No.2 追われる立場(3)
間もなく前の滑走者の得点が出ていて、あとは普通に滑り出すだけだと考えていた。
リンクに入ってからトリプルアクセルを跳ぶことにした。
手足が震えてしまうし、怖いと感じてしまうんだよね。
『二十一番、
「清華ちゃん、行ってらっしゃい」
「うん」
そのアナウンスで静かに声援が聞こえて、わたしは
心臓がドキドキしているけれど、緊張ではなくて恐怖だと思っている。
このなかに自分を嫌だという人も多いかもしれないから。
紺色と青のグラデーションの衣装はノースリーブとロンググローブをつけて滑る。
胸元は金色の刺繍とラインストーンがキラキラと輝いていた。
リンクのジャッジ席よりも右側で立ち止まると、丁寧に明るい表情を作ってポーズを取る。
上昇していくようなクラリネットのメロディーに乗せて、ジャッジにアピールをしてからトリプルアクセルへのジャンプを確かめていくことにした。
トップスピードに入ると勢いと正確な踏み切り方をしていくと、高い加点を行うことができている。
最初のジャンプだし、きちんと跳びたいと思っているんだよね。
後ろ向きから一気に前向きになって踏み切って、回転速度がとても速くて丁寧に着氷していくことができた。
着氷からの片膝をついてのニースライドという繋ぎをしてから、立ち上がってターンをバックスケーティングでスピードに乗る。
そこから丁寧にプログラムの華やかなイメージをしているのを大きく滑ったりしている。
わたしは余裕をもってゆっくりとした動作ができている。
「わああああっ!」
「跳んでる!」
気を抜かずにスパイラルから体をウィンドミルという回転をさせ、トリプルフリップを跳んで着氷が乱れてしまった。
そこからツイズルをして難しい繋ぎを行ったりしていくことが楽かもしれないと感じた。
「大丈夫だ……焦らない」
焦らずにできるだけいい状態でプログラムを終わらせることが重要だと思っている。
失敗して励ますような拍手が聞こえてきてからは、次のスピンに向けて勢いに乗せて姿勢を正す。
最初に軸足じゃない方を頭からつま先まで一直線、T字に見えるような姿勢でスピンをする。
その後に七回転目に入ったときにブレードを掴んで、上から見るとドーナツみたいな姿勢に変化させる。
その後再び回転数を数えてから足をさらに上げるハーフビールマンをする。
スピンを終えてからスパイラルをしてからは勢いに乗せてのステップシークエンスだ。
このステップシークエンスは陽太くんが大西先生と一緒に考えた鬼みたいな難しいステップが続いて行く。
左回りのツイズルとカウンターから入ってから、右足のロッカーなどの難しいステップを組わせている。
かなり難しくてきちんとしたエッジのコントロールをしていないとレベルを簡単に落としてしまう。
難しい入り方をしたりするのは大変ではあるけれど、きちんとしたエッジの使い方ができればいいと思っている。
焦らずに楽しそうに見たりしていることが大きいかもしれない。
ステップの最後を締めくくるようにバックアウトループを出てからは足換えのコンビネーションスピン。
次のプログラムの中で一番得点源の高いジャンプで、基礎点が1.1倍になる。
焦ることのない状態でトリプルルッツ+トリプルループを成功させて、一気に不安要素が減ってからの片足を上げたバレエのアラベスクに似たスパイラル。
レイバックスピンも丁寧に終わらせて、プログラムの最後のピアノに合わせてポーズをとった。
拍手などが聞こえてくるけれど、足がとてもパンパンになっていて棒みたいな感触だ。
汗も滝のように流れてきて、汗をぬぐう暇もなくお辞儀をしてリンクを後にする。
「清華ちゃん、お疲れ様」
「ありがとう。陽太くん、フリップが失敗したかああ」
「ドンマイ。落ち着いてできてたけど、タイミングが合わなかったね」
「うん」
そのときにアナウンスが始まろうとしていた。
『星宮さんの得点68.93、現在の順位は第二位です』
それを聞いて
「ステップシークエンスでレベル落としたか」
「そうだね」
まだまだだなと思いつつも、次のスケートカナダまでの間にどこまでブラシュアップできるかを考えたいと思っている。
わたしはすぐにジャージを着て静かに客席へと向かうことにした。
衣装からジャージに着替えて観客席に向かうと、次のグループの六分間練習がスタートしていた。
次は
最後に登場したのがいとこのみつ姉で最終順位は四位に食い込んでいる。
最終順位は紫苑さん、わたし、
栞奈ちゃんはかなり悔しそうに頭を抱えているのが見えた。
「うわぁぁぁ、七位かぁ。上手く最終グループに残ると思ったのに。フリーでは挽回して見せる」
その宣言を聞きながら次のフリーに向けて頑張ろうと思う。
翌日、女子フリーのときにトリプルアクセル二本を入れる構成で練習をしていた。
四回転抜きでも完成度の高い演技ができるようにしたいと思ったりしている。
公式練習のときに最終調整という形で滑り、体を覚えさせることが重要になる。
最初はトリプルアクセル+ダブルトウループ、そこからトリプルアクセル、後半のトリプルルッツ+トリプルループ、トリプルフリップ+トリプルループ+トリプルトウループの成功率も高い。
フリーになってからはまず栞奈ちゃんがノーミスの演技で一位に入っている。
あとは最終グループの演技がスタートしているの。
何となくみんなの視線が鋭いものになっているかもしれないと考えている。
追われる立場として何度も経験していかないといけないのに、何となく怖いと感じてしまう自分がいる。
でも、そんななかで紫苑さんがトップに来ているので、そっちに意識をしているのかもしれないと思う。
わたしの番になって気持ちがい楽になってきて、体が軽くなった気がしてのびのびと滑ることができた。
自己ベストではないけれど、暫定一位になったのもつかの間紫苑さんにあっという間に抜かれた。
三位には伶菜ちゃんが得点を伸ばして、笑顔で写真を撮っているのが見えた。
ノーミスだったのに二位だったことにとても悔しくて、表彰式では素直な笑顔はできなかった。
「清華ちゃん。東インカレで戦おうね! 絶対に負けないから」
伶菜ちゃんに言われたとき、追われた立場になったんだなと感じた。
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