第16話 お茶会と訓練の日々
昼時になる。今日は趣向を変えてティーセットの軽食。
たまにこういう日がある。四人が陣取ったテーブルには、山盛りのスコーン。ケーキ。それから紅茶のカップとポット。
皆で食事前の作法。教会の女神様に感謝の祈りを捧げて『いただきます』。
「それにしても……」
ミツキが少し呆れているという声音を出す。
「私も年並に甘い物は好きだけど……。シャルにはついていけないわ」
「女の子なんですかこの程度の量は当然です。女の子は甘いものが好きなのです。これは常識です!」
ユーヴェが割って入り、俺も続く。
「確かにシャルは昔から食事量は普通なんだが、甘い物はめちゃくちゃ食べるよな」
「そうだね。でもシャル、甘い物めちゃくちゃ食べる割に太らないよね」
「私、栄養は……行くところだけに行くというか。そういう体質というか。そういう意味では、甘いものに愛されてる、のかもしれません」
シャルが、胸とお尻に手を当てて確認する様子。
そしてそのシャルは、上品にそして旺盛に、ティーセットを口に運び始める。
対してミツキは、スコーン一つを口にしてから……食べるのを辞めていた。
「あれ。ミツキさん。口に会いませんでした?」
「いえ。そういうわけじゃないんだけど……。太る……のは……」
「ミツキさんと言えど、年頃の女の子……というわけですね」
「まあ、高レベル魔法でなんとでもなるんだけど……。魔法で誤魔化してる罪悪感的なものはあるから……」
「ミツキさんなら、凄く綺麗なラインだけどもう少しふくよかだと、意中の殿方が放っておかないかもしれませんよ?」
「そう……なの!」
ミツキは、そのシャルの言葉に食いついた。
「そうなのです! ミツキさんの身体のラインは、それはもうすごくバランスよくてカッコよくて綺麗なんですけど、殿方はですね、少しだけふくよかなほうがいいのです!」
「ガーン。しらなかった!」
「お菓子を食べて、ふくよかになって美しさより色気で攻める手もありかもしれませんよ?」
「なる……ほど……」
「殿方は殿方なので、女性の魅力的な部分には抗えないものなのです」
「なるほど……」
「意中の殿方との逢瀬。どうですか? 『その場面』を想像してください」
「…………」
ミツキが、黙り込んだ。
なにやら懊悩している様子が伺える。
「でも……」
ミツキはがっくりと項垂れた。
「残念なことに、無念なんだけど、そういうわけにはいかないの」
「そういうわけってなんでしょうか?」
「意中の殿方とそういう関係になるわけには……いかないわけがあるのです」
「なんででしょうかミツキさん。その年で女性の幸せ捨ててどうするのですか?」
「ぐう……」
ミツキは、冗談なんだか本気なんだかわからない様子なのだが、ぐぬぬと歯噛みしている。
ここは女子会じゃない。
さすがに男子、本人がいる前で婦女子がそういう話をするのは年頃の令嬢の嗜みとしてどうなのか……とは思ったが、二人とも気分よさそうに会話をしている。
こういう場面で割って入るのは火中の栗を拾うことになる。もうこの年の男子で、それを知っている俺は黙っている。ユーヴェも表情には出ているが素知らぬ顔をしている。
まあ、いつも通りの楽しいお茶会なのであった。
◇◇◇◇◇◇
そして放課後。日暮れるまで厳しい剣技訓練が続く。
この時のミツキは授業中や昼食時とは正反対で、全く完全に容赦がない。少しのミスでも容赦なく鋭く指摘される。
厳しく叱咤されながらの実技訓練で、ミツキは教師、師匠としては完璧超人。オンオフの入れ替えは大切なのはわかっている。俺も全力でミツキの期待に応えようと頑張る。
そして夜はミツキの部屋での高等魔法学の勉強。ミツキの出してくれた冷えたアイスティーでのどを潤しながら、放課後の苛烈さとはまた別の真剣さで脳裏を回転させる。
勉学が終わって……
ベッドに二人で横になり、ミツキの体温と匂いに包まれながら眠りに落ちてゆく。
身体を使った厳しい実技訓練と、頭を使った魔法勉強。その疲れを、ミツキがその気配と温度で優しく包んで癒してくれる。
翌朝の寝起き時にはひと悶着あるのだが。
そんな、厳しくて辛くもあるけど満たされた毎日が続いてゆく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます