第13話 その夜③

 基本的に、俺が一人で本を読むのと変わりない。ただ、隣にはミツキがいて、たまにわからない部分をミツキに尋ね、ミツキはその部分を明確に分かりやすく噛み砕いて説明してくれる。


 ページをめくる。またページをめくる。


 黙々と、理論書に集中する。


 ミツキは黙って見守っていてくれる。


 剣技訓練の様な、細かい指示や注意は出さない。


 怒ることもなく、褒めることもない。


 俺の集中を途切れさせないようにという配慮が感じられる。


 ただ、じーっとした、でも二人だけの落ち着いた時間が過ぎてゆく。


 一章の概論が終わった所で、ふと、隣のミツキを見る。


 両手を組んで、その上に顎を乗せて、目をつむって何かを考えているという面持ち。


 落ち着いていて、感情の乱れはないという柔らかさ。綺麗な長い髪が、横顔から肩へと流れている。


 そのミツキが俺に気付く。


「なに?」と、その柔和な顔で俺に聞いてきた。


「剣技訓練の時みたいに……なんというか、苛烈じゃないというか、落ち着いてるね」


「時と状況に合わせているだけ。剣技訓練ではある意味の厳しさ、苛烈さが必要だけど、学問はハルトを邪魔しちゃいけないから」


「そう……なんだ。確かに俺個人の集中と頭脳の回転が大切ではあるよね。でもミツキがいるから、分からないところは質問できる」


「その為の私だから。黙って隣に座っているけど、ハルトを甘やかしているつもりはないし真剣じゃないわけでもないから」


 ふふっと、ミツキが顔を傾けて笑う。髪がはらりと垂れて、綺麗な流れを形作る。


 ミツキに微笑み返してから、本の第二章に向かう。


 またしばらく……俺とミツキの会話のない時間。でも二人一緒の時間が過ぎてゆく。


 と、ミツキが黙って席を立ち、ややあってグラスを俺の前に置く。


 冷えた紅茶が入っていた。


「今日はここまでにしましょう」


「そう……だね。もう夜半を回って、あまり寝る時間がないね」


「今夜は……ここで休んでいって。男子寮に戻る時間がもったいないから」


「…………」


「大丈夫。ヘンな事はしないから」


「それは俺のセリフ……だと思うんだけど」


 二人して、顔を合わせて笑みを交わす。


「ハルト用の夜着がないわね。私は気にしないから、ハルトは下着でいいわ」


「俺が……気にするんだけど」


「なら、私の夜着を着て寝る?」


「それは……遠慮したい」


 また二人で笑い合う。


 なんというか、気分は落ち着いていて、ここに来るまでのドキドキした興奮とはまた違った満たされた気持ちで。


 疲れていることもあるんだけど、ミツキと……その……男と女の関係になるような雰囲気じゃなくて、もっとお互いの心を大切にしたい、大切に互いの心を抱きしめ合いたいという気分で……


 下着姿になった俺と夜着のミツキは、自然に二人で一緒に広いベッド上に横になった。

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