No.1 初めてのイタリア(3)

 女子シングルのショートも間もなく終わりに近づいている。

 イギリス代表のエリザベス・マッカートニー選手は長い手足を活かした演技で暫定四位につけている。


 その後に滑ってきたのはフィンランド代表のヘレナ・ヴィルタホネン選手で、友香ちゃんと同じ大会に出ていたのが見えた。

 曲は昨シーズンと変えてないみたいで『オペラ座の怪人』でとても難しそうな演技をしている。


 最初のジャンプはトリプルサルコウ+トリプルループのコンビネーションを降りた。

 次のトリプルループは転倒しているけれど、すぐに立ち上がって丁寧なステップシークエンスが始まる。


「きれい」


 きれいなY字のスパイラルはとてもきれいで、思わず拍手をして笑顔になってしまう。


 最後の演技をしたのはきし茉莉まりちゃんで二シーズン前に使っていた『弓使いのリン』だったんだ。


 ノーミスの演技で二位になっていたんだけど、本人も笑顔で手を振ってきてくれていたのが見えた。


 ショートの結果は一位がわたし、僅差でキム・ユラちゃん、イ・アリンちゃん、少し離れてカミラ・ロペスちゃん、茉莉ちゃんと続いているんだよね。



 翌日のフリーでは緊張は全くなかった。

 シニアになっても未だにジュニアの選手みたいな気持ちになる。

 今シーズンは新しいプログラムで滑ることになっているし、フリーに関してはアレンさんが選んだものだ。


 衣装はスカートが明るい水色と緑色を基調にしているような感じがメインだったんだ。

 肩からポンチョをつけたような形の布を入れたりしている。


 音楽は『スケートをする人々』というバレエ演目でとても楽しくスケートをするような振付だ。

 わたしは気持ちを切り替えていきたいと思っているんだけど、何となくそれが切り替えることができない。


 それからアイスダンスを挟んでからシニア女子のフリーが始まろうとしている。

 第二グループの六分間練習がスタートして、最初に四回転ループの単独とトリプルアクセルとコンボとかを確認していくことにしていたんだ。


 トリプルアクセルも両足着氷で今日はあまり調子がないなと感じていた。

 どちらも転倒してしまって、今日は成功率が引くので四回転を封印したいと考えていた。


 予定構成は一番点数が出やすいジャンプにしているけれど、かなりきついと思うと考えている。

 それをコーチの陽太ようたくんと相談してトリプルアクセルの単独とコンボだけにした。

 順番がやってきて、気持ちを込めて滑ろうと考える。


 その間にも順番に演技が進んできているのがわかる。

 スペイン代表のカミラ・ロペスちゃんが笑顔で『コーラスライン』を滑っていくのが楽々と滑っているのが見えたんだ。


 冒頭のジャンプは失敗しているけれど、次にリカバリーも余裕を持ってできる。

 演技力が高くて、コミカルな演技とかが観客を魅了しているような感じがしているんだ。


 カミラちゃんはとてもかわいくて、その中でステップシークエンスとコレオシークエンスをラインダンスみたいだった。

 本人たちは少しだけ納得してないみたいだけど、得点を見てうなずいていたんだよね。


 それからアリンちゃんもダブルアクセルの構成に、ユラちゃんは構成を変えずに完成度の高い演技をしているんだ。

 暫定一位はユラちゃんでわたしの番がやってきたんだ。


「清華ちゃん、緊張しているね」

「ちょっと怖くなってきたけど……大丈夫かな?」

「大丈夫だよ。外野の声は気にしないでいいから」

「でも」

「信じて、良い演技ができるよ」


 深呼吸をしてからアナウンスが聞こえてから、リンクのスタート位置に立って曲が流れるのを待つ。

 振付はアレン・ローレンスさん、春休みとゴールデンウィークを使ってカナダ二行って作ったものだ。


 かなり苦戦したけれど、とてもいいプログラムになっていると感じていた。


 流れてきたのはピッコロの音色が出てきて、最初に滑り出してリズムが決まっているのでトリプルアクセルまでの助走にスピードを上げる。

 優雅に男女がスケートをしている場面が出てくるときに、トリプルアクセルを跳ぶ。

 一層華やかなメロディーが流れてくるとトリプルアクセル+ダブルトウループを降りる。

 次に曲調が変化してきてから、次のトリプルアクセルの助走をつけていく。


 タララララと音の上下が聞こえてからトリプルアクセルを降りれた。

 次のトリプルサルコウも余裕を持って成功してから、フライングキャメルスピン。

 跳びあがってから体を水平にして、回転を始めていくんだ。


 このシーンはアイスダンスをしているような形で、ターンをしていることが多いのでそれをイメージして。

 とても楽しいのをイメージしながら、スピンを終えるとエスコートされているようなジェスチャーをしながらダブルアクセルへと向かう。


 ダブルアクセルを跳んでからイーグルと、体を縦回転させるウィンドミルをさせて滑っていくまでは覚えている。

 そこからは無我夢中でかなりヤバかったと思う。

 得点は一応一位になったことをホッとして、フリーの結果を通路で待つことにした。


 わたしは優勝したことに納得してなかったんだけど、もう結果が出ているけどうれしいという気持ちがあまりわかない。

 表彰式が始まって、二位になったユラちゃんと三位のアリンちゃんが笑顔で見ていた。


「おめでとう。セイカ」

「ユラちゃんとアリンちゃんもね。おめでとう」

「ありがとう」


 メダルを持って写真撮影を行っているときに茉莉ちゃんが手を振っているのが見えた。

 茉莉ちゃんは四位で、手を振ってきているのが見えた。


「清華ちゃん、今度は負けへんからな! グランプリシリーズ、勝負や」

「うん」


 茉莉ちゃんとはグランプリシリーズの中国杯で一緒になる。

 それまでにお互いに負けられないなと考えながら、一緒に空港まで行って話すことになった。


 それからインタビューを聞きながら四回転を跳ぶのかについてが多かった。

 まだわからないこと、今シーズンは温存するかもしれないと話したんだ。

 SNSには試合に出たことを報告する写真と文面を投稿してから、一度飛行機に乗って日本へ帰った。

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