第15話 翌朝はミツキの部屋からまた始まる

 窓からの陽光に顔を照らされて起きる。


 ぼんやりとした視界。目をこすりながら見回す。


 自室ではない。俺の殺風景な部屋より、もっとなんというか小奇麗で華やかで。昨日忍び込んだミツキの部屋だと思い出す。


 隣を見る。すやすやと、ミツキが横を向いて猫の様に丸まっている。


 壁掛け時計を見ると、朝の八時を過ぎている。起きて学園に向かわないといけない時間帯だ。


「ミツキ……」


 可愛い寝顔の肩をポンポンと叩く。ミツキは起きる様子もなく、「まだ……むにゃむにゃ……」と何かわからない言葉を呟いている。


 流石に時間がまずい。さらに、俺もここから無問題で脱出しなくてはならない。


 少し悪いと思ったが、ミツキを無理やり叩き起こす。起こしてから、あのいつもは泰然としたミツキが実は寝起きが悪いことを思い知る。


「私の無防備な寝顔眺めて楽しんでたでしょ」と何やら不機嫌な様子を見せていたが……。時間が切迫していることを告げると、ミツキは黙って洗顔をして身だしなみを整えて制服に着替える。


 二人して寮から抜け出した。


 女生徒たちが寮から校舎に向かっている。その中を、平然を装ってミツキと二人で学舎に向かう。


 女子ばかりの中に男子が一人混ざっている。それも、学園では有名なミツキ嬢と勇者の俺が女子の中を並んで歩いている。どう考えても……まずいのだが、こういう「密会」的なシチュエーションはわりとあるらしく、女の子の中では邪魔をしないのが暗黙の了解となっているらしく――ミツキが教えてくれた――騒ぎたてる生徒は一人もいない。


 シャルが「おはようございます」と寄ってきた。


 加えて、対面から来たユーヴェとも合流する。


 いつもは男子二人と女子二人が一緒になる流れなのだが、今日は少し変化を加えた合流の仕方で、四人一緒に登校するいつもの場面になった。


「昨日はお楽しみでしたね」


 シャルが、ニマニマとした顔で面白くて嬉しくもあるという顔を俺とミツキに向けてくる。


「そう……なのかっ! もう二人はもうそこまで……。全然気付かなかった!」


 ユーヴェが驚く。間違い、勘違いなのだが。


「そうよ。二人はもうそこまでなの」


 ミツキがそのユーヴェの驚愕を肯定した。俺が否定する間もなく、ミツキの一人芝居が始まる。


『ミツキ、綺麗だよ……』


『そんな……こと。ぽっ』


『ミツキ……。ハルトはミツキに顔を近づける……』


『だ、だめよっ。私たち、『まだ』学園生なのに……』


『そんなことないよ。僕らは『もう』学園生なんだ』


『ハルト……』


『ミツキ……』


『二人は互いに見つめ合い、顔を近づけてそのまま熱いベーゼを……』


 止めるタイミングを逸した俺。シャルとユーヴェはミツキの一人芝居を食い入るように見入っている。


「……って、いい加減に止めなさい、ハルト。恥ずかしいから」


「止める! 止めるからっ! 違うからっ! 全然違うからっ! エロい事なんてなんもない、ただの勉強会だからっ! あと、恥ずかしいなら一人芝居なんてやらなきゃいいのに……」


「あ? なんか言った?」


「いえ、何も言っておりません……」


「寝起きで不機嫌だから、私」


「本当に……。寝起きはダメなんだね、ミツキは」


「あ?」


「いえ。なんでもありません!」


 そんな会話をしながら、四人仲良く王立学園の正門アーチをくぐるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る