第27話 再びの出逢い
僕は王都から出て街道を進む。そして脇にそれ、草むらに入り込む。さらに進んで、ぽっかりと穴の開いたような場所にたどり着く。
時間は深夜。満天の星空の下、初春の夜風が身体に心地よい。鼻から一杯に息を吸い込むと、緑の香りに肺が洗われるように気持ちが良い。
地面、草の上に座る。そのままじっとしばらく。
風が、僕の銀髪を撫でてゆく。
――と、人の気配がして振り向く。
長い黒髪に漆黒の瞳の女の子が立っていた。端正な顔が空からの光に照らされて、とてもとても綺麗だ。可愛いという年齢なんだけど、綺麗だと今の僕には感じる。
「初めまして」
僕が声をかける。
すると、女の子はふふっと悪戯っぽく笑って、綺麗な旋律で僕を叱るようなセリフを出してきた。
「何言ってるの。久しぶり」
ニコッと、目を細くして、今度は可愛く笑う。
「そうだね。久しぶり……だね」
「また……私たち、出逢ったわね」
「正直、驚いてる」
「そう? でも、私はまた出逢えると思ってた。それが『運命の対決の時』だと最初は思ってたんだけど、実は『今』がそうだった……なんてオチ」
「ベルフェゴールは?」
「大丈夫。撒いてきたから。いつもは『ボクは魔王の使徒だから勇者の動向は逐一調べてるからね!』――なんて求めもしないのにドヤ顔で耳にタコができるほど言ってきたのが……実はアダになった……というオチ」
うふふと、楽しそうに嬉しそうに女の子――魔王ミツキは、笑う。ベルフェゴールを出し抜くというのが喜ばしいという事もあるんだけど、素直に今の逢瀬が嬉しいんだって、見ていて声をきいていてわかる。
「僕もシロエルに見つからないように抜け出してきた」
「私たち、何度やり直してるのかしら?」
「もう、覚えてない」
「そうね。でも今度は……どうかしら?」
「そうだね。今度はどうかな?」
二人で、目と目でアイコンタクトを交わす。そして僕は立ち上がる。
「明日は装輪の儀。勇者の指輪を填め、勇者のロングソードを授かる日」
「明日は裳着の儀。魔王の指輪を填め、魔王のレイピアを授かる日」
二人で互いを見つめ合って笑みを交わし、手の平を出す。僕の掌には勇者を操る勇者の指輪が。ミツキの手には、魔王を操る魔王の指輪がちょこんと乗っている。
僕がその勇者の指輪をミツキの掌に乗せる。ミツキは空いている手で魔王の指輪を僕の手の上に乗せる。
満天の星の下。風が草原の草木を薙いでゆく。
二人その空からの光に照らされて、萌え出ずる風と木々に祝福されて、ないしょの逢瀬を交わし指輪の交換をする。
神界にも女神にも使徒にも秘密の、二人だけの秘め事。
それは二人の意志の吐露。運命への反逆。そして……情愛の交換。
そして……二人で、どちらから言い出すこともなく、一緒に草の上に座る。
「帰りたくないわ」
「せっかく指輪の交換をしたのに?」
「でも帰りたくない」
「そうだね。ずっとここにいたいよね」
そのまま時間が過ぎてゆく。
二人だけの時間。空間。
「そろそろ……夜が明ける」
「そうね」
「バレないうちに戻らないと……ね」
「そうね」
「あとは、宿題というか課題。僕らにはやるべきことがあるから」
「ええ。あるわね」
二人で立ち上がり、互いの顔を見つめ合ってうなずく。
二人の瞳には、お互いの想いに彩られた力が宿っている。
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