No.4 わずかな差(2)

 表彰式がスタートしていた。

 薄暗いなかで表彰式に三位から紹介されていくのが見える。


 三位には韓国のパク・ジヨンちゃんが入り、表彰台に登って待っている。

 二位には僅差で敗れたカザフスタンのミーリツァ・アレクセイエワちゃんで悔しそうな表情をしている。


『Winner Seika Hoshimiya, Japan』


 その言葉を聞いてからすぐにリンクに入ると、お辞儀をしてから二人にハグをする。


「セイカ、おめでとう」

「ありがとう。ジヨンちゃん」

「セイカ、悔しいけど……おめでとう」

「ありがとう。ミーリツァちゃんも、また会おうね」

「うん。北京ペキンでね」


 表彰式にはメダルと花束をもらい、すぐに国歌斉唱がスタートした。

 国際大会で『君が代』を歌うのは四大陸選手権以来で、何となく北米とは縁があるなと感じていた。


 韓国の国旗とカザフスタンの国旗、そして真ん中に日の丸が上がっていくのが見えて実感できる。

 短い国歌斉唱が終わってからはリンクをウィニングランするように滑っていく。

 多くのメディアの撮影などを行ったりしていくことがとても新鮮だった。


文花あやかちゃん!」

清華せいかちゃん。Congrautlation!」


 女子フリーの前に行われたペアのフリーで早場文花・深澤俊組は総合四位で台落ちしたことを悔しがっている。


「すごいじゃん。舞香ちゃんたちに近づいてきたね」

「うん。今年は二戦目、NHK杯で表彰台に登りたいけど……難しいかも」

「そんなことはないから」


 それから男子フリーが行われていて、日本からは沼津ぬまづみなとくん、平戸ひらと大我たいがくん、最年長の弓原ゆみはら弘毅こうきさんが出場している。

 それぞれショートプログラムは三位、五位、六位となっている。


 でも、四回転ジャンプを得意としている男子選手が多いのか、かなり大荒れな展開になっている。

 氷が硬いのが原因なのかもしれないけど、着氷しても弾かれてステップアウトやオーバーターンすることが多いみたいだ。


 そのなかで安定の演技を見せたのは最年長の弘毅さんで、逆転で表彰台に登っているんだ。

 他の二人はフリーで調子を崩したみたいで順位をそれぞれ下げてしまったみたいだ。


 一方でアイスダンスではシニア三年目で四大陸選手権四位の実力者になっているはた琉莉香るりか新島にいじま颯斗はやと組が出場しているんだ。


 リズムダンスでは80年代のなかからジャネット・ジャクソンの名曲をメドレーにして、ノリノリで踊って四位で本人たちも驚いていた。

 フリーダンスでは打って変わってジャズの大人な雰囲気を醸し出すようなジャズメドレー。

 いつでも挑戦的な演技をしているときに演技をしていたのがヤバかった。


 安定的なリフトと伸びのあるスケーティングがすごくきれいで、レベルがかなり上がってきているみたい。

 総合得点でも僅差で台落ちしているけれど、本人たちは次の大会に向けて頑張ると話していた。


「今年の全日本ヤバいよ。アイスダンス」

「それ、ジュニアでもヤバいよね。グランプリファイナルの補欠三位でしょ? すごいよね」

「そうだね。玲奈れなさんとしゅうさんが引退してからも、バチバチに戦っているもんね」


 ベテランとして日本代表でキャリアを積んでいたカップルである小林こばやし玲奈・二宮にのみや柊組が今季からいない。

 カップル結成二十年の節目に引退してから結婚したことはびっくりしたけれど。

 いまは地元でアイスダンスの育成を行いたいと話していた。



 翌日の午後からエキシビションがあった。

 とにかく初めて披露する曲だったから不安だったけれど、盛り上がっていて良かったと思う。


 わたしは振付を作るのができないから振付をお願いした。

 伶菜れいなちゃん経由で佐藤さとう樹利じゅりちゃんで小中学校の同級生なのでホッとしたんだ。


 かなり運動量があってゴリゴリに踊らないと曲調に合わないから大変なんだ。

 体幹がしっかりしていることとか、ダンススタジオと氷の上は違うからリンクで楽しいことをしている。


 本番は振付練習したときよりうまく踊ることができたかもしれないと感じている。

 薄暗い中で最後にチャレンジしてみたトリプルループ+トリプルループが成功できた。

 そのまま夢みたいな時間が過ぎて行ったんだよね。


 その夜にあったオフィシャルホテルのバンケットルームでは、クロージングバンケットが行われていた。

 わたしは去年の全日本のバンケットで着ていた紺色のワンピースを合わせている。


 髪型は前髪が長くなってきて一つに結えるようになったんだ。

 前髪はおくれ毛をそのままにしておいてもいい感じになるので、すぐにメイクと結び目にポニーフックと言われるシルバーの筒状の物をつけた。

 それとシルバーのネックレスとブレスレットをつけ、ポーチを持って歩いていくことにした。


「清華ちゃん写真、後で送るね」

「ありがとう」


 春日かすがアンナちゃんと由井ゆい穂澄ほずみちゃんがこちらへやってきて写真を撮っていた。

 二人とも全日本で着ていた服を着ているのですぐに見分けがついたんだ。

 アンナちゃんは総合四位、穂澄ちゃんは六位という結果になっている。


「穂澄ちゃん、大健闘だったね」

「うん、それにしてもフリーでジヨンに抜かれたのはショックだったな」

「あれはすごかったよね」

 韓国のパク・ジヨンちゃんがフリーで後半にすべてコンビネーションを固めた構成で、逆転で三位に駆けあがってきたんだ。

「それにしても、清華ちゃんって本当にブルべだよね」

「ああ、肌のことでしょ?」

「うん。めちゃくちゃ紺色とシルバーが似合ってる」

「そうなんだよね。目の色は少し明るいけれどね」

「いいなぁ。大人っぽい印象だね」

 アンナちゃんはおしゃれが好きみたいで、ワンピースを見てうなずいているのが見えた。

「めちゃくちゃ体形にもぴったりだね! このワンピースってスタイルが良くないと似合わない」

「そうかな? これお母さんと一緒に買い物して、店員さんに激推しされたの」


 その後に二人と別れてからすぐにカナダの汐見しおみ恵茉えまさんがこちらに来た。

 彼女は簡単な日本語だったら会話はできるみたいで、英語の方が話しやすいのは文花ちゃんと同じだ。


「あ、恵茉さん」

「清華ちゃん、おめでとう。すごくかっこよかったよ」

「ありがとうございます」

「でも、これから大変。みんなに狙われるよ」

 それは恵茉さんも経験しているから話してくれたのかもしれない。

「勝ちます。今年はファイナルに進みます」

「楽しそう。スケートしているときの顔」

「そうですか?」

「うん。ダティの影響かな? スケート、よく似てるってアレンが聞いてた」

「え、マジですか?」


 アレンって、アレンさんのことだよね。

 同時期に競技をしている人はかなり限られてくるはずなのに、意外と世界を転々として試合をしてたら知り合いが来るかも。


 お父さんのスケーティングに似てきたことはとてもうれしい。

 その反面、どうすればいままで以上に点数を伸ばせるかが気になってくる。


「アレン、またコレオやりたい。今度は新しいジャンルにチャレンジって」

「わかった。がんばって、練習しないとね」

「うん。またね」


 バンケットは終わり、日本へ帰国した。

 次は中国杯に向けて練習が始まる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る