いちやめぐみです。今年十六歳になりました」

「メグちゃんだよね? ペアの文花ちゃんと仲がいいって言う」

「そうです。アヤとはしょっちゅう連絡してる仲なので」


 両親は日本人だけどアメリカで生まれ育ったこともあって、フィギュアスケートで出るならアメリカ国籍を選んだみたい。



 それから公式練習がスタートするまで体をほぐしたりしていくことにしていた。

 練習着を着て靴を履いてから勢いよくそれぞれの選手たちが滑っていく。


 世界ランクの上位になるほどショートプログラムの滑走順が遅くなるため、スケートカナダで優勝した清華ちゃんも後半グループで行う。


 シニアデビューしたメグちゃんはさっき公式練習が終わったばかりだ。


 氷の感触も問題なさそうで、これから試合で使うことになるジャンプを一つずつ確認していく。


 コーチの大西おおにし先生が確認するようにこちらを見て、真剣な面持ちでこちらを見ているのがわかる。


 曲かけを行うというアナウンスが英語で聞こえてきて最初に清華ちゃんが滑ることになっている。

 清華ちゃんのフルネームを中国語読みされるけれど、かなりすごい響きだなと思っているような気がした。


 曲かけをするときに清華ちゃんは本番同様に行う。

 なのでトリプルアクセルからエンジン全開で滑っていくんだけど、これが毎回のように行うからみんなも見慣れるかも。


 でも、今シーズングランプリシリーズ初参戦で優勝しているから、かなり構成を変えてくる選手も大きいかもしれない。


友香ゆかちゃん。構成なんだけど、ルッツ+トウループのコンビネーション、どこに入れる?」

「後半より、前半の方が確実にできるし、リカバリーもできるかもって思うんだけど」

「そうだな。それじゃあ、アクセルを一番目、二番目にコンビネーション、ラストトリプルフリップにしよう」

「はい」


 その後に二人挟んで、わたしが滑る番になるんだ。

 流れてきたのはビバルディの『四季』の『冬』だ。

 ショートに使っていて、最初のメロディーに流れてからダブルアクセルを跳ぶために助走をつけていく。


 リンクのなかでスピードに乗ってジャンプを跳んでから左足を高く維持したまま、きれいにカーブをしていくと次にトリプルルッツ+トリプルトウループを跳ぶ。


 冬の寒さや厳しさを表現するステップシークエンスはきれいに滑っている。


 ショートとフリーはどちらもアレン・ローレンスさんにお願いして作ってもらったんだ。

 今年で三年目になるんだけれど相性はとてもいいんだよね。


 最後のトリプルフリップは転倒してしまったけれど、立ち上がってからプログラムの通し練習を行うことができたんだ。


「友香ちゃん、大丈夫か? 足は痛んでない?」

「はい。足に痛みはないですよ」

「そう。なら良かった」


 その次に滑走順で滑っていったのは紫苑さんがダブルアクセルについて念入りに確認をしたりしている。


「すごい。紫苑さん」


 トリプルアクセルが無くても十分に見ごたえのあるプログラムで、滑っているときにとてもきれいだなと感じる。


 曲かけの途中だったこともあって彼女の踊りがとてもきれいだなと思っていた。

 次にトリプルルッツ+トリプルトウループを跳んだりしてから、次の滑走順へと変わっていったんだ。

 わたしは緊張しながらもいい感触で終わらせることができた。



 オフィシャルホテルに荷物を置いてからすぐに重慶の街を散策するということはあまりない。


 疲れてしまって逆に出るのがおっくうになるというか……何とも言えない気持ちになることが多い。

 学校の課題を終わらせないといけないと考えている。


「あれ? イェジュンだ」


 韓国男子のトップスケーターで世界選手権銀メダリストになったイェジュンは、最近は大学生活もかなり忙しいみたいで連絡を取る頻度は減っている。


 もともと男子のなかではスティーブン・モーガンくんを筆頭にアニメが好きな人が集まっている。

 そのなかでイェジュンはアニメが共通点じゃない唯一の友だちかもしれない。


「どうしたんだろう?」


 LINEの通話で話しかけてくることにしたんだよね。

 このときに自分の言語スイッチは完全に韓国語へシフトチェンジした。


 大学で韓国語の上級者向けのクラスに後期も在籍しているけれど、たぶん簡単すぎて成績は大丈夫かもしれない。


『突然通話してごめん』

「大丈夫だけど。どうしたの?」

『あー……何でもないんだけど。夕食の後で話さない?』

「今でもいいんだけど」

『いや、俺も練習終わったばかりだし』

「そうだね。また夕食後に」

『うん』


 そのまま夕食を食べに着替えて夕食を食べて次に備えることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る