No.2 シニアデビュー(3)
翌日、フリーもエントリーをしているのでこちらも表彰台に上ろうと決めている。
会場の外はショッピングモールがあるところなので、すぐにウォーミングアップをしながら練習をすることにした。
「
「は~い」
新品のジャージを羽織ってからはウォーミングアップを始めることにして、同じ大学に通う
「さらちゃんはどんな曲なの?」
「うちは内緒だよ」
「そっか。仕方ないね」
さらちゃんの衣装は淡いピンクで胸には花の飾りがついているのがかわいい印象だ。
「そういえばさ……
「あ~、確かにね。学校に進学するとか聞いてたけど語学系の」
「そうなんだろうけど、咲良ちゃん元気にしてるかな?」
咲良ちゃんはSNSとかはあまり更新しないタイプなので定期的な近況報告が待ち遠しい。
一般人になっているんだし、普通に過ごしているのかもしれないと考えている。
「ま、それはそれだし。今年こそ、全日本に行く!」
「うん。そうだね」
わたしは白いシャツと紺のスカートのコーディネートみたいな衣装を着て、第二グループの六分間練習がスタートしたばかりだ。
『滑走順に選手をご紹介します。七番、
栞奈ちゃんは近所ではなく、乃木坂にあるお嬢様学校と言われている女子大へ進んだ。
『八番、
去年はケガの影響であまり試合に出れていなかったけれど、かなり上手い選手だから余計に気にしてしまう。
『九番、市川さらさん、
そのアナウンスでかなりの声援が聞こえてきて、たぶん近所だから来た子がいるのかもしれない。
『十番、
『十一番、
わたしは最後なので自分らしく滑ることができるかなと考えてる。
最終滑走の子は棄権が発表されているので、実質的な最終滑走になるのは確実だ。
最初にトリプルルッツからの三連続ジャンプを跳ぶと、拍手と歓声が聞こえてくるのが多い。
練習だとだいたい八割まで跳べるようにしているけれど少し不安なところがある。
次にダブルアクセルを降りてから次のエレメンツへ続く繋ぎの振付を確認していく。
そのときに彩瑛ちゃんがスピードに乗ってジャンプをしようとしているのが見えた。
わたしはフェンス越しに陽太くんと話そうと立ち止まった。
「伶菜ちゃん、ジャンプは問題ないね」
「はい。あと、トリプルループが絶不調なのをどうにかしたい」
「一度跳んでみよう」
「うん」
それからトリプルループを跳ぶために助走を始める。
リンクを一周してからバックスケーティングで左足から右足の内側に重心を置いて、思い切って踏み切ってみた。
三回回りきってから、着氷した瞬間にバランスを崩して手をついてしまった。
「うん、ループはもう一度跳ぼう」
「わかった」
演技構成を変更したりして出番までを待つことにして、さらちゃんが演技をしているのが見えた。
リンクの近くで演技と得点のコールを聞きながら体を温めていく。
『市ノ瀬さんの得点、121.41。現在の順位は第一位です』
栞奈ちゃんの得点が聞こえて着ていた。
そのアナウンスと拍手が起きているので、かなり点数が高いみたいだった。
「やっぱり120点台がボーダーそうだね」
「うん」
それから紗耶香ちゃんがケガからの完全復活を見せた彼女にスタンディングオベーションをして、祝福している人がとても多くて本人も驚いている。
トリプルアクセルがないものの、プログラム全体のきれいさを重点を置いている感じだ。
点数もかなり高く出ていて131.70と十点以上高い点数を出してきて、一気にハードルが高くなっているんだよね。
「紗耶香ちゃん、上げてきたね」
「うん、あの間に入ると思えば。気持ちが楽になるはずだけどね」
「怖いわ」
怖かったのはその直後に滑っていた彩瑛ちゃんだったんだよね。
理由はいきなり大技であるトリプルアクセルを跳んだことにびっくりしてしまったの。
練習していたことは聞いていたんだけど、こんなに完成度の高いジャンプだったんだ。
そこからノーミスで紗耶香ちゃんよりさらに高い点数を叩き出している。
『――140.50。現在の順位は第一位です』
それを聞いて動揺が隠せない。
手足がかなり震えてきてしまって、子どもの頃には楽しそうなことをしているんだよね。
「彩瑛ちゃん、ヤバい」
「すごいなぁ」
わたしはイヤホンでノイズキャンセリングをしながら音楽をかけて踊ることにした。
落ち着いたビートルズメドレーが流してからは振付を確認しながら、陽太くんが呼びに来るのを待つことにした。
ついに出番が来たんだけれど、手足の震えは収まりつつあった。
「伶菜ちゃん、ぶちかませ」
「はい! 行ってきます」
アナウンスと一緒にリンクのスタート位置に立つ。
流れてきたのは『Love Me Do』、とても楽しそうなメロディーが流れてきている。
それに楽しく乗って行くことがとても大事だなと思って、ハーモニカの音に乗って体が自然とリズムに乗る。
リズミカルな曲調を滑っているけれど楽しそうな笑みを浮かんでいることが話している。
苦手でときどき試合でも失敗してしまうようなジャンプも前半にあるけれど、かなり余裕を持って成功することができた。
そこからは会場の手拍子と音楽に乗せてスピンやステップを踏んでいたから、体がいつもより大きく動いている。
後半にはコンビネーションを詰め込んでいるので、体力的にもギリギリななかで滑らないといけない。
姿勢に乗せてトリプルルッツを跳んで、一回転を挟んでからトリプルフリップを踏み切った。
着氷時の加速が勢いに乗ってフリーレッグを上げてのスパイラルをする。
大歓声を聞こえてくるけれど、ジーンと耳に感触が続いていることがある。
その次にトリプルルッツ+トリプルトウループはとても得意なジャンプの組み合わせだ。
最後はダブルアクセル+ダブルトウループをきれいに降りることができて、最後のコレオシークエンスを滑る。
流れてくる『Let It Be』に乗せてイーグルとスパイラルを入れていくような形になっている。
スパイラルのときに足を上げるときにプルプルしていたけれど、我慢して最後のスピンを始めた。
足や持ち上げる手が震えているけれど、雑にならないようにゆっくり回転速度を落としてポーズを取った。
表彰式が終わってわたしは手にしている表彰状を見つめていた。
フリーも二位でまだシーズン初戦だから、これから演技構成点を上げられるような練習をしたい。
しばらくはローカル大会になるけれど、東京ブロックまでにレベルアップしたいと思っている。
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