No.3 バンクーバーでの再会(1)

 カレンダーは十月に入って、ジュニアグランプリファイナルへの進出者が確定した。

 女子は韓国三人、日本三人の日韓戦になったことは双方の強い選手が集まっているらしい。


「女子強いね。韓国も」

「層の厚さが出てきたんだ」


 一方で大学生としての大会があった。

 東日本学生選手権、通称東インカレではノーミス合戦の神大会になって聖橋学院大学の表彰台独占は免れることができたんだ。


 わたしもインカレに出場することがいまのところできるかも?な状態、全日本の結果次第では欠場するかもらしい。


 そんななかフィギュアスケートでは先週からシニアのグランプリシリーズがスタートしている。

 スケートアメリカでは西畑にしはた彩瑛さえちゃんが四位、かなり悔しそうでミスが目立っていたと話してくれた。


 わたしはスケートカナダの開催地であるカナダのバンクーバーへと旅立った。

 カナダへ行くのは振付師のアレンさんのもとでプログラムの振付をした以来、数か月ぶりにやってきたんだよね。 


加藤かとう先生、元気にしているかな」

「そうだね。観に来てくれるというのは聞いていたけれど」

「楽しみだな」


 スケートを始めてから昨シーズンまでの約十年間指導をしてくれていた加藤先生が、バンクーバーに移住しているからスケートカナダへのエントリーはとてもうれしかった。

 会えるかもしれないという気持ちがワクワクとなって表れている。


 滑走順は世界ランキングごとに決められていて、わたしは第二グループの二番目と言うことになった。

 バンクーバーの国際空港で関西方面から女子二人がやってきたんだ。


「おはよう。清華せいかちゃん、元気にしとった~?」

「あ、アンナちゃん」


 春日かすがアンナちゃんがこちらに手を振りながらもう一人の子を連れて歩いてきているのが見えたんだ。

 その子がジュニアにいた由井ゆい穂澄ほずみちゃんが少し恥ずかしそうにしていたんだ。


 実は穂澄ちゃんは今年シニアデビューし、グランプリシリーズの選考会も参加していたエントリーは叶わなかった子なんだ。

 エントリーしていた小倉おぐら菜花なのかちゃんがケガの影響で欠場した代わりに回ってきたんだ。


「穂澄ちゃん、久しぶりだね。インターハイ以来だね」

「う、うん……久しぶり。清華ちゃん」


 穂澄ちゃんは中部選手権で圧倒的な強さで優勝しているのが見えたりしているんだよね。

 それからしばらくして公式練習がスタートするような話をしているような気がしていた。


 第一グループには穂澄ちゃんが最初に曲かけ練習を始めていて、流れてきたショートプログラムの曲を聞こえてきた。


「あ、聞いた? ジュニアのペアの二人」

上野うえの尋美ひろみちゃんと小林こばやし翔也しょうやくん? あの二人って解散して、新しいチームができたんだよね」

「うん。長谷川はせがわ美浪みなみちゃんって覚えてる?」

「覚えてる。昔、ペアで佐藤さとういつきくんと組んでた」

「その子たちが入れ替わったの! めちゃくちゃペアが増えて」


 そのなかで日本代表のペアである田中たなか翔太しょうた伊藤いとう舞香まいか組がケガによる影響で、今シーズンのグランプリシリーズの欠場を発表された。


 それから早場はやば文花あやか深澤ふかざわしゅん組が入れ替わるようにエントリーがあり、とても楽しみだと感じているみたいだ。


 NHK杯では長谷川美浪・小林翔也組もエントリーされて、日本は文花ちゃんたちと共に二組出場することになっているんだ。


「文花ちゃんたち、公式練習じゃない」

「そうだね」


 文花ちゃんたちは王道なバレエをプログラムにしている感じがしている。

 ショートプログラムが『海賊』にしたのは良いなと思う。

 フリーは『ジゼル』らしいので楽しみにしていようと考えていた。

 その滑っているのが見えてからは楽しそうなことをしているみたいだなと考えている。



 ショートプログラムの公式練習の番になった。


 リンクに入ったときにすぐに感触がいつもよりも硬いことを知った。

 東京よりも北に位置しているためか、意外と氷の硬さに気をつけないといけない。


 最初に足慣らしをしてからジャンプをシングルから始めて、ダブル、トリプルへと確かめていく。

 なぜか会場内がかなりピリピリしているのには気が付いていて、その方向が二つくらいに分かれているのも知っていた。


 トリプルアクセルのときは少し気をつけて踏み切ってみる。

 氷に弾かれそうになるのを我慢して着氷の勢いに変えていくことができた。


 一度だけ四回転を跳んでみようと思っている。

 毎回試合の氷で跳べるかを確かめてみたかったんだ。

 陽太くんに目配せをしてみると、うなずいているしスピードに乗って滑ることにした。


 四回転ループのコツは勢いと跳ぶときのエッジが正しいこと。

 遠心力の力を少し借りて、右足のエッジで跳びあがっていた。


 速い速度で四回転を回りきって、再び右足に衝撃を感じたけど氷に弾かれて、ステップアウトしてしまう。


「惜しいね。でも、感覚は取り戻せているから。安心して」

「はい」

「トリプルアクセルだけの構成にして、完成度を上げることが今シーズンの目標だね」

「そうだね」


 そのなかで誰かがこちらを見ているような気がしたけれど、誰なのかはすぐにわかって思わず目が合った。


 そこにいたのはカザフスタン代表のミーリツァ・アレクセイエワちゃんだったの。

 同じグループにいて気が付いていたんだけど、かなり気合が入っているみたいだった。


「あれってミーリツァちゃん?」

「そうだな。かなり仕上がってるね」


 今年の世界選手権で三位に入った彼女はオフシーズン中に高難度ジャンプの精度と成功率を上げている。


 特にトリプルアクセルからの連続ジャンプは引退した一条咲良ちゃんが使った三連続ジャンプにもチャレンジしている。

 ミーリツァちゃんはトリプルアクセルを後半に入れ込もうとしているのを見て驚いた。


「ヤバ」


 思わず口にしてしまいそうになっていた。

 曲かけは本番同様に行って、陽太くんからはショートプログラムに関しては、このままの構成で行こうと言われた。


 四回転の精度としては高いまま維持できているようでフリーもそのままにしている。


 もう一度トリプルアクセルを跳ぼうとしたときに、アンナちゃんは『SAYURI』が流れてきて優雅な演技をしているのが見えた。

 その衣装がとてもきれいで着物を忠実に再現しているのがとても楽しそうだ。


「きれい……アンナちゃんの演技」

「そうだね」


 トリプルルッツ+トリプルループを降りてから、ワクワクしたままリンクを降りて試合を待つことにした。

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