第14話 その夜④
ミツキと二人、一緒のベッドに仰向けで寝ている。
肩と腕が触れ合っていて、互いの柔らかい感触と体温を感じる。ミツキの淡い石鹸の匂いが鼻に届いて、呼吸をすると身体の中に入ってくる。
夜着を着ているミツキの隣で、ハダカ……ではないけど下着で一緒に寝ているのは、男としては自然に興奮する、興奮してよい場面なんだけど、不思議とそういう気分にはならなかった。
むしろ興奮よりも、安心と安寧に満たされている。
「ねちゃった?」
耳に小さな音が届いた。
「寝てない」
俺も小さく返す。
うんという、ミツキの吐息が聞こえる。
「なんか、ヘンな事を言うようだけど……」
「うん」
「懐かしい……」
「そう……かもね……」
二人で、天井を見ながら、言葉を交わす。
じんわりと心に染み込んでくるような不思議な場面。
女子寮のミツキの部屋で、二人で勉強した後に一緒のベッドで身体を休めながら、心を交わしている。
「いきなり王国の勇者に近づいて。その勇者を鍛えるとか言い出して。でも確かに鍛えるだけの技量はあって」
「うん」
「不思議で……ヘンな女だって……思ってる?」
「まあ、思ってないことはない」
二人で同時に笑う音が、小さく響く。
「ごめんね。私には私の事情があるの。話す事は出来ないんだけど」
「そう……なんだ……。残念……かも?」
「ふふっ」
今度は、悪戯っぽい音がした。
「ホントに、私個人の事情。でも……大切なコト」
「うん」
「だからハルトには申し訳ないけど付き合ってもらって強くなってもらって。『魔王』を倒して欲しいの」
「うん」
俺は『嘘』をついてうなずいた。
「ミツキに付き合うよ。ミツキに鍛えられて、強くなって、ミツキの希望を叶えるよ。『魔王』を……倒すよ」
「あり……がとう」
ミツキが、本当に嬉しくて感謝しているという声を出す。
「本当に……ありがとう。私の我が儘に付き合ってくれて。そして……」
「そして……?」
「ごめんなさい」
そのミツキの「ごめんなさい」という言葉の意味は分からなかったが、気持ちは伝わった。確かに伝わってきた。
そのまま……
ミツキの寝息が聞こえ始め……
俺もそのミツキの隣で、意識が沈んでいった。
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