No.3 バンクーバーでの再会(3)

 取材を終えた後に第二グループの四番滑走になっていた。韓国のパク・ジヨンちゃんが待っている。

 流れてきたのは『月の光』、去年の自分が使っていた曲だ。


 淡い青の衣装に身を包んでいるのが見えて、得意なはずのジャンプが転倒続きでかなり点数を落としているのが見えた。

 周辺もざわついていて、同じような気持ちになるみたいだった。


 得点は暫定三位になっているけれど、点数が少し迫っているように思える。

 二位には春日かすがアンナちゃんと由井ゆい穂澄ほずみちゃんの間にジヨンちゃんが入っている感じだ。

 その後の大歓声が聞こえてきて、五番目に地元のカナダ出身の汐見しおみ恵茉えまさんだ。


「恵茉さんが来たよ」


 そのなかで『サウンド・オブ・ミュージック』が流れてきた。


 主人公の女性を演じているのが見え、すごい楽しそうな演技をしているのが見えた。

 オーストリアの軍人のもとに嫁ぎ、雷に怖がる子どもたちに歌で和らげることをしたりとしていた。


 でも、冒頭のコンビネーションが決まってからのダブルアクセルで重心が斜めになって、転倒しかけていたのだろうと感じていたんだよね。

 恵茉さんもかなり調子を崩しているのがわかる。

 あの感覚は意外と硬かったし、ジャンプの着氷の勢いに負けてしまうことがある。


 それからはノーミスでリカバリーなのか、公式練習では入れていなかったトリプルループを完璧に降りているのが見えた。


 それを見てすごいなと思ってしまったんだ。

 得点は思っていたより低くなっていないみたいで、うなずいているけど納得がいってないみたいだ。


 心臓がドキドキと鳴ってしまうけれど、最終滑走には世界選手権で三位に入っているミーリツァ・アレクセイエワちゃんの演技が始まった。


 演技を見るのは四大陸選手権が終わって、世界選手権の演技をテレビで見ていたときだ。

 有名なバレエ音楽『白鳥の湖』が流れてきて白を基調とした衣装を着て滑っている。


 両手を翼をイメージした振付をしながらゆったりとした感じなのにスピードのあるスケーティングだった。


 最初に跳ぼうとしている前に、一度足を上げてからトリプルアクセルを跳んでいた。

 その次に高難度のトリプルルッツ+トリプルループを降りてから足換えのコンビネーションスピンを始めていた。


 それからステップを終えてからはパドドゥという男性とのペアで踊るパートに入った。

 とても幸せそうな笑みを浮かべながら滑っていく姿がある。


 それから最後のジャンプはトリプルフリップ、きれいなフリーレッグの左足が高く上がっていく。

 最後に締めくくるかのようにフライングキャメルスピンをする。


 文句のないノーミスの演技、みんながすぐに立ち上がって拍手をしているのが見えた。

 自分も拍手をして、彼女の得点が出るのを待つ。


「すごい。安定してる」

「本当にね。ミーリツァちゃん」


 それから得点が発表された瞬間、本人は笑顔で喜んでいるのが見えた。


 得点は自分よりも上、最終順位はトップになっていたの。

 ショートは一位がミーリツァちゃん、二位にわたし、三位がアンナちゃん、四位にジヨンちゃん、五位に恵茉さん、六位に穂澄ちゃんが入っている。



 翌日、公式練習が終わって陽太ようたくんとオフィシャルホテルとは違う方面のカフェへと行こうと言われた。


加藤かとう先生が来るらしいから」

「本当! 楽しみだな」


 すると試合のときに身を包んでいる服装で加藤先生がやってきたのが見えた。


清華せいかさん、久しぶりだね。元気にしてた?」

「はい。お久しぶりです。加藤先生」


 一緒にカフェで近況の話ではなく、試合のことでアドバイスをもらっていたんだ。


「四回転が軸を補正するためにバックスクラッチはしてる? 軸取りするための」

「あまりやってないです。たぶん、そうです」

「四回転ループは締めがトリプルと同じタイミングだから、もっと早めに軸を作ろう」

「はい」

「ありがとうございます。先生」

「陽太くんも何人か掛け持ちでやってるのに、よくやっていると思う」


 わたしは懐かしい気持ちになって感じていた。


 加藤先生はバンクーバーのクラブでスケートのコーチとして働いていることがわかった。

 主にジャンプの技術を行うことがメインでかなり忙しいというわけではないらしい。


伶菜れいなさんは元気? 活躍しているのを聞いてるよ。東日本選手権が鬼門だね」

「はい。わたしは中国杯に行く予定なので会えないので」

「そうか、思い出した。シード選手なんだよね。去年の全日本三位だったね」


 それを聞いて納得してくれたみたいだった。

 わたしはシニアデビューしたときはグランプリシリ―ズに出られるなんて思っていなかった。


「その反動でいろいろ言われることもあったりするですけど。気にしない方が楽になりそうです」

「うん。限界になったら、先生とか親御さんに聞くんだよ」

「はい」

「フリー、ジュディと一緒に見に行くからね」

「はい。がんばります」


 それを聞いてから会場へと戻って、六分間練習までを待つことにしたんだ。

 公式練習では加藤先生と陽太くんがアドバイスをしてくれたように、バックスクラッチと四回転ループを体を締めるのを早くするという意識で跳べたんだ。


 でも、トリプルアクセルだけの構成でトップに立てるようにしたいという気持ちがある。


 陽太くんからは四回転を組み込んでもいいのではないかと言われている。

 わたしはそれを聞いて考えが揺らいでいる。


「陽太くん、四回転ループのことなんだけど」

「うん」

「いま、やってみたいです」


 四回転ループを組み込んだフリーの練習は一緒にやったりしているけど、今日は上手くいきそうだなと思ったりしている。


 衣装を着て六分間練習が始まった頃。

 大歓声とざわめきが起きているのが見えた。

 ミーリツァちゃんがトリプルアクセルからの三連続ジャンプを成功させたからだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る