No.1 初めてのイタリア(2)

 自分の出番までは体を大きく動かして、体が委縮しないように温め続けていく。

 イヤホンにあるノイズキャンセリングを使って会場内の音を聞かないようにする。


 そのときにユラちゃんが自己ベストで暫定一位になっているのが見えたんだ。

 その後にアリンちゃんの演技は見ないようにしておこうと思って、ウォームアップを始めようとしていく。


 肩を叩かれる感触があったので振り返ると、陽太ようたくんが準備を始めてほしいと言われた。


 スケート靴を履いてから会場の方へと進んでいくと、歓声を聞きながら笑顔で演技を終えたアリンちゃんが笑顔で滑っている。

 でも、リンクを出たときに悔しそうな顔をしていたから、納得していないような顔をしている。


 そこから最初にジャージとブレードを覆っていたケースを外してから、陽太くんに預けて勢いに乗せてリンクへと入る。


 最初にトリプルアクセルを跳ぶイメージで軽く跳びあがったときに得点が発表されていた。

 本人も納得しているような表情でうなずいているのが見えた。

 大きく深呼吸をしてから陽太くんのもとへと滑ってから、向かい合わせになって話し始めた。


「準備はできてる?」

「うん」

「行ってきな、星宮ほしみや清華せいかの実力は世界でも通用するってね」


 そう言ってハイタッチをしてリンクの中央へと進んでいくことにした。

 アナウンスが聞こえてから気持ちがスッと切り替えられたように感じて、プログラムの始めにするポーズを取る。


 クラリネットのソロが流れてくると振り返ってからジャッジにアピールをして、バックスケーティングでスピードを加速させていく。

 右足から前向きに左足で踏み切ると、回転速度がそのまま着氷の勢いへ変わっていく。


 客席からも大きな拍手と歓声が聞こえることができた。

 思わずホッとしたけれど、次のジャンプに向けて滑り出す。


 ココで『ラプソディー・イン・ブルー』の有名なメロディーへ入ると、オーケストラの華やかな音楽になっていく。

 体がこわばっていたのに力が上手く入るようになってきた。


 振付で一番好きな場所だけど、タイミングが合わない箇所だったから上手くできるかが不安だ。

 バレエのアラベスクと似たような形のスパイラルをしていくのが、得意なスパイラルで楽しく滑れるんだ。


 左足のアウトサイドに重心を掛けて右足を腰の位置よりも高く上げてると、次にインサイドに重心を掛けて滑っていく。

 そこから斜め前にグルッと斜めに体を回転させてから、左足のアウトサイドに重心を変えてトリプルフリップを跳ぶ。


 きれいに跳べてからのイナバウアーと凝っている繋ぎをしてから、跳びあがるフライングキャメルスピンなんだけど。

 バタバタと跳びあがってしまったけれど、ポジションを変化させるのに上手くいかない。


 たぶんレベルが落ちているかもしれないけれど、次のステップシークエンスは楽しいパートだ。

 難しいステップを詰め込みすぎているけれど、それをきちんと正しい位置に踏まないといけない。

 難しいけれどここはピアノのソロパートがあるので、リズムとメロディーを刻みながら滑っていく。


 体がきつくなっているけれど、最後の足換えのコンビネーションスピンを始めていく。

 座りながら滑ってからフリーレッグの位置を変えたり、そこから軸足をまた変えてからキャメルポジションにする。

 そこから足をY字になるように片足を持ち上げてから、スピンが終わってから余裕を持って足を下ろす。


 次にまだ後半のジャンプが待っている。それも、コンビネーションで一番の得点源。

 最初にトリプルルッツを踏み切って成功させると、次にポーンと跳びあがってからきれいに着氷する。

 足がパンパンになってきているなかで、ターンをしてからレイバックスピンを始める。


 軸足じゃない方のブレードを掴んでビールマンスピンを始めていく。

 一応、全部成功しているような形だけど、点数が終わるのが見えたりしている。

 ポーズを取ってから拍手が聞こえてくると、笑顔でお辞儀をしてからリンクを後にする。


「良かったよ。清華せいかちゃん」

「うん……マジできつい。息が」


 息ができないくらいに余裕がない。


 体力には自信があったのに、今回は自信がない気がしてきた。

 陽太くんと最初に振付を練習していたときは余裕だろうと思っていたのに。


 呼吸も落ち着いてからキスクラで得点を待っているときだった。

 ジャージを羽織ると、自分が手にしていたままのエッジケースをはめる。


 そのときにイタリア語で得点が発表されていて、そこには「74.70」という高得点が出ているけれど、レベルを落としているスピンが二つあったんだ。

 正直、高い点数と言うことは十分に理解できているんだけど……納得がいかない。


「う~ん。ステップは文句ないんだけどなぁ」

「清華ちゃん、フリーで挽回しようか」

「はい……」


 汗だくなのをタオルでメイクが落ちないようにそっと拭いてから取材をしていく。

 そのときに気になっている選手がいたんだよね。


 スペイン代表で今年シニアデビューを迎えた十六歳で、アンジェラ・ユミ・ヨナシロちゃんと同じリンクの子だって聞いたことがある。


「あの子って? スペインの子だね」

「うん。観てからでいい?」

「いいよ」


 確か、カミラ・ロペスちゃんだったような気がする。

 モニターにもそう表示されているので間違いではない。

 アメリカで生まれたけど、スケートではスペイン代表として出場している。


 流れてきたのはブロードウェイで有名な『オペラ座の怪人』が流れてきて、白がメインの衣装に手袋が仮面になっている。


 憑依系スケーターだということがわかってから、すぐにトリプルルッツ+トリプルトウループのコンビネーションを早速成功させている。


「すごっ、あの演技」


 クリスティーヌを演じているのが見えてから、これからどんどんうまくなっていきそうな感じがする。

 十六歳とは思えない表現力がすごくて、余裕を持ったジャンプもすごくきれいだ。


 そのまま最後のダブルアクセルを跳ぼうとしているのが見えて、さらにきれいな余裕を持って滑っているのがわかる。


「清華ちゃん、そろそろ戻ろうか」

「うん」


 カミラちゃんの得点が「62.17」、暫定二位に入って笑顔で喜んでいる。

 わたしは暫定一位で第二グループを終わらすことができた。

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